認知症ケアの達人になれる介護技術と心得え

学習

2025年には認知症の人は700万人、65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されています。夫婦、親、親戚、兄弟、友人、あなた自身がなるかもしれません。認知症は脳の病気です。常識が通じない問題行動が現れ介護者は疲れ果ててしまいます。様々なケースを実践した、今すぐ使える介護技術を紹介しています。

著者 右馬埜節子(うまの・せつこ)

1943年、岡山県生まれ。「認知症相談センターゆりの木」代表、株式会社日本エルダリーケアーサービス執行役員。1933年、中野区役所(東京都)の認知症専門相談員(非常勤)として介護の仕事に入り、2000年の介護保険制度施行と同時に民間事業所でケアマネジャーとして勤務を始める。2003年、自信が担当する認知症の人の居場所として、「デイホームゆりの木中野」を設立。その後、家族介護者の拠り所として「認知症相談センターゆりの木」を解説した。現在は「中野区地域連携型認知症疾患医療センター」の専門相談員を兼務するほか、研修・指導・講演にも携わっている。著書に「認知症の人がパッと笑顔になる言葉かけ」(講談社)がある。

(解説・引用しています)

参考までに

認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン) 厚生労働省→

  1. 認知症の人は健常者と違う世界に住んでいる
      1. 引き算の心得10か条
  2. 「引き算」が上手くいったケースを、介護者が困る行動別にご紹介いたします
    1. 「物盗られ妄想」と呼ばれる言動とそれに似たケース
      1. 「クリーニング」を利用する
      2. 「盗難届」を作成する
      3. ポイント
    2. どこかへ「帰りたい、行かなきゃ」という言動のケース
      1. その人の理由に合わせる認知症の人の「帰らなければならない理由」はくるくる変わります
      2. 張り紙で対応
      3. ポイント
    3. 必要な介助を拒否する言動のケース
        1. 「試供品」「調査」名目で
        2. メリットがあることを伝える
        3. 別のお年寄りのケース
        4. ポイント
    4. 自宅外のサービスを利用してくれない
      1. その人向きの役割をお願いする
      2. 幻視に合わせる
      3. ポイント
    5. 本人と周囲の安全、健康を守る
      1. 火の元が心配な場合
      2. 禁煙に成功した例
      3. 運転を止めさせる
      4. ジュースを使って酒を控える
      5. 異食を防ぐ方法
      6. ポイント
    6. 介護者を入れてくれない
      1. ヘルパーを家に入れてくれた言葉
      2. 知人のように振る舞う
      3. 帰してくれないとき
      4. 家から追い出されたとき
      5. ポイント
    7. 不穏(ふおん)、けんか、暴力を防ぐ
      1. 上手く気をそらす
      2. 暴れている人を止めた行動
      3. 故郷の話題で不穏(ふおん)をなくす
      4. ポイント
    8. 性的な行動をどうするか
      1. 性的欲求をうまく避ける
      2. 特徴を利用して回避
      3. 服を脱ぐのをやめた言葉
      4. ポイント
  3. まとめ
    1. 関連

認知症の人は健常者と違う世界に住んでいる

感謝祭03

認知症は脳の病気です。認知症の人の問題行動は、普通の常識や説明、説得などは通じませんし理解できません。健常者とは違う世界に住んでいます。

介護をする者はこのことをよく覚えておきましょう。
そして、お互いにストレスを減らし、介護が楽にできる方法があります。

それが「引き算」の言葉という「ウソ」、それは現実とは異なる世界の、認知症の人と同じ世界に立つための手段、架け橋であり、「寄り添う言葉」を使った介護技術です。

認知症の本人を「楽にさせる方法」だと割り切ってやってみてください。

引き算の心得10か条

  • ① 積んだ知恵がこぼれてる。「足し算」やめて「引き算」で
  • ② 説得は「ザルに水」の空しい作業
  • ③「生きざま」が教えてくれる介護の手ほどき
  • ④「揺るがぬ言い分」には、負けて勝つ
  • ⑤ 話は短く「点」で一言、長い話は点々バラバラ
  • ⑥「北風と太陽」、無理強いはケガのもと
  • ⑦ 正直者はバカを見る。安定剤は「ウソも方便」
  • ⑧「知恵比べ」、わからず屋には知恵で応戦
  • ⑨「ありがとう」と元気の種を蒔きましょう
  • ⑩「忘れることを利用」、それが優しい関係です

