認知症「なぜそのような行動をするのか?」理解と対応ポイント

認知症ケア06

認知症の人のケアや介護では、症状が「なぜ」起きるのかを理解できるかどうかが大きなポイントです。認知症ケアには、理解するための「9大法則・1原則」があります。認知症の症状は人によって様々な現れ方をしますし、理屈や一般常識は通じないのです。介護の負担に押しつぶされたり、疲労困ぱいしないようにこれを理解しましょう。

こころのクスリBOOKS よくわかる認知症ケア(主婦の友社)

川崎幸クリニック院長 杉山孝博 監修

1973年、東京大学医学部卒。東京大学医学部付属病院で内科研修後、地域医療に取り組むために川崎幸病院(神奈川県川崎市)に勤務。1981年、「呆け老人をかかえる家族の会(現・認知症の人と家族の会)・神奈川県支部」の発足当初から会の活動に参加。現在、(社)認知症の人と家族の会副代表理事、神奈川県支部代表。往診・訪問看護を中心にした在宅ケアに取り組み、「認知症をよく理解するための9大法則・1原則」「上手な介護の12か条」を考案、普及。NPO法人全国認知症グループホーム協会顧問や、厚生労働省関係委員としても活躍中。主な著書・監修書に「杉山孝博Dr.の認知症の理解と援助」(クリエイツかもがわ)「ぼけー受け止め方・支え方」(家の光協会)「痴呆症老人の地域ケア」(医学書院)「認知症・アルツハイマー病、介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)などがある。

(解説、引用しています)

  1. 認知症を正しく理解すると介護は楽になる
  2. 「介護家族がたどる4つの心理ステップ」
    1. 第1ステップ・・・とまどい・否定
    2. 第2ステップ・・・混乱・怒り・拒絶
    3. 第3ステップ・・・割り切り・あきらめ
    4. 第4ステップ・・・受容
  3. 医学的な知識
    1. メリット
    2. 原因となる病気
    3. 治せる可能性がある認知症
    4. ケアによって減らせる認知症状
  4. 認知症をよく理解するための「9大法則・1原則」
    1. メリット
    2. 第1法則 「記憶障害に関する法則」3つの特徴
      1. 新しいことが覚えらないが、過去の記憶は残る
        1. ① 新しいことが覚えられない
        2. ② 経験したことを丸ごと忘れる
        3. ③ 過去の記憶の中で生きる
    3. 第2法則 「症状の出現強度に関する法則」
      1. 身近な人に対するほど、強い症状を見せる
    4. 第3法則 「自己有利の法則」
      1. 自分が不利になることは、けっして認めない
    5. 第4法則 「まだら症状の法則」
      1. 「しっかり」と「おかしい」が入り混じる
    6. 第5法則 「感情残像の法則」
      1. 頭はボケても、感情だけは残る
        1. 認知症の人に良い感情を残すための3つのポイント
    7. 第6法則 「こだわりの法則」
      1. 1つのことにこだわり、やめない
    8. 第7法則 「作用・反作用の法則」
      1. 対応が強いほど、反応も強くなる
    9. 第8法則 「症状の了解可能性に関する法則」
      1. 難しい症状も、認知症の人の立場で見るとわかる
    10. 第9法則 「衰弱の進行に関する法則」
      1. 認知症の人の老いは、早く進む
    11. 介護に関する 1原則
      1. 認知症の人の世界を理解し、大切にする
  5. 認知症をよく理解するための「9大法則・1原則」まとめ
    1. 介護者の声
      1. 「母は私に甘えていた」
      2. 「母の表情は、私の心を映す鏡」
      3. 「病気について調べるうちに覚悟ができた」
    2. 最後に

認知症を正しく理解すると介護は楽になる

認知症の症状は非常に多様で、(十人十色)人によって様々な現れ方をしますし、理屈や一般常識は通じないのです。病気だとわかっていても、困った症状や言動に直面するととまどい、振り回されて、しだいに介護する側が疲労困憊してしまいます。

しかし、あなただけではありませんから、あまり落ち込まずにいてください。

認知症の人を介護する家族は、必ずと言ってよいほど、「4つの心理ステップ」をたどります。今、あなたはどこにいますか?

