もう1人で悩まないでください。在宅介護はチームケアの時代です。親の介護で、認知症かなと思ったときの、専門医の探し方から、病院での受診、検査を受けさせるときのコツ、新薬の紹介、やがて来る終末期に家族がぶち当たる問題と解決策のヒント、終末期を見極める症状や施設を探す場合のタイミングなどにも触れています。
こころのクスリBOOKS よくわかる認知症ケア
川崎幸クリニック院長 杉山孝博 監修
1973年、東京大学医学部卒。東京大学医学部付属病院で内科研修後、地域医療に取り組むために川崎幸病院(神奈川県川崎市)に勤務。1981年、「呆け老人をかかえる家族の会(現・認知症の人と家族の会)・神奈川県支部」の発足当初から会の活動に参加。
現在、(社)認知症の人と家族の会副代表理事、神奈川県支部代表。往診・訪問看護を中心にした在宅ケアに取り組み、「認知症をよく理解するための9大法則・1原則」「上手な介護の12か条」を考案、普及。NPO法人全国認知症グループホーム協会顧問や、厚生労働省関係委員としても活躍中。主な著書・監修書に「杉山孝博Dr.の認知症の理解と援助」(クリエイツかもがわ)「ぼけー受け止め方・支え方」(家の光協会)「痴呆症老人の地域ケア」(医学書院)「認知症・アルツハイマー病、介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)などがある。
(解説、引用しています)
「受診」介護は、信頼できる医師と連携して進めましょう

認知症の人の介護は、家族だけが抱えるのではなく、様々なサポートを活用しましょう。特に医師との連携は大切。専門医を受診することで、医療的なケアへの道が開けます。
医師の診断を早く受けるメリット
病気の確定が早くできる
- 不可解な言動は、認知症なのか、他の病気なのか。
- アルツハイマー病なのか、血管性の病気なのか、別の病気なのか。
- 早い段階での見極めが、確実な治療や介護の道を開きます。
- 負担の重くなる介護や無意味、ムダに悩む時間をなくすことができます。
理解する気持ちが生まれる
認知症の特徴をよく理解しないまま介護を続けていると、認知症の人の精神症状や困った行動はさらに激しくなります。認知症についての専門的なアドバイスを受けることで、家族も混乱から抜け出し、認知症を受け入れる気持ちが生まれます。その結果、介護の姿勢も変わり、それは認知症の人にもよい影響を与えます。
薬の治療は早いほど有効
アルツハイマー型認知症の治療薬は、2012年現在4種類が使えます。
いずれも病気を根治させることはできませんが、認知症の進行を遅くする効果があるとされています。しかし、病気が進んだケースでは効果があまり期待できないため、治療を始めるのは早ければ早いほど良いのです。
「治せる認知症」の治療ができる
正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍などが原因となる認知症は、すみやかに診断して脳外科的な治療をすると、驚くほど症状が改善する場合があります。ただし、血腫や脳脊髄液によって、脳の圧迫状態が長く続くと効果は望めなくなるため、治療は出来るだけ早く行うことが大切です。
他にも、甲状腺機能低下症、老人性うつ病、脱水、貧血、感染症、パーキンソン病、心不全、などによっても認知症のような症状が現れることがあります。それぞれの病気を治療することで、かなり改善することがありますので、早期診断、早期治療が重要です。
介護保険の利用がスムーズに
介護保険のサービスは、いまや介護にとっては不可欠です。
「介護保険の申請には、医師の意見書が必要」ですので、早めに受診して主治医を決めておくことが大切です。「要介護度の認定」をきちんと行ってもらうためにも、主治医とよく話し合って、意見書に「認知症の症状の実態を正確に反映させてもらう」ようにします。
障害年金の受給がすみやかに
若年期認知症は働き盛りで発症しますので、経済的な問題が大きくなります。障害年金の受給が重要ですが、障害年金は最初に受診してから、1年半を経過していなければ申請できません。
まだ認知症が考えられない年齢でも、おかしな症状に気づいたら、なるべく早く受診することが大切です。受診が遅れるほど、障害年金の受給も遅れてしまうからです。
専門医の探し方・受診の仕方
認知症の専門医がいる、病院の診療科は?