「引き算」が上手くいったケースを、介護者が困る行動別にご紹介いたします

(ケース事例はすべて、プライベート保護のため仮名です)

「物盗られ妄想」と呼ばれる言動とそれに似たケース

不安な高齢者

「クリーニング」を利用する

施設に入居しているシュンイチさん(90歳)の話です。

「勲章を頂けることになった。天皇陛下に会いに行くのでタキシードを出せ!」と興奮しています。職員が「呼ばれるわけないわよ」と言っても、「呼ばれている!」の1点張り。

職員もむきになって、受賞者一覧の載った新聞を突き出して、「シュンイチさんの名前、ここにないでしょ!」と指摘すると、本人を納得させるどころか激怒させてしまいました。

それを見ていた別の職員がすかさず、
「ごめんなさい。余計な事しちゃった。クリーニングに出しちゃったんです。でも、当日までには間に合いますから」
と頭を下げると、「ああ、間に合うのか。それならよかった」ということで治まりました。

「盗難届」を作成する

キヌコさんは86歳、医師の奥さんです。

父親も弟も医師だったせいか、自分が医師だったわけでもないのに気位が高い人です。ホームヘルプを利用していますが、あるとき、「あの指輪がないのよ。あのヘルパーが盗った」と大騒ぎになりました。

家族に確認しても「そんな指輪はありませんが・・・」とのことでした。つまりキヌコさんが指輪を盗られた「つもり」になっているだけなのです。

そこで、「警察に盗難届を出しましょう」と提案してみました。パソコンで盗難届なるものを作成して、署名、捺印は本人にしてもらうのです。

そして「この盗難届、近くの交番に届けておきますね」と言うと、それで納得したのか、以後「盗られた」と訴えることはなくなりました。

ポイント

いわゆる「物盗られ妄想」です。なくなる物は、財布、宝石、通帳、スリッパ、湯飲み、衣服など
多岐にわたります。

  • 引き算を使う
  • 気をそらす「あら、どうしたんでしょうね」
  • 一緒に探す振りをして、忘れるまで、かわす方法

もちろん、本当に物がなくなっている場合は別ですが、認知症の人にとっては「ない」「盗られた」ことが事実となっているわけです。

「言い分は絶対」と心得て、否定しないようにするのが対応の基本となります。ただし、「ヘルパーが盗んだ!」などと他の人に対して攻撃的になるようであれば、交代したほうが無難です。

では、逃げようのない家族、身内だったらどうでしょう。
「壊れたと言って、去年捨てたよね」とか
「バザーに出したじゃない」と近くの学校や施設の名前を出すとか
「寄付したよね」と言ってみましょう。
「〇○さんにあげたじゃない」と本人が信頼している人の名前を出す。
衣類なら「クリーニングに出した」も使えます。

あくまでも「本人が自発的に動いたという言い方をする」のがポイントです。

どこかへ「帰りたい、行かなきゃ」という言動のケース

夕暮れ症候群

その人の理由に合わせる認知症の人の「帰らなければならない理由」はくるくる変わります

ある男性の場合。

デイサービスに来た途端「さあ、帰らなきゃ。客が来る」と言います。「まあまあ」となだめて、ようやく引き留めたと思ったら、また「帰る」。そして今度は「今日は病院へ行く日だから」と言うのです。さっきと理由が全然違っています。

こんな風に変わるのは、前に言ったことを忘れてしまうからです。面倒がらずに、その理由に上手く合うような引き算を考えましょう。たとえば「客が来るから帰りたい」と言うときは、

「今、電話があって、お客様は遅れるそうです」とか
「車でお送りしますので、こちらへまわす間、お茶でもどうぞ」

と本当にお茶を出し、世間話でもしましょう。しばらくすると忘れてしまうものです。

張り紙で対応

介護者は多忙です。常にお年寄りに付き添うわけにはいきません。たとえば在宅介護の場合、買い物や食事の支度など、家族の目がどうしても離れる場面があるのは避けられません。

