認知症と糖尿病には深い関係があったのです。しかも普段の食習慣から来ているというのです。アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、うつ病にもそこに原因が。そして、そこさえ押さえた食習慣を作っていけば驚くほどの全身の改善があるということです。名医が考えた認知症にならない最強の食事術、を解説していきます。
著者 江部康二(えべ こうじ)
1950年、京都府生まれ。京都市右京区・高雄病院理事長。数多くの臨床活動の中からダイエット、糖尿病克服に画期的な効果がある「糖質制限食」の体系を確立。ブログ「ドクター江部の糖尿病徒然日記」(http://koujiebe.blog95.fc2.com/)にて糖尿病や糖質制限にまつわる情報を日々発信している。『「糖質オフ!」健康法 主食を抜けば生活習慣病は防げる!』(PHP文庫)、『内臓脂肪がストンと落ちる食事術』(ダイヤモンド社)など、多数の著書がある。
名医が考えた認知症にならない最強の食事術(2020年6月24日 第1刷発行)
(解説、引用しています)
身体にとって自然な食事を取り戻すコツ
「インスリン」がカギを握る

食事や間食で糖質を摂ると、膵臓(すいぞう)で「インスリン」というホルモンが分泌されます。
とくに多くの糖質を摂ると、基礎分泌の10~30倍ものインスリンが「追加分泌」されてしまうのです。
インスリンの「追加分泌」はアルツハイマー病と直接関わっています。近年の研究で、インスリンは脳の「海馬」(かいば)という器官からも分泌され、記憶物質として有効であることがわかってきた、のです。
ところが、糖質をたくさん摂ると「インスリン抵抗性」を招き、結果的に海馬で記憶を定着させるインスリンの働きを妨げてしまうのです。
さらにインスリンの追加分泌は、脳の中にアミロイドβがたまる一因になります。こうして認知症のリスクが高まってしまうのです。
そもそも糖質は3大栄養素の1つですが、人類が日常的に食事から摂取するようになったのは約1万年前から。人類がチンパンジーと別れて誕生したのが約700万年前なので、人類が穀物を主食としたのはわずか700分の1の期間にすぎません。人間の体は、過剰な糖質を摂る食事スタイルに適合できていないのです。
本書で紹介する食事術は、まさに人類にとって1番自然な食事スタイルです。本来の食生活を取り戻すことによって、いかに健やかな頭脳と体を取り戻すことができるかについてもお話したいと思います。
糖質だけが血糖値を上昇させる

「炭水化物」=「糖質+食物繊維」
「糖質とは何か?」(いまさらですが)糖質とは、タンパク質、脂質と並ぶ「3大栄養素」の1つ。
お菓子やジュースにもたっぷり含まれています。しかし、気を付けるべきは、1日3食きちんとご飯が危ないのです。
なぜなら「主食」としているご飯やパン、めん類などの「炭水化物」は、糖質をたっぷりふくんでいるからです。そもそも「炭水化物」=「糖質+食物繊維」のこと。
よって、認知症を予防するためには、糖質のもとになる炭水化物を控える食事法が必要になってくるのです。ただし、炭水化物には食物繊維も含まれているので、炭水化物を減らす場合は他の食品から食物繊維を摂ることを意識しておきましょう。
ご飯よりもお肉のほうが健康的
ここで覚えておきたいことは、3大栄養素の中で唯一、「糖質だけが血糖値を直接上昇させる」、ということです。
タンパク質や脂質は血糖値を上げません。血糖値が上昇するとインスリンが分泌され、余った血糖を脂肪に変えるので肥満になりやすいのです。タンパク質や脂質のように糖質を含まない食材であれば、食べても大丈夫です。
つまり血糖値を上げないという観点で言うと、「何も食べずに我慢すること」と「おいしいお肉をしっかり食べること」はほとんど変わりません。
でしたら、おいしいお肉を食べて楽しい時間を過ごしながら、認知症予防をしたいと思いませんか?