「介護家族がたどる4つの心理ステップ」

認知症ケア02

第1ステップ・・・とまどい・否定

家事や身の回りのことなど、何でもできた親や祖父母に不可解な言動や行動が現れるようになったとき、家族は戸惑い、なかなか受け止められません。認知症を疑うものの、そんなはずはないと否定したり、放置したり、疑問を肉親に打ち明けられず1人で悩む時期です。

第2ステップ・・・混乱・怒り・拒絶

認知症の症状が激しくなってくると、家族中が振り回されます。介護者はまだ病気への理解が不十分で、混乱したり、イライラしてささいなことにも怒り、しかります。精神的にも身体的にもクタクタになり疲労困ぱいし、認知症の家族を拒絶する気持ちも生まれる時期です。

第3ステップ・・・割り切り・あきらめ

介護者は起こったりイライラするのは自分にとってもソンだと思い始め、割り切るようになります。また、認知症の人の(あるいは家族)行動を正常に戻そうとする試行錯誤は何の効果もないと気づき、あきらめの境地にもなります。認知症の症状が同じようにあっても、介護者が深刻に悩まなくなるため、問題性は軽くなります。

第4ステップ・・・受容

介護者は、認知症への理解が深まって、認知症の人の心理を自分自身に投影できるようになります。この段階になると、その人のあるがままを認め、受け入れられるようになります。第1ステップ~第2ステップ状態を早く抜け出すためには、認知症の症状の背景にある意味を知ることが大切です。

医学的な知識

脳(扁桃体)

メリット

  • まちがった思い込みを避けられる
  • 誤解や偏見にとらわれなくなる
  • 症状を冷静にみることができる
  • 医師や看護、介護などとの連携や理解もできやすい

原因となる病気

  • アルツハイマー病
  • 血管性疾患(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)
  • レビー小体型認知症
  • 前頭側頭型認知症(ピック病)

治せる可能性がある認知症

  • 慢性硬膜下血腫
  • 正常圧水頭症
  • (病気が悪化してしまわないよう早期発見が非常に重要です)

ケアによって減らせる認知症状

  • 「中核症状」(記憶障害、見当識障害、判断力障害、認知機能障害)は脳の神経細胞が壊れるために起こり、症状の進行を止めることは困難です。
  • 「周辺症状」とは、中核症状によって現れる症状で、「徘徊」「抑うつ」「失禁・弄便」「幻覚」「妄想」「睡眠障害」「暴言・暴力」上手に対処すれば減らすことができます。

認知症はやっかいな症状(問題行動)である「周辺症状」を上手に対処すれば、適切な介護ができ負担を減らせます。生活することの難しさに一番苦しんでいるのは、認知症の人自身なのです。その理解を助けるのが、医学的な知識です。

認知症をよく理解するための「9大法則・1原則」

認知症ケア

メリット

  • 認知症の人の複雑な言動がシンプルに整理できる
  • 「なぜそのような行動をするのか?」意味がわかってくる
  • 法則を頭に入れておくと、困ったとき対処法がわかる
  • 症状を客観的に受け止められる
  • 認知症への理解が深まり、介護に余裕が生まれる

第1法則 「記憶障害に関する法則」3つの特徴

新しいことが覚えらないが、過去の記憶は残る

① 新しいことが覚えられない

今話したことも、見たことも、行ったことも、直後に忘れてしまうほどの「ひどい物忘れ状態」になります。これを介護者はまず理解する必要があります。

  • よく見られる行動
    • 同じことを何十回、何百回と繰り返す
    • 「わかりました」と言いながら、また同じ質問を言う
  • 良い対応
    • 質問には、前と同じでよいので、何度でも繰り返し答えてあげる
    • 物忘れは認知症の特徴と割り切る
    • 「記憶にないことは、その人にとっては事実ではない」ことを理解する
  • 悪い対応
    • 「何度言ったらわかるの!」としかる
    • 同じことを繰り返すのを怒って、直そうと言い聞かす(叱られた、怒られたと、介護者へ悪感情を抱き、症状が悪化する)
② 経験したことを丸ごと忘れる
  • よく見られる行動
    • 食事をしたばかりなのに「食べてない」「食べさせて」という
    • デイサービスに出かけても、行ったこと自体を忘れている
  • 良い対応
    • 食べたがる時は、気持ちをそらせる工夫をする
    • 新しいことを覚えてもらう、といった期待はしない
  • 悪い対応
    • 他の人の食事に手を出したのを、叱って自尊心を傷つける
③ 過去の記憶の中で生きる