- 精神科
- 精神神経科
- 神経科
- 神経内科
- 物忘れ外来
- 総合病院の「老年科」に専門医を配属しているところもある
コツ
認知症の疑いがある人でも、初期は理解力があり、「精神神経科」には強い拒否反応を示すことがあります。その場合は、まず「物忘れ外来」「老年科」「心療内科」「神経内科」などで一般的な診断を受け、その延長として認知症専門の診療に移行すると良いでしょう。
専門医をさがすときの相談先
- かかりつけ医
- (近所にかかりつけ医がいる場合は、そこから専門医を紹介してもらうとよい。)
- 各都道府県の「高齢者総合相談センター(シルバー110番)」
- 地域の「保健所」
- (これらの機関では認知症の専門医情報を把握していますので、相談してみるとよい。)
- インターネットで探す場合
医師や福祉の専門医がつくる「日本老年精神医学会」では、高齢者の心の病と認知症の専門医として、学会が認定した医師をホームページで紹介しています。
専門医は、各都道府県別に検索できるようになっています。
メリット
医療的なケアや、介護の仕方を相談できます!(認知症は進行する病気なのですが、医療的な手立てがあります)
いったん認知症になったら、医療的な手立てはほとんどなく、遅かれ早かれ脳の破壊は進んでしまう・・・少し前まで、認知症はそう思われていました。そのため、多くの家族が、認知症の人の症状に振り回され、孤立無援の極限状態の中で介護を続けていました。
しかし、現在は、状況が大きく変わっています。認知症についての医学的な研究が進み、薬物療法によって進行を遅らせたり、症状の改善が可能になってきています。
ケアやリハビリによって、生活を改善する指導も行われるようになっています。家族の負担を軽くする介護保険制度などの福祉サービスも定着してきています。こういった医療やサービスを活用するためにも、介護者は出来るだけ早い段階で認知症の専門医の診断を受け、今後の方針を立ててもらうことが重要です。
そして、医師から認知症について説明してもらったり、対応の仕方などを相談しながら、医師と連携して介護を進めていきましょう。
認知症の診察・検査は、このように行われます

診察では、症状の原因になっている病気の確定が重要です。最近は画像検査の技術が進み、脳の中の状態がかなりわかります。
問診・患者情報を集める
最初に「問診」を行いなす。医師や患者さんとの「面談」から診察のための重要な情報を得ます。
家族との面談
多くの医師が、先に家族だけから話を聞くようにしています。家族だけにするのは、患者さんが一緒だと、中々本当のことが話せないからです。
認知症はある日突然100%の認知症になるわけではありません。アルツハイマー型認知症の場合、潜伏期間は10~20年もあるといわれ、日々の変化は気づかない程のものです。
そのわずかな変化を、最初に気づくことができるのは家族です。患者さんの様子について、家族から出来るだけくわしく医師へ伝えてください。医師からの質問に備えて、下記のような内容のメモを持参すると役立ちます。
本人との面談
家族と話した後、本人と面談します(本人だけ、あるいは家族と共に)
医師は「生年月日」「朝(あるいは昼に)食べたもの」「生まれたところや仕事」などについて本人にききながら、家族から提供された情報をもとに、本人の状態を観察していきます。
医師が主にみるのは、目の動き、質問への答え方、表情、声の様子などです。単なる老化なのか、認知症なのか、大体の見当が付きます。
医師の質問内容(面談で医師はどんな質問をするのでしょうか?)