ご飯1杯(茶碗1杯150グラムで約250キロカロリー)を食べるより、脂の乗ったサーロインステーキ(200グラム約1000キロカロリー)を食べるほうが健康的でダイエットにも効果的なのです。
低脂肪食よりも糖質制限食のほうが減量効果が高いことは、「ランセット」などの権威ある医学雑誌でも、すでに証明されていることなのです。
人類は700万年前、糖質オフだった

糖質は3大栄養素の1つですが、これを人類が日常的に食事から取り入れるようになったのは約1万年前からです。その時期に農耕が始まり、穀物(糖質)を安定的に口にできるようになりました。
1万年というと相当な期間に思えるかもしれませんが、人類が地球に誕生したのはおよそ700万年前ですから、そもそものスケールが違います。
人類はその歴史の中で、主食が穀物ではない「抵糖質の食生活」を700万年間過ごしてきた、ということになるわけですね。つまり、人間の体にとって糖質制限食が本来の食事スタイル、ということになります。
日本に限っていえば、日本人が米を食べ始めたのは、わずか2500年前の弥生時代から。それ以前の縄文時代は狩猟、漁労、採集によって動物や魚、肉、野菜、木の実、キノコ、海藻などを食べていました。
このように人類進化の歴史から考えてみると、人間の体は糖質を体内にたくさん取り入れることに慣れていないのです。そして実際、糖質を摂ることで血糖値が急激に上がって体にダメージを与えてしまうわけですから、この考えは当たっている、ということになります。
白米や小麦粉で血糖値が急上昇
農耕が始まる前の人類の食前食後の血糖変動幅と、農耕が始まって以降の変動幅には、およそ2倍もの開きがあります。
とくに精製された真っ白な小麦粉や白米は、消化と吸収がスピーディーなため血糖値も急上昇し、
変動幅は3倍になります。
本当は怖い「インスリン抵抗性」

アミロイドβがたまる原因の1つ
人間の体には自身を守るメカニズムが様々に備わっており、高血糖の害から身を守るメカニズムも、ちゃんと備わっています。
糖質は体内でブドウ糖に変わり、血液をドロドロ状態(高血糖)にするわけですが、ここで登場するのが、膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモン「インスリン」。
インスリンは、血中のブドウ糖、つまり「血糖」を筋肉の細胞内に取り込ませることでエネルギー源とし、血糖値を下げてドロドロ状態を解消する働きをもちます。
体内におけるインスリンの働き
- 糖質が胃や腸で消化され、ブドウ糖に分解される。その後、吸収され、血管に運ばれて、血糖になる。
- インスリンが筋肉細胞に血糖を取り込ませるように働きかける。筋肉は血糖をエネルギー源として利用した後、グリコーゲンとして筋肉や肝臓に貯蔵し、必要な時に使う。
- 筋肉で利用されずに余った血糖は、インスリンによって中性脂肪に変えられて体脂肪になっていく。
脂肪を蓄えることによって、大昔の人類は安定した食物がなかった時代を乗り越えてきたのです。ところが飽食の現代においては、インスリンによって脂肪を蓄えて太ってしまう害のほうが問題になってきました。こうしてインスリンは別名「肥満ホルモン」という悪名をもつようになってしまったのです。
さて、インスリンは普段から24時間休むことなく分泌されています。ただし、この場合は少量ずつ。これを「基礎分泌」といいます。涙や唾液も、普段は少量ずつ出ていますよね。似たようなものと考えてください。
ところが、食事を摂ると、基礎分泌に加えて「追加分泌」が出ます。とくに、糖質を多く食べると、基礎分泌の10~30倍ものインスリンが追加分泌されてしまうのです。
これは体にとって本来は異常事態です。涙や唾液がいきなり30倍も出てきたらビックリしますよね?このような異常事態がおきないように、人間の体には本来、身体の状態を一定に保つ「恒常性」の性質が備わっています。
もし、こういう異常状態が日常的に続くとどうなるかというと、2つのよくないコトが起きます。
- インスリンが出なくなること。
- インスリンは膵臓(すいぞう)のβ(ベータ)細胞から分泌されるのですが、その細胞が疲れ切ってしまうのです。これを「インスリン分泌低下」といいます。
- インスリンの効き目が弱まること。
- こちらは「インスリン抵抗性」といいます。ちなみに「インスリン抵抗性」の1番大きな要因は、糖質過剰摂取による内臓脂肪の蓄積です。
さて、インスリンの分泌が不足するか、出せているとしても効き目が弱まるとどうなるか?「糖尿病」と診断されます。
インスリンの大量分泌がアミロイドβ蓄積の原因
インスリンの「追加分泌」はアルツハイマー病とも直接関わってきます。なぜ、「追加分泌」が危険なのか?