(認知症の人は1人でいると不安になったり、今いるところがどこかわからなくなったり、自分の家にいるのに「帰る」とか言って外出してしまいます。)

そこで使えるのが、張り紙です。

私(著者)のデイサービスでは、必要なときは入り口の戸に「故障」と大きく書いて張り出します。このような張り紙があると、故障しているために開かないと思うのです。

あるとき、張り紙があるのに職員が戸を閉め忘れたことがありました。認知症のお年寄りがその前で、
「困ったな、故障なのに開いているよ。困ったな」とぼやいていたことがあります。張り紙は、短い言葉で、外来語は使わないことです。

ポイント

認知症の人が外に出てそのまま帰って来なくなった、という事態は何としても避けたいものですが、とりわけ家庭では、四六時中ついているわけにもいきません。(商売や仕事をしている家族はなおさらです)

万一の場合に備えて、氏名や連絡先などを書いたカードをお年寄りに携帯してもらいたいところです。しかし「バカにするな!」と拒否をする人もいます。こういう時は、いかにも「身分証明書」といった感じのカードを用意し、

「最近は高齢者の事故が多くなったから、70歳以上の人はこのカードを持つように警察から言われているのよ」

と伝えてみましょう。あるいは単純に名札を作成して、縫い付ける方法もあります。
荷物で隠れたり、引きちぎられたりしないように、背中側の襟元につけ、他人に見えやすくするといいと思います。(認知症のお年寄りに遭遇した時は、衣服の点検や持ち物をさがしてあげましょう)

洋服すべてに縫い付けるのは手間がかかりますが、アイロンで接着する素材や、ワンタッチテープなどを使って試してみてください。

福祉レンタルの認知症の人用GPS携帯もあります。(ケアマネジャーに相談してみましょう)もしお年寄りがいなくなった時は、全員で探し回るのではなく、誰かが家に残るようにしましょう。本人がふいと帰ってくるかもしれませんし、保護してくれた人や警察から電話で連絡があるかもしれません。

必要な介助を拒否する言動のケース

拒否02
「試供品」「調査」名目で

エイコさん(75歳)は元看護師です。

最近、トイレの失敗が多くなってきました。部屋に尿臭が漂うので、押し入れを調べたら汚れた下着が出てきました。

家族が、部屋が臭いこと、下着を見つけたことを伝えてリハパン(紙パンツ)をはくよう求めたところ、「あんたがはけば!」と激怒しました。本人は失禁などしていないつもりで、下着を隠した記憶もないのに「おもらしした」と言われ、プライドが傷ついたのです。

デイサービスの職員は、薄手のリハビリパンツを見せて、

「保健所から新製品の調査依頼があったので、使ってもらえますか?看護師さんにお願いするのが一番いいと思うので」

と勧めてみました。すると「あら、アンケート調査ね」とすんなりと受け入れてくれたのです。自分が選ばれて、プライドをくすぐられたようです。

メリットがあることを伝える

トシオさん(70歳)は糖尿病で、毎日服薬するよう医師から指示を受けています。本人は嫌がっていましたが、しぶしぶ飲んでいる状態でした。ところが認知症になってから「薬嫌い」の本性が出始め、どうしても薬を飲んでくれません。

困った家族はトシオさんが部分入れ歯を使っていることに目を付け、

「これは歯が丈夫になる薬よ」

と言ってみたところ、飲んでもらうことができました。

別のお年寄りのケース

家族が錠剤をキレイな色のマーブルチョコと混ぜて、「みんなに内緒で食べない?」とこっそり渡したところ、口にしてもらえました。

他にもビタミン剤や栄養剤だと伝えて引き算する方法がありますが、「内緒」という言葉は効果的です。「自分だけ」とか「選ばれた」という感覚になるのでしょう。

ポイント

認知症になると入浴を嫌がるケースが多いのです。

  • 対処方法
    • ①「背中に薬を塗るので服を脱いで」と言って浴場へ向かい、「こちらでパンツも」と言って入浴へ導く
    • ②「体重測定です。厳密に測らないといけないので、パンツも脱いでください」と言って入浴へ導く
    • 多少不審がられるかもしれませんが、浴槽の前まで誘導できれば、あとはお年寄りのほうから自然に入ってくれることが多いものですテンポよく、自信をもって、声をかけましょう。
    • 入浴拒否がある場合は、風呂場に「風呂」「浴室」「ゆ」「♨」(温泉マーク)は止めましょう。こうした単語や記号は体が覚えているため、お風呂だとわかってしまいます。