- 本人にどのような症状が現れ、家族はそれにいつ頃気づいたか(同居家族が気づいたときより、発症は3~4年前の場合が多い)
- 症状は進んでいるか、あるいは変化しているか
- 本人は、過去にどんな病気をしたか
- 現在、本人にはどのような病気があるか
- 本人の近親者(親兄弟など)に、アルツハイマー病の人はいるか

本人についてメモしておくこと
- 生年月日
- これまでの生活
- (出生地、最終学歴、職業歴、結婚歴、家族構成、過去の大きな出来事)
- 既往歴(きおうれき)
- (これまでにかかった病気、手術や事故などの経験、現在治療中の病気、現在飲んでいる薬など)
- 生活習慣
- (お酒、たばこ、食事の傾向、運動)
- 最近現れてきた変化
- (物忘れが多くなった、家族が感じる性格の変化)
- どのくらい前から、どんな兆候が表れたか
- (たとえば「1~2年前から散歩で迷子になるようになった」「同じ料理ばかり作るようになった」など)
知的機能検査・認知症を判別する
病院によって多少の違いはありますが、一般的によく使われるのは「改訂 長谷川式認知症スケール(HDS-R)」で単に「長谷川式認知症スケール」と略されることもあります。
聞き取りを行い言葉で答えてもらうスケールで、認知症の疑いがあるかが判別しやすく、短時間でできるという特徴があります。30点満点で、20点以下は「認知症の疑いがある」と考えられます。補助診断として使われます。
ほかに「ミニメンタルステート検査(MMSE)」
が行われることもあります。認知症検査に動作性検査を含んだもので、30点満点、24点以上が正常、20点未満が中程度の知能低下と診断されます。これも補助診断として使われます。
「ウェクスラー成人用知能検査(WAIS-R)は、信頼性の高い知能検査ですが、検査に時間がかかるため、より詳しいデータが必要なときだけ使われます。知能検査の段階で、認知症の疑いが高くなったら、原因となっている病気を調べる検査に移ります。
スムーズに進めるため、心がけたい2つのコツ

精神科の受診は、よくわからず不安という人も多いようです。どのようなことが行われるか、概略を紹介していきますが、まず受診にあたって心がけたいこと2つを述べます。
認知症の疑いがある人を、スムーズに診察へと導くにはコツがあります。
・知らせるのは当日
本人へ受診する日をあらかじめ伝えておくと、きになって前の日から落ち着かなくなり、夜も眠れず、当日になって「行かない」というケースが少なくありません。また、忘れてしまって「そんな約束はしていない」と言うこともあります。
その日になってから、さりげなく「行きましょう」と誘ったほうがよいでしょう。
・付き添いはできれば2人で
病院へは、家族とは別にもう1人一緒に行ける人を探し、2人が付き添うようにします。病院は、受診の手続きや順番待ちなどで、時間がかかります。
また、家族だけが医師と面談することもあります。待ち時間は、たとえ5分でも長く感じるもの。我慢できない患者さんもいますので、もう1人、本人の相手をしてくれる人がいたほうがよいのです。
付き添いを頼む人は、日頃顔を合わせない、息子や嫁、友人、ヘルパーやケアマネジャー、保健所のソーシャルワーカーなどがよいでしょう。
画像検査・脳の中を調べる

コツ
脳の画像検査と聞くと、初めての場合、不安になる患者さんがいます。どれも危険がなく、体にも無理のないものですので、安心して、ゆったりとした気持ちで受けるようにと伝えてあげましょう。
認知症は脳の障害によって起こるため、脳の中を画像に映し出し、原因となっている病気を探ります。脳のどの部分が劣化しているか、この検査によってかなりわかります。認知症の診断のために行われる画像検査には、数種類あります。
MRI検査
X線CT検査は輪切りですが、MRIは人体の磁気共鳴作用を利用して、縦、横、斜めと様々な角度から体内を映し出します。認知症の場合は、頭の周りに強い磁気をあて脳の中を見ます。
X線CT検査より脳の萎縮が明確に見えますので、ピック病とアルツハイマー病との鑑別や、血管性疾患とアルツハイマー病の鑑別に役立ちます。
また、脳腫瘍の検査もできます。磁気を使うのでX線被ばくはなく安全です。(体内に金属、ペースメーカー、人工関節、取り外しできない入れ歯などがあると、磁気に影響を与えるため検査できない場合があります)
X線CT検査
X線を使い、脳を輪切りに撮影していきます。くも膜下腔、(くもまくかくう=脳をおおう3層膜のうち、軟膜とくも膜の間)脳室(のうしつ=脳の中心部)、を循環している、脳脊髄液が黒く映ります。脳が委縮するに従い、この液が占める部分が多くなって、黒いスペースが拡大していきます。