インスリンは、食事や間食から糖質を摂りすぎると「基礎分泌」に加えて、大量の「追加分泌」で血糖値を下げに来てくれます。ありがたいです。そして、仕事が終わって余ったインスリンは「インスリン分解酵素」で分解されます。
「インスリン分解酵素」の働きは2つ
- 働きが終わって余ったインスリンの分解
- アミロイドβの分解
しかし、糖分の食べすぎにより、インスリン分解酵素が不足すると「アミロイドβを分解できない」、そこまで手がまわらなくなり、その結果「アミロイドβがたまる」、その結果アルツハイマー病のリスクが高まるということになります。
なぜ「インスリン分解酵素」が不足するのか?
日常的な多量の糖質の摂取は、血液中のインスリンを増やしてしまう=「高インスリン血症」=増えたインスリンの分解に追われ「インスリン分解酵素」が不足してしまうのです。
その結果「アミロイドβまで手が回らない、分解できない」その結果「アミロイドβがたまる」その結果「アルツハイマー病のリスクが高まる」という悪循環になります。
インスリンは記憶の定着を支えている

血糖を下げるだけじゃない
高血糖を解消するために、膵臓(すいぞう)から出るインスリン。近年の研究で、このホルモンは脳の「海馬」(かいば)という器官からも分泌されていることがわかりました。
なぜ、脳内でインスリンが分泌されるのでしょうか?
海馬というのは、主に「記憶」に深い関わりをもつ脳の器官です。「すぐに忘れていいもの」「覚えておいたほうがいいもの」その、取捨選択をするのが海馬です。頭の中に入ってきた情報は1時的に海馬に収納されます。これを「短期記憶」といって、数日間はここに置かれます。
海馬はその情報の中から「覚えておいたほうがいいもの」を選択し、脳内のしかるべき場所へと送り込みます。保管庫のイメージです。こうして保管された情報を「長期記憶」といいます。保管されなかった情報はそのまま自然消滅していきます。
海馬は記憶の種類を仕分け、定着させる
海馬はこうした情報の仕分けをする一方で、必要な時には長期記憶を引っ張り出してくる働きも担います。
久しぶりに会った人の名前をすぐに思い出せるのは、海馬の働きがスムーズだからです。逆に「やあやあ、ご無沙汰してました」と言いながらも内心では「えーっと、この人誰だっけ?」と言う場合は、海馬が長期記憶を引っ張り出すのに手間取っているということです。
海馬からインスリンが分泌されるのは、実は、その記憶をつかさどる働きを支えている、ため。「インスリンは記憶物質」としても有効であることがわかってきたのです。アルツハイマー病にかかると、真っ先に影響を受けるのが「海馬」です。
アルツハイマー病は記憶に障害が起きる病気ですが、それは海馬が冒されてしまったからにほかなりません。となると、インスリンと海馬の関係をさらに考察してみる必要がありそうですね、それに関しては事項でふれることにします。
インスリン追加分泌の危険

海馬の仕事が効率ダウン、ゴミもたまる
アメリカでは鼻から吸入するタイプのインスリンが販売されています。これは認知症を患った人に向けた商品ですが、この経鼻吸入用インスリンを健常者が用いると、15分後には記憶力がアップすることがわかっています。鼻から吸い込んだインスリンが脳内にスムーズに取り込まれることが理由です。
また、アルツハイマー病のラットを使った動物実験でもインスリンの投与によって認知機能が回復する、ことが明らかになっています。これらのことから、脳内における海馬が本来の機能を果たすためには、インスリンの作用がとても重要になっていることがすでに証明されているのです。
となると、こういうことが考えられそうです。すなわち「インスリンは出せば出すほど、記憶力が良くなるのではないか」。それについて考えてみることにしましょう。
海馬の働きを支えるのは、脳内で分泌されるインスリンだけではありません。すい臓から分泌されるインスリンも同じように活用することが可能です。こうなると、ますます「糖質をいっぱい摂ってインスリンを追加分泌したほうがいいのでは?」と考える方も出てきそうです。
インスリンが海馬の仕事効率のカギ
しかし結論をいうと、そうはなりません。
まず、脳には「血液脳関門」というセキュリティーゲートがあります。有害な物質が血液から脳組織に侵入すると大変なことになるので、それを防ぐために設けられているものです。
(この血液脳関門はのちにふれる「ケトン体」にも深い関わりがあります)
健康な人のすい臓から出されたインスリンは、このセキュリティーゲートをフリーパスで通ることができます。「海馬さんの応援に駆け付けました」「ご苦労様です、どうぞ、お通りください」といった感じですね。ところが「はい、ストップ。あなたは通れません」と言う事態が起きる場合もあります。
どういう時か?