食事を摂ろうとしない人の場合は、引き算以前に、そもそも量が多すぎたり、幻視や味覚などが落ちていて食欲がわかないのかもしれません。

たとえば、ご飯をうずらの卵の大きさのおにぎりにしたり、さらに、それを串に刺す、弁当風にするなど、少量に見せたり、目先を変えると手を伸ばしてくれることがあります。

大皿に盛り合わせて豪華に見せたり、振りかけやタレで、しっかりした味をつける、飾り豊かな食材を使う、といった工夫もできます。

自宅外のサービスを利用してくれない

拒否

その人向きの役割をお願いする

元看護師のミツコさん(79歳)のケース。

デイサービスで看護師が必要だが、雇えないのでボランティアで来てもらえないかとお願いしたところ、最初は拒否していました。しかし、何度かお願いするうちに「こんな歳でも役に立つなら・・・」とOKしてくれました。

そこで「ただ働きでは申し訳ないので、せめて送迎の車とお昼ご飯を
つけさせてください」と伝えました。これは送迎車に乗ってもらうための方便です。

このように、その人向きの役割を提供し、送迎や食事など、そのほかの要求もそこに関連付けてしまうのがいいと思います。生きざまに添って役割をつくると、それが「ありがとうの種」となります。

「ボランティアさんは入浴無料です」

などと、すべての介護サービスに結びつけてしまえば、一石二鳥です。

幻視に合わせる

シマさん(78歳)は大のパチンコ好きです。おかしな言動が増えたので、家族が専門医を受診させたところ、レビー小体型認知症と診断されました。

私(著者)はシマさんを「パチンコ同窓会」と称してデイサービスにお誘いしました。すると「どこにも行けないの」と言います。「行かない」ではなく「行けない」というところに引っ掛かりました。「なぜです?」と聞くと「家にお化けがいるから」と笑ながら言います。

もしやと思って「お化けも一緒にどうぞ」と言うと、「ホントにいいの?」と嬉しそう。その後、お化けと一緒にパチンコ同窓会(デイサービス)を楽しんでいました。

レビー小体型認知症には、ありもしないものが見える「幻視」という症状があります。話を合わせて上手に対応しましょう。

ポイント

介護保険制度の中には、自宅の外で受けるサービスもありますが、不安を山盛り抱えている認知症の人は、中々外に出てくれません。

外に出てもらうには、まず不安を取り除く事が必要です。そのためには、その人の趣味、仕事、こだわりなどの「生きざま」を把握し、引き算を使いましょう。

デイサービスを利用して頂く場合は、安心材料として、最初だけ送迎所に家族も同乗していただくことがあります。到着後1~2時間付き添って頂くだけで充分です。大方の人はこれで安心してくださいます。

レビー小体型認知症は、見えない物が見え、いない人がいるように写る病気です。シマさんはお化けと同居しているわけですから、引きはがすわけにはいきません。デイに来てほしければ、お化けと一緒は当然と考えました。

本人と周囲の安全、健康を守る

認知症ケア02

火の元が心配な場合

認知症の人が生活する上で1番問題になるのが、火の元です。

ある時、後援会で「1人暮らしで耳が遠く、チャイムを鳴らしても出てこないし、電話にも出ないお年寄りがいます。火の始末が心配だけど、どうしたらいいでしょうか」という質問がありました。

こういう場合、まずは、火を使えないように、ガスの元栓を閉めるところから始めます。ところが、認知症の人は元栓の位置を体で覚えている場合もあり、自然と手がいって開けてしまうこともあります。そんな時は、周囲にブロックなどを置いて元栓を完全にかくしてしまいましょう。

