今すぐ始められる「認知症」との付き合い方

快適な生活

2025年には700万人、これは何の数字かご存知ですか?65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されています。夫婦、親、親戚、兄弟、友人、あなた自身がなるかもしれません。認知症は脳の病気です。ありえない問題行動が現れ介護者は疲れ果ててしまうのです。介護者も本人もストレスを減らし、今すぐ始められる「認知症」との付き合い方をご紹介します。

【認知症の人がスッと落ち着く言葉かけ】(介護ライブラリー)

著者 右馬埜節子(うまの・せつこ)

1943年、岡山県生まれ。「認知症相談センターゆりの木」代表、株式会社日本エルダリーケアーサービス執行役員。1933年、中野区役所(東京都)の認知症専門相談員(非常勤)として介護の仕事に入り、2000年の介護保険制度施行と同時に民間事業所でケアマネジャーとして勤務を始める。2003年、自信が担当する認知症の人の居場所として、「デイホームゆりの木中野」を設立。その後、家族介護者の拠り所として「認知症相談センターゆりの木」を解説した。現在は「中野区地域連携型認知症疾患医療センター」の専門相談員を兼務するほか、研修・指導・講演にも携わっている。著書に「認知症の人がパッと笑顔になる言葉かけ」(講談社)がある。

(解説・引用しています)

参考までに

認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン) 厚生労働省→

「認知症」との付き合い方

これまでのおさらいです(忙しい方は飛ばしてください)

ヨット

ストレスの少ない介護の理解とコツ→

「優しい関係」と「言葉かけ」は認知症介護でも同じです→

常識は通用しません!認知症ケアのノウハウ→

認知症ケアの達人になれる介護技術と心得え→

認知症の人とどのようにかかわればいいのか、その最も基本的なところを説明します。

お年寄りの敵「3不足」

古い船と老人

① 栄養

  • 原因
    • 調理をおっくうがるようになり、菓子パンやスーパーのお惣菜、お酒、など自分の好きなもので片づけてしまいかちです。栄養が偏り、塩分過多、持病がある場合は悪化する恐れも。
  • 対策
    • 食べやすさとバランスを重視して、柔らかく、のど越しの良い物を家庭で用意する
    • 家族の作った料理の1部を食べやすくしてあげるだけで良い
      • (味を薄めたり、刻んだり、ミキサーで流動食にすると簡単)
    • 宅配弁当、配食弁当を利用する

② 水分

  • 原因
    • 脱水状態が起こりやすくなります。
    • 喉の渇きを感じにくくなる。
    • トイレに何回もいくのがおっくうなので、水分を摂らないようにしてしまう。
  • 対策
    • サラサラの水分は飲み込みにくくなるので「トロミ剤」を使う(薬局で販売している)
    • 食事に水分を多くしてあげる
      • (みそ汁、スープなど片栗粉やトロミ剤を使用して、飲み込みやすくする)
      • (おかゆスープでもOK)
    • おやつ風にする
      • (お茶やスポーツドリンクをゼリー状にしたりする)

③ 刺激

  • 原因
    • 体の機能が衰えてくる
    • 認知症に人はとくに外に出るのが不安で「こもり病」になる
  • 対策
    • 気候の良い日には、散歩に連れ出す
    • デイサービスなどを利用する
    • 世間話などをしたり、話題を作ってあげる
      • (話す、聞く、見る、体を使うなど、家族の仲間に入れてあげる)

「安全地帯」「安心座布団」で不安を解消

家の船

認知症の人は周囲の状況を上手くつかめずに不安を感じています。

【ケース①】
認知症のお母さんを病院に連れて行こうと車いすに乗せて外出しました。横断歩道のところでお母さんが突然、「ギャー、人殺し!助けてください」と叫び出したと言う出来事がありました。