全身のインスリン抵抗性が高くなっている時です。ストップをかけることで、脳内のインスリン抵抗性が高まるのを防ぐわけです。「インスリン抵抗性」とは、インスリンの効き目が弱くなっている状態。
糖質の摂りすぎで通常の30倍ものインスリンを常に出し続けていると、内臓脂肪が過剰に蓄積します。そうするとTNFα(ティエヌエフアルファ)やPAI-1(パイ-ワン)といった悪玉ホルモンが出てインスリン抵抗性をもたらします。
普段からインスリンを湯水のように使っていると、本当は、海馬で記憶の定着を助けていたはずの活躍ができなくなってしまいます。
糖質をたくさん摂ることによって起こる、「インスリンの追加分泌」が頻繁に起こると、結果的に、海馬で記憶を定着させるインスリンの働きを妨害することになってしまうのです。ここでも糖質制限食の重要性が感じられることでしょう。
糖尿病の人がアルツハイマー病にかかりやすいのは、こうしたメカニズムがあったからです。さらに、インスリンの追加分泌は、アミロイドβを分解するインスリン分解酵素を多忙にし、脳の中にゴミがたまりやすい状態にします。海馬の応援もできず、ゴミもたまりやすくなる。こうして認知症のリスクが高まってしまうのです。
誰もが歳を取ると多かれ少なかれ、インスリン抵抗性は高くなっていきます。それは自然の老化現象であり、仕方のないことといっていいでしょう。
ただ、自らインスリン抵抗性を高める生活習慣を続けているとなると話は別になってきます。やはり高血糖を防ぐ食習慣が大切なのです。
食後血糖値が血管を傷つける

脳血管性認知症を引き起こすかも!?
空腹時と食後の血糖値の差が大きい高血糖状態を、その形態から「グルコーススパイク」と呼んでいます。「スパイク」とは「とがったもの」という意味。
ご飯(糖質)を食べると1時間後には、急激な上昇、つまりグルコーススパイクが起きています。一方、焼肉を食べた時の血糖値はおだやかなままです。これが、糖質のみが血糖値を上げるということなのです。
グルコーススパイクによるリスク
血管の損傷
グルコーススパイクのたびに血管は傷つけられ、AGEsgs蓄積してやがては動脈硬化を招く事になるのです。その理由は、繰り返す食後高血糖により、毎日、血管壁にAGEsが蓄積していき、動脈硬化を生じ、血管を狭めたり、硬くしたりするからです。
これが長い時間をかけて進行していきます。動脈硬化になると血液が濁り、血栓がつまるリスクも高まります。これが脳で起きると、脳梗塞ということになります。
アルツハイマー病に次いで多い認知症は「脳血管性認知症」です。
この病気は脳梗塞や脳出血などで、脳の神経細胞がダメージを受けたことが原因で発症します。つまり、グルコーススパイクを1日に何度も繰り返していると、脳血管性認知症になる危険もまた高くなるのです。
いかにして、グルコーススパイクが起らないように過ごすか、がポイントになるのです。この現象を予防するには、第3章で述べる食事療法と、第5章で述べる運動療法、大きくはこの2つの方法があります。
疲れた時の甘いものは危険です!

人間はブドウ糖をつくることができる
「疲れた時は甘いものが食べたくなる」と言う人は多いのではないでしょうか。肉体的な疲れもそうですが、とくに頭を酷使した時などは甘いものを食べると脳がスッキリするという人は少なくないようです。
しかし、それは危険です!