アルツハイマー病では、最初は脳溝(のうこう)の黒いスペースが目立つ程度ですが、進んでいくと脳室の黒い拡大の目立つようになります。ただし、脳の萎縮は加齢でも現れ、アルツハイマー病の初期と、ほとんど区別がつきません。X線CT検査では、高齢者のアルツハイマー病判定は難しいのです。
なお、X線CT検査では、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、ラクナ梗塞なども見つけることができます。(若干のX線被ばくがあります。)
PETとSPECT
CTやMRIは「脳の形や組織の異常の有無」を調べる検査ですが、こちらは「脳の働き(機能)」を調べる検査です。脳の代謝(脳のエネルギー源であるブドウ糖や酸素の代謝)や血液(血液量)を調べます。
・PET
脳の細胞が死滅すると、ブドウ糖の利用状態が悪くなります。そこでFDGというブドウ糖と似た物質を注射し、その代謝の状態を画像に写してみます。
脳のどの部分の活動が低下、あるいは細胞死しているかがわかるため、比較的初歩のアルツハイマー病を見つけることができます。
「安全性」
FDGを注射すると全身が熱くなります。また、わずかな放射線が放出されますが、体への害は少ないとされます。FDGは、やがて尿をともに体外へ排出されます。それまでの1日間ぐらいは、妊婦や乳幼児との接触を避けます。
・SPECT
微量のラジオアイソトープ(放射性同位元素)を注射し、その分布状態を撮影することで、脳の血流の状態を調べます。
アルツハイマー病では、側頭葉前部、前頭葉下部、頭頂葉などで血流の減少があり、比較的初期でも反応が現れます。一方、血管性の疾患では血流の分布が不均等になり、全般的な低下が見られます。
「安全性」
ラジオアイソトープによる被ばくは、ごくわずかで人体への影響はほとんどありません。数時間から数日で、尿とともに排出されます。
(PETとSPECTの場合、台の上に横たわり、装置の中に入って撮影します。時間は30分程度必要で、その間はじっとしていなければなりません。認知症が進んでいる人は、受けることが難しい検査です。)
「薬物治療」薬によって、病気の進行を遅らせたり、症状を改善したりできます

アルツハイマー病治療薬は、新薬が加わって選択肢が広がっています。周辺症状を改善する薬もあります。上手に使って負担を減らすと、介護者にも余裕ができて、対応が楽になります。新薬「4種」が加わり、選択肢が増えています。
アルツハイマー病の治療薬として新しく認可されたもの
- 1999年、塩酸ドネペジル(商品名・アリセプト)
- 2011年、ガランタミン臭化水素酸塩(商品名・レミニール)
- メマンチン塩酸塩(商品名・メマリー)
- リバスチグミン(商品名・リバスタッチとイクセロン)
以前は、アルツハイマー病には治療薬がないと言われていましたが、これらの薬が使えるようになり、認知症の治療は変わってきています。
治療薬といっても、厳密にはアルツハイマー病の原因となるβアミロイドの蓄積に直接働きかけるわけではありません。根本的な治療はできないのですが、それでも知能の衰えを1時的に改善したり、病気の進行を遅らせることができます。
「4種の薬」はどんな作用をするか
脳内では、いくつもの神経伝達物質が分泌されており、細胞から細胞へ情報を伝える役割をしています。神経伝達物質は、働きが終わると酵素によって分解され、常に一定量が保たれています。しかし、アルツハイマー病では、神経伝達物質の中のアセチルコリンという物質が極端に少なくなります。
「アリセプト」は、このアセチルコリンを分解する酵素の働きを弱めることで、アセチルコリンの濃度を高めます。「レミニール」と「リバスタッチ・イクセロン」(貼付け薬)も、同じような作用をします。
一方「メマリー」は、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体(NMDA受容体)と結合し、グルタミン酸の働きを阻害して、過剰な興奮によって起こる神経細胞の障害や細胞死を防ぎます。
向精神薬
コツ
向精神薬を長期間使用するのは問題があります。薬を使って症状が治まったら、ケアを工夫して、薬に頼らなくてもよい状態を保つことが大切です。
認知症の人を介護するとき、多くの介護者が対応に悩むのは、中核症状よりも、周辺症状です。なかでも、幻覚、妄想、興奮、暴力、徘徊、などが現れると、介護者は振り回され、疲労がかさなっていきます。