認知症の人の気持ちはこのようなものです。(声に出して、叫ぶ人もいれば叫ばない人もいるが、気持ちは同じ)強い不安をいつも感じています。

認知症の人に落ち着いていただくには、ホッとする場所、安心な場所を
用意してあげればいいのです。著者は「安全地帯」と呼んでいます。

ちょうど車がビュンビュン行き交う道路の真ん中に、(斜線のひかれた)絶対に大丈夫な場所が設けられている、あのイメージです。そして、認知症の人に納得してそこにいて頂かなくてはなりません。

「ここにいていいんだ」「ここは自分の居場所だ」

と認知症の人に安心してもらう必要があります。認知症の人に「安心座布団」に座って頂くのです。座布団にスッと腰が落ち着くあの感じを、認知症の人に得てもらうのがベストです。(引き算の言葉かけをしましょう)

  • まとめ
    • ①「安全地帯」に案内する
    • ②「安心座布団」に座って頂く
    • ③「ここに居ていいんだ」「ここは自分の居場所だ」と思って頂く
    • ④ 引き算の言葉かけで、自ら「納得」して頂く

認知症の人と関わるときの「3原則」

ヨット06

認知症の人と関わるときの「3原則」

  • おどかさない
  • 追い詰めない
  • おびえない

ちょっと忘れ物をしただけで「認知症じゃないか」「病院に行ったら?」とお年寄りに言う家族がいます。心配しているつもりかもしれませんが、あまり言いすぎても本人をおどかして不安をあおるばかりで、いいことはありません。かけた言葉がお年寄りを追い詰めてしまうことさえあります。

【ケース②】
78歳のある女性は事あるごとに家族から「認知症じゃない?」「病院に行ったら?」と言われ続けたため、いつもおどおどして過ごしていました。そのうちに、うつ病になって本当に認知症になってしまったのです。(お年寄りは行動範囲も狭くなり、手助けを必要としています)

認知症というと何となく恐ろし気な感じがすることと思います。また、どのようにかかわってよいかわからない、と戸惑うかもしれません。しかし、本人こそ、不安で戸惑っています。(自分がどうなるのか、どこにいるのか、どうしたらいいのか不安なのです)介護者は恐れることなく接することが肝心です。

  • まとめ
    • 家族や介護者がおだやかであれば、認知症の人も落ち着きます。
      • 認知症の人
      • 家族
      • 介護職(自宅外の施設=デイサービス、ヘルパー、ケアマネジャーなど)
    • この三角関係を良好に保って信頼関係を築く事が大切です。「三面鏡」が心を映し出すのです。
    • 近づけば皆で歩みよることができるのだということを心得ておきましょう。

言葉を鵜呑み(うのみ)にせず「翻訳」する

ペリスコープ

認知症の人の言うことを何でも(そのまま)鵜呑みにしないことです。

認知症の人は、病気のために言葉が出にくくなっています。また言葉が出たとしても、適切な表現になっていないかもしれません。本人の言うことをもとに情報収集しているだけでは、命に関わることも起こりかねないので注意が必要です。

【ケース③】
作業現場の社員寮で、賄いの仕事を長く続けていた女性。若い頃から「ものを買ったつもり」「外食したつもり」の、いわゆる「つもり貯金」でコツコツお金を貯めてきた人でした。

歳を取って退職し、貯めるお金がなくなったのに、銀行に、「通帳とハンコを返して」と押し掛けるようになり、認知症と診断されます。閉じこもりがちになり、とうとうある日、救急車で運ばれて、入院してしまいました。原因は栄養失調と脱水とのことです。

この人の口癖は「私は貧乏だから」でした。周囲も本当に貧しいんだろうと思い込んでいたのですが、
その後ヘルパーが自宅に入るようになり、掃除のため押し入れを開けたところ、風呂敷包みの中から束ねた1万円札がドッと出てきたそうです。

女性は「貧乏のつもり」で飲まず、食べず、外出せずに貯め続けて入院となったことが、これでわかりました。「つもり病」がもとで、「3不足」が全部そろってしまったわけです。