糖質をもとにつくられるブドウ糖は確かに脳細胞で大量に消費されます。脳細胞以外でも酵素を運ぶ赤血球や目の網膜細胞もブドウ糖を使いますし、そもそも全身の細胞はブドウ糖をエネルギー源としています。このことから「疲れたら甘いもの」という考えが生まれたと思われますが、そんなことをすれば、グルコーススパイクを生じさせてしまうだけ。
実は、人間は自らブドウ糖をつくることができる、ため、甘いものをわざわざ摂る必要はないのです。その仕組みを「糖新生」(とうしんせい)といいます。
そもそも、人間の体は急激な変化を好みません。血糖値に関してもそれは言えることで、常に一定の範囲内に収まるようにしているのです。頭を酷使するなどの理由でブドウ糖をたくさん使うと、それを補充するために「糖新生」が行われます。
糖新生を活性化させる

糖新生を行うのは「肝臓(かんぞう)」。
もともとこの肝臓にはエネルギー源の予備として、グリコーゲン(ブドウ糖の集合体)が備蓄されています。ブドウ糖が使われ、血糖値が下がると、この備蓄された分が放出されます。ただ、肝臓に蓄えられているグリコーゲンは少量なので、それではカバーしきれないことも。
そういう時、肝臓はグリセロール(脂質の代謝物)やアミノ酸、乳酸などを使ってブドウ糖を作り出すのです。これが糖新生の仕組みです。
糖新生では脂肪が燃焼されることによって大量のカロリーを消費します。したがって、肥満防止にもなるのですが、外部から糖質が入れられると、糖新生そのものが行われません。「自分でつくらなくても済むのなら、わざわざカロリーを使ってまで働く事はない」と肝臓が甘えてしまうのかもしれません。
逆に糖新生の活性化を、常日頃から意識すれば、(糖質制限を行えば)糖質のもたらす脅威から脳を守れることになります。
脳はブドウ糖以外のエネルギー源も使える
もう1つのエネルギー源「ケトン体」
脳細胞はエネルギー源としてブドウ糖を大量に使います。しかし、ブドウ糖以外にもエネルギー源となる物質が存在するのです。その物質が「ケトン体」。
ケトン体は「肝臓(かんぞう)」で作られる物質で、原料は「遊離脂肪酸」(ゆうりしぼうさん)。この遊離脂肪酸は血中に含まれる脂肪酸のことですが、もとをたどると、中性脂肪に行き着きます。
肥満の原因となる中性脂肪を使うわけですから、ケトン体を作ることは、ダイエットにもなるわけです。ケトン体は脳のセキュリティーゲートである「血液脳関門」をフリーパスで通ることができます。
健康な人のインスリンと同じですね。ケトン体もインスリンも、脳の活動に大きく役立つ存在なのです。食事から糖質を摂らないようにすると、「糖新生」が活発になり、「ケトン体」も大量に作られるようになります。
ブドウ糖に加えてケトン体も、エネルギー源として脳に供給されるわけですから、それだけ脳の働きが良くなり、さらに疲れにくくなると言っていいでしょう。
ケトン体は体の若さを維持してくれる
ケトン体はブドウ糖ほど知られていないことや、さらに弱アルカリ性であるはずの血液が酸性になる
「糖尿病性ケトアシドーシス(酸性血症)」を引き起こす可能性があることから、危険視する人もいるようです。
しかし、糖尿病性ケトアシドーシスは、すでにインスリン注射を打っている人が、注射できなくなるなど、インスリン作用が欠乏した時のみに生じる病態です。インスリン作用が働いている一般の人ではまず心配しなくていい程度の問題です。
ケトン体の安全性の根拠の1つとして、生まれたばかりの赤ちゃんは、大人よりも数倍多い血中ケトン体を持っていることを挙げておきましょう。体に危険なものなら、赤ちゃんが体内でそれほどまでのケトン体を作り出すはずがありません。
脳細胞に限らず、ケトン体を体全体のエネルギー源として使えるようになると若さが保てるので、
それだけ老化を遅らせることができます。ケトン体をたくさん作れるようになることで、認知症のリスクも小さくなるのです。
「慢性炎症」を抑止、免疫力アップ!