具体的には、現在を起点として数年分、数十年分の記憶をごっそり忘れてしまう、といったことが起こるのです。ですから、「その人にとっての現在」は、最後に残った記憶の時点になります。70才のお年寄りに年齢を尋ねても「40才」とか「18才」といった答えが返ってくるのはそのためです。

  • よく見られる行動
    • とっくに退職しているのに朝になると背広を着て会社に出かけようとする
    • 夕方になるとソワソワと荷物をまとめ、昔住んでいた家に帰ろうとする(夕暮れ症候群)
    • 自分の息子、娘、を父親、母親、あるいは兄弟、姉妹と思い込んでいる
    • 自分はまだ18才なので、結婚前の旧姓で呼ばれなければ返事をしない
  • 良い対応
    • 認知症の人が生きている過去の世界を一緒に楽しむ
    • 昔の旧姓で呼んであげる
    • 「家に帰る」という場合は、一緒に近所を一回りしてくるなどの工夫をする
  • 悪い対応
    • 「とっくに定年になっているでしょう!」と説得する
    • 「自分の子どものこともわからないなんて」と嘆く
    • 外に行こうとするので、玄関にカギをかけて閉じ込める

第2法則 「症状の出現強度に関する法則」

身近な人に対するほど、強い症状を見せる

毎日大変な苦労をしながら身近で介護をしている家族ほど症状の実態がわかっているのです。
これが理解できていないと、介護者と周囲の人たちの間で大きなズレができてしまいます。

「一生懸命お世話しているのに、お義母さんは私を泥棒と言ったりする」とお嫁さんが涙の訴えをしても同居していない家族(夫の兄弟姉妹など)は、大げさすぎると言ってお嫁さんの苦労に感謝しないばかりか、「親を悪く言われた」と非難するといったズレたケースがあります。

理解のポイント

認知症の人は何故、相手が身近な人ほど強い症状を見せるのでしょう。可能性として考えられるのは、認知症になると「子ども返り」をするのではないかということです。

子どもは、いつも世話をしてくれる母親に対しては、甘えたりわがままを言って困らせます。ところが、よその人には意外にしっかりした態度を取ります。母親を信頼していくからこそ、わがままがでるのです。

認知症の人も、介護者を頼りにしているからこそ、症状を強く出すのです。甘えられていると考えれば、報われない怒りや悲しみは、少しやわらぐのではないでしょうか。

対応のポイント

・周囲にいる人は、症状の実態を一番わかっているのは介護者だということを、ぜひ理解してください。「おばあちゃん、ずいぶんしっかりしていますよ。そんなにボケていないじゃないですか・・・」励ますつもりでかけた言葉が、かえって介護者の気持ちを傷つけてしまうこともあるのです。介護者を尊重し、感謝しましょう。

・身近な介護者は家族ばかりとは限りません。ヘルパーが症状を強くぶつけられる対象となることもあります。認知症の人が「ヘルパーに大切なものを盗まれた」と言い始めたら周囲の人は、ヘルパーを疑うより前にこの第2法則を思い出してください。

第3法則 「自己有利の法則」

自分が不利になることは、けっして認めない

たとえば、おもらしをしてしまったときに、家族から「またやったでしょう」と濡れた床を示されても「犬だろう、もしかしたら孫かな」などと見え透いたウソを言います。素直にあやまってしまえば済むことでも平然とウソをついたり、自分に都合の良いことばかり言う勝手な態度に、悪感情を抱き、介護意欲を低下させてしまう家族も少なくありません。

理解のポイント

認知症の人が自分の不利を認めないのは「自己保存のメカニズム」が本能的に働いているためと考えると、わかりやすいでしょう。認知症になると認知機能が低下するため、本能的な行動ばかりがむきだしになり表面に現れやすくなります。

対応のポイント

・認知症の人のウソをついたり、自分のミスを他人のせいにする言動にイチイチ目くじらを立てないようにします。説教をしたりさとしたりすることは、ムダな努力であることを知りましょう。これもまた認知症の症状の1つととらえることが大切です。

・認知症の症状に振り回されていたら、その症状は「自己有利の法則」で説明できないか考えてみます。そうすることで、無意味なやりとりや、害にしかならない押し問答を繰り返して、疲弊せずに済み、混乱を早めに収束させることができます。

第4法則 「まだら症状の法則」

「しっかり」と「おかしい」が入り混じる

認知症になっていても、いつも異常な行動をするわけではありません。「しっかりした部分」(正常な状態)と「おかしな部分」(認知症状態)が入り混じっている「まだらボケ」状態は、認知症の初期から末期まで通して見られます。