この場合は救急搬送されて何とかなりましたが、たとえば高血圧や心臓病など、命に関わる持病がある認知症の人の場合はどうでしょうか。ちゃんと服薬してもらいたいところですが、本人が「飲みました」と言っても「飲んだつもり」になっているだけかもしれません。

  • まとめ
    • 「本人はこう言っているが、本当のところはどうなのか」
    • 「こんな言葉を使っているが、本当の気持ちはどこにあるのか」

と、認知症の人が発するメッセージを、状況の中に置きなおして正しく解釈したほうがいいし、場合によってはそれを周囲に伝えなければならない、ということです。この意味で介護者は、いい「通訳」になる必要があるのです。

認知症は「ものさし」ではかる

せっけいず02

認知症は進行性の病気ですが、言葉に着目すると、その進み具合を推し量ることが出来ます。これを著者は「認知症のものさし」と呼んでいます。本人にどのような対応をすればよいか、目安を得られるのが便利です。

1番役に立つのは、「おいくつになられましたか?」と年齢を聞く事です。

認知症のお年寄りが「いくつに見える?」とはぐらかすような問い返しをしてきたら、この方はまだ初期の可能性が高いと言えます。「自分の歳がはっきりわからない、思い出せない。けれども、それを悟られたくない」という気持ちがあるため、ごまかそうとしているのです。これに対し、たとえば85歳の人が「45です」などとあり得ない年齢を言う場合は、認知症がずいぶん進んでいると考えられます。

もう1つ、介護職が自宅を訪問した際などは、こういう言葉をかけてみる方法もあります。たとえば、夫に認知症の疑いがあり、妻がその介助をしている場合、妻が席をはずしたところを見計らって、

「私、女の人を見ると、奥さんだか娘さんだか、わからなくなっちゃうんです」と前置きしたうえで、「あの女性はどなたですか?」

と聞いてみるのです。そこで夫が「あれはおれの姉さんだよ」とでも答えたら、関係がわからなくなっているということなので、認知症が進んでいることがわかります。試していることを悟られると、人によっては怒り出すことがあるので、ちゃんと前置きをしておくのがポイントです。

認知症の人は行動にも特徴が出やすいので、介護者は注意して見てください。認知症の初期の人は人前ではしっかりしていて、見分けがつかないとよく言われますが、30分も経つと、ソワソワし始め、畳を触ったり、座布団の端をいじったりと、落ち着かなくなることが多いようです。

いわば長時間「いい子」状態でいるのに耐えられなくなるのでしょう。「もうお引き取りください」と言い出した人もいました。

また、認知症の症状として排せつ物をもてあそんだり(弄便=ろうべん)、イライラしやすくなったり、粗暴になることが良く知られていますが、それらは認知症がだいぶ進んでから出ることが多いようです。

家族の苦しさを忘れてはいけない

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認知症の人、自身が1番つらい思いをしているのは確かですが、認知症介護では、介護にあたっている家族もつらい思いをしていることを忘れてはなりません。

「家族が認知症」という事実、「介護で疲れた」というしんどさに、それまで積み重ねられてきた家族関係がからんでくるので、事態は複雑になります。

【ケース④】
たとえば、ある女性は、姑にいびられたトラウマから、実の娘をいじめ抜いたそうです。「あんたはお父さんに似て不細工だ。産むんじゃなかった」などという心無い言葉で、娘さんは何度も泣かされたとのこと。

このため、母が認知症と診断された後も、娘さんは介護を父親に任せて1人暮らしをしていました。
やがて父が亡くなり、母を引き取らざるを得なくなります。認知症のせいで、より頑固で強欲になった実母にののしられる日々が始まってしまいました。

娘さんは何度も母の死を願いつつ、その一方で母の死を願う自分を責めるという毎日だったそうです。

【ケース⑤】
家族の仲が良くても、苦しみは生まれます。ともに80歳のご夫婦です。2人とも几帳面できれい好き、活動的という具合で、性格がぴったり一致するのか、仲睦まじいカップルでした。テニスに水泳、俳句教室と、どこへでも一緒に通っていたのです。