効果1 アンチエイジング
糖質制限食の食事術の効果について紹介していきます。
近年、医療の分野で関心を集めている「慢性炎症」に対しても「糖質制限食」が有効です。「慢性炎症」とは、血管や細胞など体のあらゆる場所で起きている、慢性的な炎症のことで、がんや動脈硬化、うつ病、認知症などを発症させると言われています。
炎症というのは本来、体を守るメカニズムの1種です。わかりやすい例では、転んだ時にできるすりむき傷。周辺が赤くなったり、熱を帯びたり、かさぶたができたりしますよね?これらは傷を治そうとする生体防衛反応。一般的には「急性炎症」のことをいい、短期間で治ります。
しかし、炎症には長期化するものもあり、それを慢性炎症と呼んでいます。急性炎症との違いは、はっきりとした自覚症状がほとんどないこと。そのため、知らず知らず進行していくケースが多いのです。
肥満で増える脂肪が炎症を引き起こす
慢性炎症のおもな原因は老化による免疫機能の低下です。
私たちの体をつくる細胞は日々生まれ変わり、古い細胞は死んでしまいます。若いうちは免疫細胞の「マクロファージ」がその死んだ細胞を食べて体内をきれいにしてくれるのですが、加齢によって免疫機能が低下すると、食べ残しが増えてしまいます。
体内にたまった死んだ細胞は炎症を引き起こし、周囲の細胞にも悪影響を与えてしまうのです。また、肥満も慢性炎症を引き起こすことが、近年の研究では明らかになっています。
脂肪が増えすぎると、皮下脂肪から内臓脂肪へと広がっていきますが、そこでも炎症を引き起こしてしまうのです。
糖質制限食は、これまで再三ふれてきたように、ダイエット効果があり、老化を遅らせるアンチエイジング効果もあります。そのことが慢性炎症の抑止力にもあるわけです。
視力や歯の衰えをストップ
効果2 血流改善
高血糖状態では血管内のブドウ糖の濃度が高いので、血液が砂糖水のようにドロドロになり、血流が悪くなります。また、血管内のブドウ糖の濃度を一定に保つために水分で薄める必要が生じ、体の水分量が多くなります。この結果、血管がふくらむようになり、血管内の圧力が高くなることで高血圧となるのです。
本書の食事術を実践すると、血糖値を跳ね上げるグルコーススパイク(食後高血糖)の発生が抑えられ、本来のサラサラとした血液を取り戻せます。高血圧も自然に解消されることになります。
血流が良くなることで、体の隅々までたっぷりの酸素と栄養素が運ばれ、体が全体的に若々しくよみがえります。老化は血管から始まると言われるので、サラサラした血液はアンチエイジングには欠かせないわけです。
とくに毛細血管が元気になることは大きなメリットです。毛細血管が元気だと、肌はしっとりとした潤いを取り戻し、髪の毛もハリとツヤが出てくるようになります。
糖質制限食を始めた人は体重がストンと落ちることにまず驚きますが、そのあとは、体が若返ることで2度ビックリすることになります。ほかにも虫歯や歯周病が防げたり、聴力の衰えや、加齢による身長の縮みも遅らせることができます。
白内障のリスクも減らせる
また、血流が良くなることで視力の衰えもストップします。
江部ドクター(著者)自身の経験では、40歳くらいから始まっていた老眼が糖質制限によって進行が止まりました。70歳を迎えた今でも裸眼で「広辞苑」を読むことができます。
加齢による目の病気といえば「白内障」が良く知られています。白内障は水晶体が濁ることで視界がかすんでくる病気。実に70代の人の8割がこの病気になると言われているほどです。しかし、江部ドクター(著者)は幸いなことにその白内障にはかかっていません。
白内障は糖尿病が原因でおきることもあるので、その点でも糖質制限は有効と言えます。
睡眠の質が劇的に改善
効果3 食後に眠くならない
お昼ご飯を食べた後、強い睡魔に襲われた、という経験を持つ人は少なくないでしょう。その理由は、ズバリ、糖質を摂りすぎたからです。
昼食にたっぷりのラーメンをお腹いっぱい食べたとして、眠くなるのは食後の血糖値がグンと上がる1時間後くらいです。試しに昼食の糖質を減らしてみてください。たったこれだけで、お昼過ぎの眠気が驚くほど改善でき、仕事や家事のパフォーマンスを上げることができるでしょう。
なぜ糖質を控えると眠くならないのでしょうか?