本人がガス会社に電話して「修理してほしい」と言ったケースもあるので、必要なら、関係者に事情をよく説明しておくなど、根回しも必要です。

禁煙に成功した例

トシオさん(80歳)はたいへんなヘビースモーカー。

認知症になってもタバコをやめません。火の始末が出来なくなってきたので、家族が止めさせようとしましたが、隠れて吸うようになるなど、逆効果でした。

このような時は家族に、次のように対応してもらいました。まず、家の中のタバコや、それに関するもの(ライター、灰皿など)は全部隠します。そして本人から「タバコは?」と聞かれたら、

「体に悪いからって、10年前に禁煙したじゃない。夢でもみたの?」

と答えてもらいました。すると、「そうか、禁煙したのか」とその場は納得します。しばらくすると、また、「おい、タバコ」と言い出しますが、同じように

「10年前に禁煙したでしょ」

と伝えます。これを何度も繰り返すうちに、自然と吸わなくなりました。

運転を止めさせる

シゲさん(80歳)八百屋さんですが、今は息子の代になっています。引退して、認知症が発症し、値札を間違えたり、早朝から「仕入れに行く」といって、車を運転しようとします。運転を止めさせるために、息子さんはパソコンで、「警察からの通達があった」と張り紙をつくりました。

「通達 70歳以上の者、車の運転を禁ず、警視庁交通安全課」

の張り紙をして、運転を止めさせるのに成功しました。「警察」という「権威」を上手く活かすのがポイント。そのためには「らしく見える」ように、手書きではなく、パソコンで作成するのが大切です。

ジュースを使って酒を控える

ヤスオさん(71歳)のケース。

ヤスオさんは、家族に言わせれば「アルコール中毒」です。家では朝から「酒はないか」と要求。デイサービスでは、昼食をつまみに「飲みたい」と言います。健康面が心配な人でした。

そこで考えたのが、スポーツドリンクのレモン割です。スポーツドリンクにレモンを絞って氷を入れ、

「ごめん!焼酎のレモン割しかないの。これで我慢して、今買ってくるから」

といって差し出します。するとヤスオさんは、美味しそうに飲んでくれました。見た目などがよく似ているためか、お酒を飲んだ気になるようです。

同時に家族に、家の酒類をなくしてもらい、お酒から遠ざけることが出来ました。ちなみに、スポーツドリンクにしょう油を数的たらした「ウィスキーもどき」で断酒した人もいます。

異食を防ぐ方法

マツさん(75歳)は大の犬好き。

自宅で愛犬のチロと食事するのはいいのですが、食べていいもの、いけないものの区別がつかなくなっているのか、ドッグフードまで口にするようになってしまいました。

そこで家族と相談して「チロと一緒にご馳走を食べに行く」という口実で週3回デイサービスの利用を始めました。ペット同伴はまずいので、チロは病気ということにし、

「チロは病院に連れていくから」

とマツさんだけ、送迎車に乗ってもらいます。「チロがいない」と不安がるときは、
「もうすぐ着くと思います」などと気をそらしました。

そのうち「チロはいなくて当然」状態になり、何も言わなくなりました。一方、家ではドッグフードの代わりに人が食べられる食事をチロに与えてもらい、異食しない環境を整えてもらいました。

ポイント

ここに紹介した以外に危険な場所として、お手洗いがあります。和式が主流だった時代に生きていたお年寄りが認知症になり、その当時に「戻ったつもり」になってしまうと、便座の上にかがんで用を足そうとしたりします。足がすべって転倒、骨折しやすいので座り方には注意を払ってください。

火事対策で家族からよく出されるアイデアが、IHの導入ですが、お年寄りには新しい器具は使いこなせないことがあります。在宅介護で困っているなら、デイサービスや配食サービスを利用したり、ヘルパーの利用なども考えたほうがいいと思います。

(また、冷凍保存が効く、宅配弁当は自然解凍でも、レンジでもよく、火を使わずに済みますから便利です。栄養のバランス、飲み込みの悪いときは「ミキサー食」もあり、病気で食事制限している場合の制限食弁当もあります。