ところがある時期から、妻の行動がおかしくなっていきます。コップをしまうべき棚に茶碗をしまったり、鍋のフタとやかんのフタの区別がつかなかったり、掃除機の使い方がわからなくなったり。

認知症が始まったのでした。妻が何もかも出来なくなっていくことを、夫は受け入れることが出来ません。何とか治そうと必死になりますが、空回りして悩むばかりです。相思相愛だっただけに、葛藤にも深いものがありました。

  • まとめ
  • 認知症に詳しい川崎幸クリニック院長の杉山孝博医師によると、認知症介護にあたる家族の心理的変化は、「否定」「混乱」「怒り」「あきらめ」を経てようやく、認知症の「受容」という段階に到達するのだそうです。

参考までに「介護家族がたどる4つの心理ステップ」→

  • 上手く付き合えるようになるまでに、家族がつらい思いをするということは、誰もが知っておくべきです。

絶対に避けたいのは「共倒れ」

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ところが苦しい立場におかれると、人はかえって自分のつらい気持ちや状況を、誰にも相談することなく、手助けも受けずに抱え込んでしまうことがあります。

認知症と付き合うとき1番よくないのが、この「抱え込み」です。とくに男性に多く、助けを求める=弱みを見せると考えるので、女性以上に抱え込む傾向があるようです。

また、会社勤めをしている人が、介護を理由に仕事を止めるケースもあります。もちろん、時と場合にもよりますが、このような形での退職は、基本的にはやめたほうがいいと思うと著者は考えています。

なぜなら、仕事をしているときは介護のことを忘れられますし、たまには同僚に愚痴を聞いてもらったり、日中は寂しくさせてごめんねという思いも生まれ、優しさにもつながります。

ところが仕事をやめてしまうと「家」という閉じこもった空間で、認知症の人と一緒にいるため「あなたがいるので何もできない」という不満になって行き詰ってしまいます。

お年寄りは先に亡くなっていきます。どんな介護にも終わりが必ずあります。問題はそれがいつなのか、はっきりしないところにあります。このように先が見えないため、家族は認知症介護によって、感じるつらさや疲れ、ストレスが永遠に続くような錯覚におちいります。

【ケース⑥】
ジロウさんは85歳で脳梗塞を起こし、救急搬送されました。リハビリに励むこと半年、体はほぼ元の状態に戻りましたが、認知症の症状が出始めます。食事をしたかどうかが分からなくなったり、言うことがチグハグになったり・・・

家族はジロウさんをデイサービスに通わせるようになりましたが、それから1年近くたった頃、彼は再び脳梗塞で倒れました。今度は前回ほど回復しませんでした。

車いすを利用するようになり、呂律(ろれつ)も回らなくなりました。言いたいことが言葉にならないためか、しょっちゅうイライラしています。そのうち自分の言いたいことや要求を忘れるらしく、途中からはただわめくだけです。

家では昼夜関係なく妻を呼びつけます。妻は少しでも休みたいので、別の部屋にいるようにしているのですが、呼びかけに応じないと、ジロウさんは伝い歩きでやってきます。これが毎日続いた結果、とうとう妻はノイローゼ気味になってしまいました。

そしてある日、妻はジロウさんに「ついに手をあげてしまった」のです。やがてジロウさんは大声を出す元気すら失い、妻はぼんやりすることが増えてきました。妻は介護疲れから、ジロウさんはその影響で、ともに疲弊していたのです。

このままでは「共倒れ」になると判断した時は、急いで滞在型の施設に預けるようにしましょう。ケアマネージャに相談しましょう。必ず解決策があります。

どんな人にも「施設どき」がある

灯台

「施設にお年寄りを入居させる」と言うと「かわいそうだ」とか「辛くてとてもできない」という意見がでてくることがあります。そのような見方を全面的に否定するつもりはありませんが、こと認知症介護いついて言えば、情や世間体に構っていられない場合もあると思います。