ここに家族の混乱があります。「しっかり」と「おかしい」が入り混じる、これは認知症の症状なのかどうか見分けられず、振り回されてしまうのです。

しかし健常者ならしない異常な言動があり、それで問題が起こっているとしたらその言動は認知症の症状です。とまどいや混乱を捨て、病気と割り切って接することが大切です。

理解のポイント

「しっかり」しているのは、健常な部分の機能が残っており、その脳が働いているためと考えるとわかりやすいでしょう。

対応のポイント

同じ認知症の人の言葉でも、日常的にはあまり問題がない「しっかり」が多い人から、「私の大事な着物を隠したでしょう、返しなさいよ。」と聞くと、介護者はとまどい混乱します。一方、寝たきりの人からだったらこんなこと言われても、「どうせ本気で言っているわけではない」と聞き流せます。

認知症の症状はどうとらえるかによって、問題が大きくなったり、小さく済ませることができたりします。混乱したり、迷ったりせず、病気と割り切りましょう。

第5法則 「感情残像の法則」

頭はボケても、感情だけは残る

認知症の人は、自分が話したり行動したことはすぐ忘れてしまいます。(記銘力の低下)しかし、そのとき抱いた感情は、残像のようにいつまでも心に残り、忘れません。

やっかいなのは、楽しい出来事はすぐ忘れても、嫌な思いをしたという感情は、いつまでも残ることです。ここで思い出してください。「介護家族がたどる4つの心理ステップ」を

第1~第2の心理ステップにある介護者に知って頂きたいことです。「とまどい・否定」「混乱・怒り・拒絶」の心理段階にある介護者は、認知症を少しでも軽くしたいと思い、教えたり、説明をしたり、しかったり、注意したりします。

すると、言われたことの内容は忘れても、そのとき「いやな思いをした」という感情は認知症の人の心にしっかり残り、症状が悪化したりします。

また、言った相手(介護者)をうるさい人、嫌なことを言う人、怖い人ととらえてしまいます。そのため、介護はますます難しくなります。

理解のポイント

認知症の人は一般常識が通用する「理性の世界」から出てしまい、「感情が支配する世界」に住んでいると考えるとわかりやすいでしょう。

対応のポイント

認知症の人は介護者の気持ちを「」のように映します。介護者がイライラと接すると、認知症の人の気持ちも不安定になります。一方、思いを理解しながら優しく接すると、症状がおさまり、おだやかな顔になっていきます、

認知症の人に良い感情を残すための3つのポイント
  • ① まず、ほめる
    • 最初は、ほめたり感謝する言葉から。言い方しだいで、その後の介護が楽にもなれば、難しくもなります。
  • ② 同情や共感を示す
    • たとえば「モノが無くなった、盗まれた」と騒いでいたら、叱ったり怒ったりせず「それは大変ね、困ったわね」と相手の気持ちになって声をかけます。一緒に探してあげて、みつかったときは「良かったね」と喜んであげれば、症状はしだいに治まります。
  • ③ あやまる
    • 介護をするとき、まず「ごめんなさい」と声をかけます。たとえば「ごめんね、おむつを取り替えましょうね」というふうに。相手が不安に感じている時でも、謝りながらやると、スムーズな対応ができます。

第6法則 「こだわりの法則」

1つのことにこだわり、やめない

認知症の人には、「1つのことに集中すると、そこから抜け出せない」という特徴があります。周囲の人が説明したり、説得したり、否定するのは逆効果。そうされればされるほど、本人はこだわり続けます。

よく見られるのは、外出するたびに物を拾ってきてしまい込む、しまってある着物をタンスから引っ張り出し、部屋中に広げる、などです。

理解のポイント

誰でも、大切にしているものやお金がなくなると、他人のせいにすることがあります。それでも、自分で自分を客観的に見ることができれば、冷静になれます。しかし、認知症の人の場合は、それができずに、「見つからない」が「盗まれた」に結びついてしまうのです。