最後に、引き算で異食を回避したケースもご紹介しました。他にも生肉や、冷凍品そのまま口にする人に対して、冷蔵庫に、「危険!ペンキ塗りたて」などと張り紙をしたこともあります。

  • 異食を回避する基本は、
    • ① 周囲に何も置かない
    • ② 常に目を離さない

この2つが出来ない場合は、施設入所を視野に入れましょう。いずれにしても、異食のような症状は引き算だけで、どうにかなるとは限らないので、よく注意してください。

介護者を入れてくれない

拒否02

ヘルパーを家に入れてくれた言葉

スズさん(80歳)のケース。

1人暮らしで認知症になって、家族からの依頼でヘルパーが自宅を訪問しますが、上手く家に入れてもらえず、利用者(本人)の生活に支障をきたす場合。

信頼している医師の名前を上手につかって、

「私、お医者様の使いできました。○○先生からお薬を預かってまして」

「心配だからお薬をちゃんと飲んでるか、見てきてほしいと言われて」

とお薬とお薬袋を用意しておきましょう。必ず事前に○○先生と申し合わせをしておきましょう。見せかけの薬袋を用意するなどの工夫ができれば完璧です。

知人のように振る舞う

通院介助のために自宅にお迎えに行ったが・・・

チャイムを鳴らして「初めまして、お迎えにあがりました!」と挨拶しましたが、本人は認知症なので、ヘルパーが来ること自体忘れています。職員を不審者扱いして「帰ってください!」とけんもほろろの対応です。困った職員は、10分待ってから、親しい人を装って、もう1度訪ねました。

「ご無沙汰してます」

と言うと、「あら、あなたたちも元気だった?」と、何事もなかったかのように家に入れてくれたそうです。最初、職員はなぜ自宅に入れてもらえなかったのでしょうか?原因は、何気なく使った「初めまして」という言葉にあります。

「初めまして」の言葉は足し算言葉。

「ご無沙汰してます」は引き算言葉です。

このように、認知症の人に「初めまして」と言うと、その人にとっては「知らない人」になってしまいます。「ご無沙汰してます」と言うと「知っている人」になることが出来ます。また、10分という時間をおくことで、認知症の人が出来事を忘れるのを待っている点にも注目してください。

帰してくれないとき

ある女性の利用者のケース。

若い男性ヘルパーが行くと「若い男が、鍋窯洗ってるんじゃないよ」とか「こんなところでゴロゴロしてないで、ちゃんと働かなきゃダメじゃない」といつもお説教です。ところが、帰ろうとすると「もう帰るのかい。もう少しいなさいよ」と言い出すのです。

話相手になりたいのは山々ですが、次の予定もありますし、仕事ですから慣れ合いはよくありません。
こんな時は、

「しょう油が切れたから買ってきます。
物騒だから鍵かけておきますけど、テレビでも見ててください」

と言って、きちんと戸締りをしてから辞去しましょう。思ったよりすんなりいくものです。

家から追い出されたとき

家族が家から追い出されてしまったケース。夫を介護している妻の例ですが、夫は昔から女遊びが派手な人で、認知症と診断されてからも「浮気しているつもり」が抜けません。

妻を愛人と間違えることがあり、「女房が帰って来る。早く家から出てくれ」と追い出されそうになることがあります。妻が「何言ってんの、私よ!」と言っても、「いいから」と聞いてくれません。

こういう時は、家族が無理に居座ろうとしても、争いの種をまくだけです。ここは5~10分後、いったん家から出ることをお勧めします。

あらかじめ、財布や、夏なら帽子、日傘、冬なら、コートにマフラーなど「外出セット」を準備しておくといいでしょう。家の鍵だけは絶対に忘れないようにしてください!