その意味で、どんな介護にも施設に頼るべき「施設どき」があります。

【ケース⑦】
ある家族は、お嫁さんが認知症の義母を介護していました。ある日、お嫁さんがパートから帰ってみると、家の中が羽毛だらけになっていて、ひどい便臭がしています。

認知症の義母が羽毛布団を破き、自分の排せつ物(便)を放り込んでこねくり回した後、それを部屋中にまき散らしたのでした。義母がこのようなことを度々するので、家族全員が後始末に追われ、疲れ切っていました。

排泄物がほこりと一緒に空気中を舞っているような状態は、認知症の本人にはもちろん、家族にも有害な環境だと言えます。悪くすると感染症にかかるかもしれません。

もはや、在宅(自宅、家族)で対応できるレベルとは言えないでしょう。

このように、誰にとっても劣悪な状態が生じるようであれば、介護家族が生きる気力を失わないうちに、施設利用を検討するべきだし、介護職もそれを勧めたほうがいいのではないかと思うのです。

「これでよし」と思えることが大切

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【ケース⑧】
民謡の先生だったサナエさん(85歳)は1人暮らしです。ボランティアで民謡を歌って頂くという名目で、私(著者)のデイサービスに来ていました。民謡を歌って喝采を浴びている時は、生き生きしています。が、自宅では、朝晩はヘルパーが入っていましたが、出かけたまま戻れなくなったり、火の始末も怪しくなってきました。

このまま独居を継続するのは難しい。かといって、彼女を引き取れるだけの経済力、介護力のある親類もいません。また「自分らしさ」がたくさん残っているうちに、何とか安心できる場所へつなげたい「今なら間に合う」と言う思いで、私(著者)は、グループホームを探しました。

本人には、「今度、うちで宿泊施設を作ったんですが」と前置きして、

「民謡でお客さんをおもてなしするために、泊りがけで手伝いに行ってください」

と引き算でお願いしました。本人の納得が得られたところで、「あっちではいつまでもいて欲しいと言われるかも知れないけど、必ず帰ってきてね」と付け加えます。「帰る場所がある」と強調しておくことで、知らないところへ連れていかれるという不安を少しでも減らしたいと思ったからでした。

入院するグループホームにはあらかじめ、私(著者)がサナエさんに言い含めたことをすべて申し送りしました。とくに強調したのは、あくまで「民謡の先生」として対応してほしいということ。
グループホームが居心地のよい場所となり、サナエさんが「住めば都」と思ってくれるように根回しをせねばなりません。

幸い、グループホームではいいケアが行われていたようです。サナエさんの入居後2か月ほどして様子を見に行くと、私(著者)のことはすっかり忘れている様子でしたが、「夕飯食べてって」と作り立てのカレーをもりつけてくれました。そして「みんなと一緒が楽しい」と言ってくれたのです。

介護には「迷い」と「後悔」が付きものです。お年寄りに施設に入居して頂く前後なども、介護者は「これでいいのか」「やっぱり家で看ることも出来たのでは」と後悔するものです。

ですが、認知症介護はどこかで「これでよし」と思いきることも必要です。施設を利用しなかったがために、不慮の事故が起ったり、家族共倒れになったりすれば、もっと「大きな後悔」が残ります。

介護者が、とりわけ家族が「もう十分やった」と心の底から思えるなら、それで十分ではないでしょうか。「小さな後悔」で済んでいるうちに切り替えるという考え方も必要なはずです。

どうにもならないときは「時グスリ」

ヨット02

とはいえ、希望すればすぐ利用を始められるわけではないでしょう。その一方、家庭で介護にあたる家族は「もうどうにもならない」という思いにとらわれたり、何をやっても上手くいかない、と感じることもあるはずです。

そんな時は「時グスリ」を使ってください。

これは「時は薬なり」と言う意味です。ほとほと困ったときや答えが見つからないときに、あがいたり、あせったりせず、じっと静かにしていれば、答えは意外と自然に出てきます。