さらに、このような症状がある人は、デイサービスやショートステイなど施設での受け入れも難しくなり、介護者の負担はいっそう重くなります。
しかし、治療の面から見ると、中核症状は「完治されない」のですが、周辺症状は、手当ての方法があり「治すことが可能」です。ケアを工夫してもどうしても症状が改善しない場合は、介護者の負担を軽くするためにも、医師に相談することが大切です。
周辺症状の治療に使われるのは主に向精神薬です。向精神薬とは、精神に働きかける薬のことで、「抗精神病薬」「抗不安薬」「脳循環・代謝改善薬」などがあります。(なお、薬の処方は医師によって異なる場合もありますので、あくまでも参考と考えてください。)
向精神薬はどんな作用をするか
「抗精神病薬」
- 主に統合失調症の治療に使われる薬で、強い安定作用があります。
- 認知症の、幻覚、妄想、興奮などの症状改善に使われます。
- 認知症でよく使われるのは、
- リスペリドン(商品名・リスパダール)
- オランザピン(商品名・ジプレキサ、ジプレキサザイディス)
ですが、糖尿病の人は使えません。
- 副作用として、
- パーキンソン症状(手の震え、嚥下障害、動作の緩慢、無表情など)、
- ジスキネジア(口をモグモグさせる、眼球が上をむいてしまうなど)が現れることがあります。
- 嚥下障害は窒息死につながる場合があり、注意が必要です。
このような副作用は認知症の症状と間違えやすいので、注意をして見守り、心配なといはただちに医師に相談してください。
- パーキンソン症状を防ぐため、
- 抗パーキンソン薬:ブロモクリプチンメシル酸塩(商品名・パーロデル)などを併用することがあります。
「抗不安薬」
- おだやかな精神安定作用があり、不安、緊張、イライラ、不眠などの症状を改善します。
- よく使われるのは、クロチアゼパム(商品名・リーゼ)です。
- 副作用は少ないのですが、飲み方には注意が必要です。
- お酒は抗不安薬の作用を強めるため、服用中は控えることが大切です。
「脳循環・代謝改善薬」
- 脳の血流や脳細胞の活動性を高める作用があります。
- 認知症の、妄想、徘徊、暴力、せん妄、などの治療薬に使われます。
- 抗精神病薬と比べると副作用は少ないのですが、眠気、ふらつき、嚥下障害、動作の緩慢、などが現れることがありますので、医師に相談してください。
周辺症状に効果がある漢方薬
「抑肝散(よくかんさん)」
抗精神病薬は、副作用が出やすいという欠点があります。そこで注目をあつめているのが、漢方薬の「抑肝散」です。抗精神病薬の代わりとして、認知症の周辺症状が改善する効果が認められているのです。
抑肝散(よくかんさん)は、赤ちゃんの夜泣きにも効く飲みやすい薬で、主にエキス剤が使われます。
- 効果
- 特に、幻覚、興奮、攻撃性、易刺激性(いしげきせい=刺激に対して過敏に反応する)など興奮性の周辺症状を改善することが認められています。
- また、不眠、徘徊、抑うつ、意欲の減退などにも効果があるといわれています。
・使い方
抑肝散を使うことで、抗精神病薬のスルピリドの量を減らすことができる、アリセプトと併用すると効果がある、などの報告があります。
・レビー小体型認知症にも
抑肝散は、レビー小体型認知症の精神症状にも有効で、特に、幻覚と妄想に高い効果があります。また、焦燥(しょうそう=あせり、イライラ)、抑うつ、不安を改善する効果もあると報告されています。
- 副作用
- 副作用は少ないのですが、
- 消化器症状、過鎮静(かちんせい)、
- 低カリウム血症(筋肉に力が入らなかったり、不整脈が出る)などが起こる場合があります。
少量からスタートし、副作用がないことを確認しながら
増量していくようにします。周辺症状には「向精神薬」が有効ですがただし、認知症の薬物治療には、まだ確立されたものはありません。
すべての専門医が、同じ処方をするとは限らないのです。ですから、主治医が本書で説明している方法とは異なった薬の使い方をしても、それが間違いとは言い切れません。疑問に感じたことは、医師に率直に質問し、納得した上で薬を使っていきましょう。
「終末期医療」やがて来る終末には、医療的なケアが不可欠です

認知症の人が終末期を迎えると、家族はいくつかの判断を迫られます。身体機能も衰えるため、胃ろうなどの医療的なケアをどうするか。また、在宅ケアか施設か、という問題もあります。
身体機能の衰えを医療でどうケアするか