野生動物をイメージしてみるとわかりやすいと思います。穀物などの糖質を摂らない野生動物は、血糖値が人間のように激しく上下することがありません。そして必要な時に眠り、起きるとすぐに活動を始めます。寝ぼけていては天敵に食べられてしまうので当然なのです。
良い眠りが認知症を防いでくれる
糖質制限をすると、まるで野生を取り戻したかのように感じる人もいることでしょう。食後の眠気でボーっとすることはなくなり、思考もクリアになります。また、夜の寝つきと朝の目覚めも良くなります。
日本人は世界的に見ても睡眠時間が少なく、慢性的な睡眠不足におちいっていますが、その解消にも糖質制限食は役立つのです。寝不足はアルツハイマー病を発症させる危険因子の1つです。
学習効果が高まる
効果4 意欲と集中力アップ!
糖質を控えるようにすると、血糖値が乱高下することなく安定するため、意欲や集中力が高まります。大人ばかりでなく、子どもにもいえます。
北九州や東京で「三島塾」という学習塾を運営している三島学さんの実証。三島さんはご自身で糖質制限食を実践して糖尿病を克服されました。そして、食後の眠気もなく、風邪もひかず、いつも元気はつらつであるのを見て、塾の子どもたちが三島さんの食生活に興味を持ったそうです。それで塾に通う子どもたちに「出来る限り糖質を摂らない食生活をしています」と教えてあげたそうです。
すると塾生たちも「お肉やお魚、卵、野菜などをたくさん摂るようにして、これまで食べていたお菓子やジュース、ご飯、パンラーメンなどは避ける食生活」を実践し始めたそうです。
その結果、塾での授業中に居眠りする子がいなくなりました。今まで机に座らなかったようなこどもが、落ち着いて机に向かうようになった、のです。集中して勉強に取り組めるようになったので、成績もぐんぐんアップしたそうです。これには親御さんも大喜びです。
アレルギーやアトピー、冷え性も改善!
体調の良くなる子どもたちも急増しました。アレルギーやアトピー、冷え性などで悩んでいた子どもたちの体質が改善したのです。「子どもたちに糖質制限食を」と言うと、「育ち盛りなのに大丈夫?」と危惧する人もいることでしょう。
しかし、心配することはありません。子どもたちの成長に必要な栄養素は糖質ではないからです。タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維。これらをたっぷりと食べさせてあげれば大丈夫です。
うつ状態の改善にも効果を発揮
効果5 精神的に安定する
厚労省によると、精神疾患の中でも患者数が最も多いとされているのが、「うつ病患者」です。日本において年々増加し、深刻な状態となっています。厚労省では重点的に取り組むべき病気として「5大疾病」を指定しています。そこには精神疾患も含まれているほどです。
5大疾病とは?
- うつ病
- がん
- 脳卒中
- 急性心筋梗塞
- 糖尿病
うつ病は脳内にある「セロトニン」という神経伝達物質の不足が引き金になる、といわれています。セロトニンは「トリプトファン」という必須アミノ酸を原料とします。アミノ酸はタンパク質を構成するものですから、要はタンパク質をしっかりと摂取することが大切ということです。
グルコーススパイクは精神状態を不安定にする
糖質を摂ると、血糖値が急激に上がり、急激に下がります。このグルコーススパイクは血管を傷つけるだけでなく、メンタルにも悪影響を与え、気持ちを不安定にしてしまうのです。
結果として、気分の落ち込みやイライラといった状態を呼び起こすことになります。それが、うつ病につながっていくことも充分に考えられるのです。
気分が落ち込むと何もやる気が起きず、ついつい人生を後ろ向きに考えてしまいがち。そうなる前に糖質をシャットアウトする食事術を身につけましょう。
うつ病は認知症のリスクを上げることにもなるので、普段から気分が落ち込みやすいという人は、
なおさら意識してほしいと思います。
なお、糖質制限がすべての精神疾患に効果があるとまでは言えません。たとえば、双極性障害や統合失調症などは、専門医でなければ解決できないと考えてください。
太っていた人はスルスルやせる!