対応のポイント

  • そのままにしておく
    • 認知症の人にとって、自分の目で確認できないものは「存在しない」のと同じです。そのため、タンスにしまってあっても引っ張り出して確認します。着物が汚れたり、部屋が散らかっても、命に関わるほどのことではありません。
    • 無理にやめさせようとしたり、こだわりを直そうとすると介護者のいら立ちもつのります。そのままにしておけば、お互いの気持ちも楽になります。
  • 場面転換をする
    • 何度説明しても、認知症の人には通じません。
    • 興味が他の物へいくよう、場面を変えてあげるのも方法。一緒にお茶を飲んだり、軽い食事などを出してあげるのもよいです。
  • 第三者に登場してもらう
    • 介護者の言うことは聞きませんが、第三者の言うことなら、すんなり従うことが多いものです。
    • 特に社会的に信用のある、学校の先生、郵便局員や銀行員、警察官、医師や看護師などは、認知症が相当進んでいる人でも信用します。
  • 地域の協力・理解を得る
    • 「もの集め」や「徘徊」などは、問題を介護者だけで抱え込まず、地域の人に説明して協力や理解を得ます。家族が安心して介護を続けるためには、重要なポイントです。
  • 先手を打っておく
    • タバコの火の不始末など、心配な行動には、あらかじめ安全対策をしておきます。そして、手を打ったら、不必要な心配はしないようにします。先の一手は、介護者の不安やストレスを取除く意味が大きいのです。
  • 認知症の人の過去を知る
    • お金にこだわる認知症の人が「物盗られ妄想」に駆られ、介護者を泥棒扱いすることがあります。家族にしてみればショックですが、その人の過去を知ることも大切です。
    • 物盗られ妄想を抱く人は、多くの場合、かつて経済的に苦労をした経験を持っています。
    • 人生の先輩の別の一面を知ると、介護者の見る目も変わり、対応も変わってくるでしょう。
  • 長くは続かないと割り切る
    • 認知症の人のこだわりは、基本的にはそれほど長く続きません。お金や食べ物など、生存と密接に関係するものへのこだわりは比較的長く続きますが、ほかのものは、だいたい半年から1年で消えます。

第7法則 「作用・反作用の法則」

対応が強いほど、反応も強くなる

認知症の人と介護者の関係は、間に「鏡」を置いたようなもの。お互いの気持ちや状態を映しあうのです。たとえば、リハビリや入浴などで体を強引に扱われることがあります。いくら本人のためであっても、無理強いすると激しい反抗となって返ってきます。

リハビリも入浴も、行う意味がわからなければ、認知症の人にとっては、ただ痛く、辛いだけの苦行、ということは理解しましょう。

理解のポイント

認知症の人から激しい抵抗にあったら、それは「進め方が悪かった」と理解したほうがよいのです。認知症の人の反応には、介護者の気持ちが映し出されますから、自分に余裕がなくなっていることを教えられたと受け止めましょう。

対応のポイント

そのままにしておいても差し支えなければ、抵抗している人に無理に進めなくてもよいでしょう。ただし、リハビリも入浴も、健康、体力維持のために重要なので、いったん引き、その場を離れ、様子を見ながらまたトライするといったことも認知症の人の介護には大切です。

第8法則 「症状の了解可能性に関する法則」

難しい症状も、認知症の人の立場で見るとわかる

たとえば、普通の人には奇妙でわかりにくい症状に、夜間の徘徊があります。なぜ、このようなことをするのでしょう。

暗い部屋で、記憶障害が起こった自分が1人で寝ている場合を想像しみてください。目を覚ますと、どこにいるのか、今何時なのかもわからない。恐怖のあまり、誰か知っている人を探して歩きまわっていると考えれば理解できるでしょう。

家族や周囲の人は「わからない」という視点ではなく、「理解する(了解する)」というところから介護をしてあげることが重要です。

理解のポイント

認知症の人の言動を正しく理解しようとするとき、認知症の人の過去の経験が、現在の症状と深く関連していることを覚えておきましょう。本人の生活歴や職業歴をくわしく知ることは、認知症の気持ちを理解する上で大変重要です。

対応のポイント

夜間の徘徊をする人への対応で、もっとも重要なポイントは、本人の不安や恐怖をいかに抑えるかということです。部屋も廊下も明るくしておき、目を覚ました時に自分のタンスや衣装が見つかるようにしておく、家族が添い寝をして「大丈夫」と手を握ってあげる、といった工夫をしてみてください。

第9法則 「衰弱の進行に関する法則」

認知症の人の老いは、早く進む

認知症の人の老化は、認知症でない人の2~3倍の早さで進み、2年で4~5才年を取った状態になると言われています。

高齢者を4つのグループに分け、それぞれの年ごとの累積死亡率を調べた追跡調査(長谷川和夫認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長)によると、認知症高齢者グループの4年後の死亡率は83.2%であったのに対し、正常な高齢者グループは28.4%。認知症グループの累積死亡率は、正常なグループの約2.5倍という高さでした。