ポイント

中々、家に上げてくれないときの対処方法(アイデアは無限)

「近くでガス漏れ事故がありました。お宅のガスも点検させてください」

反対にヘルパーを帰してくれないのは、本人の寂しい気持ちからでしょう。認知症だから、なおさら心細く感じるのかもしれません。こういう時、介護者はつい「可哀そう」などと思ってしまいがちですが、プロとして思い切ることも必要です。介護のために遠方から通ってくる家族なら、
どうしても帰らねばならないことがあるでしょう。

買い物を装うのは使いやすい方法ですが、そのほかに

「働かないと食べていけないので、仕事に行ってきます」ここで大切なのは、必ず玄関の鍵をかけることです。

「物騒だから」と伝えて、本人に中からかけてもらいましょう。

不穏(ふおん)、けんか、暴力を防ぐ

夜間せん妄

上手く気をそらす

タケダさん(81歳)は元警察官です。

いつも自信満々で堂々としています。正義感が強いのはいいのですが、高飛車なところがあります。
デイサービスの他の利用者さんたちに説教したり、注意したりして、嫌われています。

今日もまたタケダさんの注意が始まります。すかさず職員が気をそらそうと、

「変な人があっちのぞいていたの、見てきてくれない?」

と見回りをお願いします。タケダさんが「別になにもなかったよ」と帰ってきたら、

「ありがとうございます」

と感謝します。タケダさんの生きざま(生活、仕事)を利用した引き算ですが、さらに「タケダさんのおかげで・・・」という言葉を連ねて達成感を得てもらい、最後に感謝と労いで和やかになってもらう
という複数の組み合わせをしているところに注目です。

暴れている人を止めた行動

ツネコさん(82歳)のケース。

初めての訪問の日、「私はやっていません!」と叫びながら、ツネコさんが、2階の窓から干してあった掛け布団やバスタオルを下に投げています。

怒っているのを無視して、外から「こんにちは!」と明るく声をかけると、ツネコさんは窓をまたいで下に降りてこようとしています。「2階にいる」という、正しい空間認識ができなくなっているのです。

私(著者)は2階へ駆けあがり「会えてよかった~。心配してたのよ」とツネコさんにハグ。ツネコさんは「よかった!来てくれたのね」と上機嫌で、私(著者)を迎えてくれました。気分を変えるにはハグすることが効果的とトッサに判断したのが大正解でした。

もちろん初対面ですが、友人のように振る舞って、怒りを忘れさせたケースです。

故郷の話題で不穏(ふおん)をなくす

スズコさん(73歳)のケース。

デイサービスのフロアで、スズコさんが目を吊り上げて歩き回っています。ものがあると力任せに叩きます。ケガも転倒も心配な状況でした。私(著者)は黙って近寄り、横に並んで歩きました。ギラっとにらまれましたが、知らん顔で

「昨日、小樽へ行ってきたのよ」と一言。

すると足を止め「ほんと?」と急に顔の険しさが取れました。続けて私(著者)が

「ごめんね、お土産買うの忘れちゃった」というと、「いいのよ」と上機嫌に。

最後に「立ち話は疲れるから、座りたいんだけど」と言うと

「いいよ」とすんなり一緒に座ってくださいました。座ったとたん「家に寄ってくれた?父は元気かしら?」と言います。

「お元気よ」と言うと、懐かしそうな表情で、穏やかなスズコさんになりました。

ポイント

けんかになりそうだったり、暴れている人がいる場合は、タケダさんやツネコさんのケースのように、
気をそらすことで解消する方法もあります。

ですが、妄想状態におちいって顔をこわばらせ、別人のようになっている時に声をかけると、火に油を注ぐ結果になることもあります。そんな時は、黙って見守りを続ければ、そのうち我に返って落ち着くものです。

一方、スズコさんのケースのように、生きざまを利用して引き算する方法もあります。「小樽へ行った」などの一連の会話は、もちろん引き算。

故郷の話題で落ち着いて頂き、最後は「そろそろお昼だし、みんなの輪に入りましょうか」と促して、デイサービスのプログラムに参加して頂きました。

こういう時、本人と共有できる話題がなければ作ってしまいましょう。たとえば利用者の出身地がわかっていれば、「私が行った時はそうだったんだけど」と話しをそらすか、「あ、そうだっけ」と言ってかわしましょう。