認知症になると、脳が徐々に侵されていきます。脳は知的機能だけでなく、体の働きをコントロールするところでもあるため、認知症の進行に伴って身体機能も衰えていきます。
- 歩けなくなる
- 四肢の筋肉が萎縮する
- 嚥下障害で食事や水さえ摂れず衰弱する
- 呼吸感染症が起こりやすく、咳がでたり、痰がからまる
このような状態になり、やがて誤嚥による肺炎を繰り返すようになると、そのままでは亡くなってしまいます。終末期では様々な場面で、医療的なケアが必須になります。家族は、それらの対処を考えなければなりません。
たとえば、どんな状態なら入院治療が必要か、在宅では必要な医療的ケアをどこまで出来るのか、といったところです。認知症の人のターミナルケア(終末期ケア)について、概略を知っておきましょう。
施設での介護か、最期まで在宅でみるか
在宅か施設かを選ぶのに、決まりはありません。「在宅介護のほうが施設にまさる」と思い込み、介護者が無理に無理を重ね、体も心も疲れ切ってしまったのでは、介護を受ける人にとっても決して良い影響は与えません。
介護者が在宅での介護に力尽き、泣く泣く施設に入所させたら、本人は、プロによるケアでかえって元気になったというケースもあります。介護する家族の負担が大きいため、施設での介護を選ぶことに「罪悪感」を抱く必要はありません。
施設での介護を考えるなら、終末期に入ってからではなく、できるだけ早く、入所できる施設を探しておきましょう。
- 「嚥下障害が始まると終末期に入ると考えられます」ので、施設探しは、その前です。
- 介護なしでは人間らしい生活が出来なくなった時点で、始めた方がよいでしょう。
一方、在宅で最期まで介護をしたい場合は、「条件」があります、整えましょう。痰の吸引なども、ターミナルケアでは必須になりますので、やり方の指導を受けるようにしてください。
在宅(自宅)介護を続けるための条件
- 本人も家族の在宅での介護を望んでいる
- 介護の手がある(介護者の他に交代できる人がいる)
- 訪問診療や訪問看護による「医療的な支え」がある(ターミナルケアでは重要)
- 介護保険などの福祉サービスを利用する
- 地域の支えがある(近所の人の理解や見守り、など)
- 定期的に(週1回、月1回など)手伝いに来てくれる親戚、知人などがいる
すべてがそろわなくても在宅介護はできますが、1つでも多く条件がそろっていると、安心して長く介護が続けられます。
在宅での終末期を支える訪問診療と訪問看護
在宅でのターミナルケアは、医師や看護師による「医療的な支え」があるかないかで決まるといってもいいほど重要なポイントです。
訪問診療とは、週に1回、月に1回というように、定期的に医師が自宅まで来て診療をする仕組みです。ターミナルケアでは、医師に24時間対応してもらえることも重要です。
また、訪問看護では、訪問看護ステーションから看護師が定期的に自宅を訪れ、医師の指示に従って、病状の観察、点滴などの医療処置、痰の吸引、などの介護指導をしてくれます。
在宅ケアの医師を探すとき
- 地域包括支援センターに相談する
- 地域の訪問看護ステーションに相談する
- ケアマネジャーに相談する
- 病院所属の医療ソーシャルワーカーに相談する
- 患者さん同士や近所の評判を聞く
- 書籍や雑誌、インターネットの情報を探す
訪問看護を利用するには
訪問看護ステーションは全国に5000か所以上あり、在宅ケアを支援する看護師を派遣してくれます。
- 保健所に相談する
- ケアマネジャーに相談する
- インターネットで調べる場合
訪問看護のサービスは、医療保険でも介護保険でも利用できます。どちらの場合も、かかりつけ医の指示書が必要です。
介護保険では、要介護度に応じた支給限度額の枠内で利用できます。ケアマネジャーと相談し、訪問看護をケアプランに組み入れてもらいましょう。
「胃ろう」の造設はケースバイケース

認知症の人が終末期を迎えたとき、家族が決断を迫られる問題があります。「経管栄養」(けいかんえいよう)に関してです。
嚥下障害(えんげしょうがい)で、食事や水さえ思うように摂れない状態になると、衰弱が進みますので、医師からは経管栄養を勧められます。
以前は、鼻から中部を通して栄養剤を流し込む「経鼻栄養」(けいびえいよう)が一般的でしたが、今は「胃ろう」がほとんどです。
お腹から胃にかけて人工的な穴をあけてチューブを通し、栄養剤や水分を注入する方法です。胃ろうに対しては、家族によっても考えからが違うでしょう。「1分1秒でも長生きしてほしい」「これ以上苦しめたくない」と考える人もいます。