効果6 理想体重を維持できる
糖質を摂りすぎると、血糖が中性脂肪に変えられて、体脂肪になるので、太りやすくなります。逆にいえば、糖質を摂らないようにすると体脂肪が増えることもなくなるわけです。
「脂質を食べたら太るのでは?」と思う人もいるでしょうが、食事から摂った脂肪が、そのまま体内で脂肪になって蓄えられるわけではありません。
実は、このことはまだ知らない人のほうが多いでしょう。これを知っていれば、「勘違い」しなくて済むわけです。これです・・・
脂ののったステーキやマグロのトロは我慢しているのに、いっこうにやせない・・・これは「勘違い」です。
糖質制限食は、体脂肪を増やす元凶である糖質を控えるため、当然ながら太りにくくなります。それだけではなく、体がブドウ糖から脂肪へと、エネルギー源を切り替えるので、今までため込んだ脂肪がどんどん消費されることになります。必然的に体はスリムになっていくわけです。
約3週間で体質が変わる!
糖質制限食を開始して数日で1~2キログラムの体重が減少します。これはまず、水分が排出されたためです。その後、脂肪がしっかり燃え始めて、1~2週間で2~3キロの減量が見込めます。
そこで満足せずに、3週間くらいは続けて、「脂肪をメインエネルギーとする体」に切り替えてしまうこと、です。ここまでくれば、カロリーを気にすることなく食べても、多少のことならリバウンドしません。
そのダイエット効果はほんの1~2週間で実感できるので、早く始めるに越したことはありません。
ちなみに、運動をしなくても体重は落ちますが、運動を取り入れると、さらに効果は高まります。
肥満は「万病のもと」ともいわれます。糖質制限食は、その悩みをあっさりと解消してくれる、というわけです。
サプリではなく食事から栄養を摂る

体の酸化を防ぐためには、抗酸化作用をもつ栄養を摂ることが大切です。具体的には、ビタミンエース(A・C・E)、ミネラル、ファイトケミカル。これらを「手っ取り早くサプリメントで摂ろう」と思う人もいることでしょう。ハッキリ言って、それはおすすめできません。
1つには、栄養素の中には単独で摂ると害になるものもあるからです。たとえばビタミンAを過剰に摂取すると頭痛や吐き気をひきおこします。医師が処方するサプリはある程度信用できますが、サプリはあくまで栄養補助食品です。
栄養は食事から摂るのが1番。そもそもサプリを食事の代わりにするというのは味気ないですよね?
人生において食事は大きな楽しみの1つ。おいしいものを味わう喜びも、脳の健康には不可欠と江部ドクター(著者)は考えています。
まとめ
「糖質」だけが血糖値を上げ、様々な炎症を起こす原因です。
そもそも「糖質」は3大栄養素の1つですが、人類が日常的に食事から摂取するようになったのは約1万年前から。人類がチンパンジーと別れて誕生したのが約700万年前なので、人類が穀物を主食としたのはわずか700分の1の期間にすぎません。人間の体は、過剰な糖質を摂る食事スタイルに適合できていないのです。
人間の体には、高血糖の害から身を守るメカニズムの「インスリン」というホルモンが血糖値を下げにきてくれます。しかし、現代の食事スタイルでは糖質を過剰に摂りすぎてしまい「インスリン」が大量に使われ、処理しきれなくなったゴミが、体内や脳内にたまり、糖尿病やアルツハイマー病などの認知症を引き起こすと江部ドクターは言っています。
まさに人類にとって1番自然な食事スタイルは「糖質制限食」。本来の食生活を取り戻すことによって、健やかな頭脳と体を取り戻すことができるとも言っています。
持って生まれた体質もありますが、毎日の食習慣に少しの意識をするだけで、将来が明るく健康的になります。人生の最後の日まで、自分の手足で生きがいを持って過ごし、自由に健康でいたい人には大切なお話でした。
次回は「糖質制限食の食材選びと食べ方」をご紹介いたします。「糖質制限食の正解」の最新常識にも注目です。最後までお読みいただきありがとうございます。参考記事です。
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