理解のポイント

ただし、この特徴は、すべての認知症に当てはまるわけではないことは知っておいてください。同じアルツハイマー型認知症でも、非常に早く進行するケースもあれば、約20年にもわたっておだやかに進むケースもあります。また、病気の性質によっても変わりますし、落ち着いた環境で適切な介護をすることで、進行をゆるやかにできることもあります。

対応のポイント

介護の先が見えず「この状態がいつまで続くのだろう」と悩む家族は多いでしょう。そういった時は、こう考えてみてください。認知症の人の老化は、同じ年齢の正常な人と比べると、2~3倍のスピードで進みます。介護できる時間はあまり長くはないのです。悔いのないように、お世話をしてあげることが大切です。

介護に関する 1原則

認知症の人の世界を理解し、大切にする

認知症の人を介護するにあたって、必ず守るべき原則があります。それは、「認知症の人が形成している世界を大切にする。そして、その世界と現実とのギャップを、本人にはできるだけ感じさせないようにする」というものです。

ギャップを感じさせないためには、介護者など周囲の人は、認知症の人の感情や言動を受け入れ、その世界に合う「シナリオ」を考え、それを演じられる「名優」になる必要があります。

そうすることが、結局のところ、本人にも家族にとっても一番良い方法なのです。認知症の人が、自分は周囲から認められている、ここは安心して住めるところだ、と感じられるように日頃から介護を進めていってください。

たとえ症状がすすんでも、介護者が認知症の特徴を理解して温かく接すれば、認知症の人の感情が乱れて異常な行動を取ることはなく、安らかな状態を維持していくことができます。

認知症をよく理解するための「9大法則・1原則」まとめ

たった今言ったことも覚えていないひどい物忘れ、家族の名前や顔すらわからない失認(しつにん)、金銭やモノに対する異常な執着、徘徊、失禁など、認知症の人のこういった言動は、一般的な常識では理解しがたく向き合う家族は振り回され消耗、疲労困ぱいしていきます。

この「9大法則・1原則」は、川崎幸クリニック、杉本孝博院長が、数多くの認知症患者を診察してきた中でまとめたガイドで、多くの家族から「目からウロコが落ちた」「救われた」と評判を呼んでいるものです。

介護者の声

「母は私に甘えていた」

認知症になってからの母は、家族の中でも特に娘の私につらくあたりました。「大切な指輪を盗んだ」と疑ったり、「何もしてくれない」とののしったこともありました。一生懸命世話をしているのにむくわれず、母に対して怒りさえ覚え、介護する気力も失いかけました。

そんなとき、「9大法則・1原則」を知りました。「認知症の症状は、より身近な人により強くでる」という項目をみてハッとしました。医師からは「お母さんは貴方に甘えているんですよ」と言われました。それ以来、母が何を言っても軽く受け止め、聞き流せるようになりました。

「母の表情は、私の心を映す鏡」

母は昔かたぎのしっかりした人でした。ところが、認知症になってからの母は、見るからにボンヤリと頼りなげな様子になり、私もつい叱ったり励ましたりしました。

母は、私が何か言うたび身構えて、険しい表情でにらみ、ののしるようになりました。そんな母を見て、私の心もすさみました。家じゅうが修羅場になりました。今思えば、母のとげとげしい表情には、私の心が映し出されていたのです。

どんな対応をすると母が怒るのか、私もだんだんわかってきました。私がキリキリとがんばらなくなった頃から、母の表情もおだやかになっていきました。

「病気について調べるうちに覚悟ができた」

母の奇妙な行動は、自分がそれまで聞いたことのある認知症とは違っていましたので、まさかと思いました。しかし、突然大声で叫んだり、廊下を後ろ向きで歩くようになり、いよいよおかしいと大学病院を受診しました。

診断は、レビー小体型認知症。聞いたこともない病名でしたのでびっくりしました。ともかく、この病気について知りたいと資料を集め調べました。わけがわからないときは不安でしたが、病気の姿が見えてくるうち私の中の介護への気持ちも固まっていったように思います。

最後に

認知症について正しく理解すると、介護は楽になります。次回は「認知症になるとどんなことが起こるのか?」脳の神経細胞のダメージや発症の気づき、兆候や、初期段階から最期までの経過の流れなど詳しく見ていきます。認知症の人の介護に少しでもお役に立てれば幸いです。

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