患者さん自身、嚥下障害があっても意識がはっきりしている人、意識がなくほとんど眠っている状態の人と、様々です。つまり、胃ろうについては、患者さんの状態や家族の考えなど、ケースバイケースで、それぞれが決断しなければならない問題なのです。
おだやかな自然死か、1日でも長い延命を望むのか(延命治療)、家族は医師ともよく相談して、悔いのない結論を出してください。
なお、日本老年医学会では、経管栄養や人工呼吸器について、「患者本人の尊厳を損なったり、苦痛を増大させたりする可能性があるときには、治療の差し控えや撤退も選択肢」とし、「患者の意思をより明確にするために、事前指示書などの導入も検討すべき」という立場表明を出しています。(2012年1月)
胃ろうのメリット・デメリット
メリット
- 高齢者でも、局所麻酔の内視鏡下で簡単に造設できる。
- つけていても痛みはなく、本人への負担もわずか。
- むせやすい液体は胃ろうから、食事は口からと、分けて摂ることもできる。
- 1年ほど、人によっては2~3年、寿命が延びる。
- 食事の手間がなくなるので、介護者の負担が軽くなる。
- 回復して必要がなくなれば、外すこともできる。
デメリット
- 胃の中のチューブは劣化するので、定期的に(3か月に1度ほど)交換する必要がある。
- 造設部分の皮膚は感染を起こしやすいので、こまめな消毒が必要になる。
- 命の限界まで高栄養状態を続けても、体力の衰えはカバーできず、皮膚などの新陳代謝が衰える。
- 胃ろうを付けた人は、褥瘡(じょくそう)ができやすい。
- むくみや痰(たん)が多くなるなど、かえって辛い状態になりがちである。

本書監修者、川崎幸クリニック・杉山孝博院長の「胃ろう造設への見解」
「意識がはっきりしていて、嚥下(えんげ=飲み込み)だけができない患者さん、たとえば脳卒中などのように、はっきりとした病気があり、それを乗り越えればまた元気になる見込みがあるといったような場合は、胃ろうを作るべきです。
しかし、自然経過で全身の衰弱が進み、意識レベルも低下している患者さんなら、原則的には胃ろうを作らず、点滴などで水分、栄養補給をしながら様子を見ていくことでよいと考えています」
まとめ
認知症の介護、ケアには、医療や福祉のバックアップが不可欠です。
- 認知症は脳の病気です。認知症には、早期に診断、治療をすれば、確実に治せるものがあります。新薬の開発で、進行を遅らせることも可能になってきています。認知症の介護は、原因となっている病気や、病期(初期、中期、後期)を専門医が診断し、それに合わせた適切な治療やケアをすることが大切です。
- 家族介護や自宅介護は、手探りで介護をしても、本人の苦痛や不快は緩和されず、介護者も見当はずれな努力やムダな苦労、(遠回り介護)をすることになります。
- そしてなにより、長期的な対策を立てることができ、家族や親せきとの話し合いの機会も持って、それによって、介護の絆、連携ができ、孤立、孤独から救われます。
- 具体的には、住環境を整えたり、財産管理、遺言作り、介護経済など介護にかかるお金や治療の問題なども家族で話し合ってできます。あるいは見当を立てることができ、将来の不安がやわらぎます。
- 認知症は脳の機能が健常者とは違い、働かず、破壊されていきます。本人が一番不安と失望と戦っています、そしてやがて、それも忘れ、数年後には寝たきり状態になっていく病気です。
- 食事をしたこと自体を忘れ、家族の顔もわからなくなり、親身になって毎日世話をしてくれる家族にこそ、辛くあたったり、自分が忘れてしまったことが原因なのに、作り話で介護者を悪者扱いにしたりします。
- 認知症の人の介護は、脳の病気、と理解し、介護者は1歩先、1歩上を歩きましょう。
- 認知症の人の困った言動には、同じ土俵の上に乗らず、冷静になって、むきにならず、1呼吸して、1歩引いて、認知症の人の不安や失望をわかってあげましょう。
- 話を合わせ、「演技」を楽しむことができるようになれば、介護はどんどん楽になっていきます。

在宅介護、自宅介護、家族介護、呼び方は違っても、毎日身近でお世話をするのは、家族です。少しでも介護の負担が軽くなりますように、参考になれば幸いです。次回はリハビリや福祉サービスを活用することを学習していきます。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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