忘れることを利用するのが、引き算の介護ですが、バレたときは、こちらも忘れたことにするのです。そして、あくまでも相手の情報が正しいことにする、それが平和的解決方法となります。

性的な行動をどうするか

かぼちゃのスパイスラテ

性的欲求をうまく避ける

ムライさん(62歳)のケース。

ムライさんは若年性認知症。妻と娘が介護しています。何年もなかったのに、突然また性的欲求が始まったのです。

性的な欲求そのものを消すのは難しいことですが、認知症の人が忘れてしまうまでの時間を、引き算で上手く稼ぎましょう。「お風呂」を口実に使うことで、欲求に応じる姿勢だけ見せてましょう。

特徴を利用して回避

入浴中の男性お年寄りのケース。

入浴介助の最中に、男性のお年寄りから誘われることがあります。その時、あわてずに

「私のこと、女だと思ってる?
実はね、5年前は男だったのよ。手術して女になったの」

と伝えてみたところ、セクハラがやんだのです。(これは相手の価値観を利用した引き算で、
私=著者に差別的な意図はないことを付言しておきます)あるいは女性なら、同じような状況で、

「私、今日アレなの」

と言ってみるのもいいでしょう。「アレ」とはもちろん生理のことですが、これでお年寄りが引き下がったこともありました。

服を脱ぐのをやめた言葉

施設に入居している女性利用者のケース。

そうしていると気持ちがいいのか、すぐに服を脱いで裸になる人がいました。本人はいいかもしれませんが、まわりが迷惑です。他の入居者から苦情が出るようになっていました。

もちろん、説得はつうじません。職員が「寒いですよ」と言うと「寒くないわよ」「みっともないですよ」と言うと「みっともなくないわよ」と答えるありさまです。ところが、他の職員が言った言葉が刺さりました。

「すぐに服を脱ぐのはスケベよ」

とたんにパッと服を着ました。理由は何だったのかわかりませんが、認知症の人に通じるのは理屈じゃないと、改めて痛感しました。

ポイント

食欲、性欲、睡眠欲は人間の3大欲求だと言われますが、まさにその通りで、性欲自体をどうにかするのは困難です。むしろ気をそらしたり、その気だったのを削ぐことを考えましょう。病気の症状だと割り切って、出来るだけ冷静に対応するのがいいと思います。

こんな方法もあります。

  • 「じゃあ、1杯飲んでからにする?」と言って飲み物を勧めたり、相手のすきな歌を聴いたりして忘れるのを待つ。
  • 「○○さんの奥さんはおキレイですね」「お仕事が大変なんですってね」とパートナーのことや仕事のことに話を向ける。(パートナーや身内をほめられると気を削がれる)
  • 「今日の髪型、ステキですね」「オシャレですね」と服装や容姿をほめてみる。自慢話が始まったら聞いてあげる。
  • お笑い番組を録画しておき、それを流す。見ているうちに求めたことを忘れるのでしばらく様子を見ながら待つ。
  • バカ丁寧な敬語で相手に距離感を感じさせ、気を削ぐ。
    • (言葉の使い方で相手との距離を調節できます。親しくなりたいときは、フレンドリーな言葉を使う)

まとめ

家族03

「引き算」は役に立つ介護技術です。しかし、お年寄りにかけるべき言葉は、その人の「生きざま」、その時の認知症の状態、その時々の状況など、様々な要因により変わってきます。

同じ人に同じ言葉をかけても、必ず納得が得られるとは限りません。昨日と今日では体調もきの持ちようも違うからです。ただ1つ、いつでも変わらず注意しなければならないのは、

「引き算するときは堂々とすることです」

初めての人や認知症の人の家族は、そうしてもおずおずとしていまいますが、それでは相手に伝わりません。「引き算」は認知症の人と同じ世界に立つための手段であり、「寄り添う言葉」なのです。慣れるのには時間がかかるかもしれません。

ですが、認知症の本人を「楽にさせる方法」だと割り切って、やってみてください。在宅介護、自宅介護、家族介護、介護ストレス、介護疲れにも、少しでもお役に立てれば幸いです。

次回は「認知症」との付き合い方、を学習します。最後までお読みいただきありがとうございます。

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