行き詰ったとき、この薬のお世話になることがあります。薬が効くまでの「待ち時間」は様々で、1~2日のときもあれば1週間のときもあり、もっと長い時もありますが、その後、答えが見つかると「来た!」と声をあげ「これだったの」と、妙に納得することがあります。答えのほうから寄ってきてくれたという感覚です。

ことわざにも「待てば海路の日和あり」と言いますが、「時グスリ」はもっとも効果的で身近なものです。介護疲れに効く特効薬はありませんが「時グスリ」と思って待てば、答えと出会う前から心が落ち着き、薬になるかもしれません。

施設を利用するか否かに関わらず、苦しい時はぜひ試してみてください。

みんなで認知症と付き合う

ヨット03

介護というと、一般の人はどうしても「家で看るか、施設に入れるか」という2択で考えがちです。
このような考え方の背後には、「認知症は家族に任せるか、プロに任せればいい」という、
どこか他人事めいた雰囲気があります。それでいいのでしょうか。

認知症は、自分には関係のない「対岸の火事」ではなくなりました。これからは、みんなで協力してこの病気と付き合っていかなければならない時代です。

【ケース⑨】
町内会だったマサハルさんは、デイサービスに来てもソワソワして落ち着きません。「こんなところで油を売っていられない。お客が来る」と言います。「じゃあ、車を回しますから」と引き算してお茶を出すと、いったんは気をそらせます。ところがまた「帰る」というのです。引き留めようとすると、しまいには怒って暴れだしました。

無理強いはいけませんが、デイサービスにはいてもらいたいわけです。マサハルさんが納得できる方法を色々探しましたが、どうしても納得してくれませんでした。

マサハルさんの基本は「家を留守にできない」です。そこで、デイサービスの利用をあきらめ、自宅でホームヘルプを利用してもらうことにしました。自転車屋のお客を装って、安否確認してもらうのです。ヘルパーが入れない時間帯は、近所の人やボランティアを募って顔を出してもらいました。

「ご無沙汰してます」と言いますと、
「誰だったかね?」とマサハルさん。

「昔、うちの親がお世話になったので、近くに寄ったら、会長さんが元気にされているかどうか見てきてほしいと言われまして・・・」と答えます。
すると20分くらいは話してくれます。

このようにして、認知症の人の訪問の時は町内会の「知り合いを装い」ます。これも忘れることを利用した引き算ですが、マサハルさんはその都度「オウッ」とニコニコ顔になってくれます。

デイサービスの利用はできませんでしたが、ヘルパーや協力してくださる方、みんなで関わることで、
それぞれの負担を軽減しながら安否確認ができ、家族も安心でした。かろうじてではありますが、地元の協力を得て上手く対応できたケースです。

「やがて自分も通る道」「明日は我が身」

ヨット08 (1)

認知症は簡単な病気ではありませんが、みんなで協力すれば、
恐れることはありません。

【ケース⑩】
職場結婚したご夫婦でしたが、かつて2人が勤めていた会社から、同窓会のお知らせが届きました。
しかし、妻は主席するかどうか、悩んでいると言います。

夫の認知症はまだ、さほど重たくはないのですが、知らないところに行くと部屋を間違えたり、トイレに行ったきり部屋に戻れなくなったり、入口やドアを間違えたりするかもしれません。出席することで、夫が認知症だと周囲に悟られるかもしれず、それにも抵抗を感じるそうです。

夫に出席するかどうか聞くと「行くよ、カレンダーに書いておいて」と言います。妻は言われたとおりカレンダーに「同窓会」とメモし、変身のはがきも「出席」に〇をつけて投函したのですが、決心がつかなくて私(著者)のところに相談に来たのでした。

カレンダーを見るたび、同窓会のことが気になると言います。自分だけ出席しようか、それとも2人で欠席しようか、夫はもう同窓会のことは忘れている。カレンダーには鉛筆で書きこんだから、今、消しゴムで消してしまえばわからない。出席を約束した友達には、夫が風邪をひいたことにしよう・・・

答えが出せない妻に、私(著者)はこういいました。「消しゴムで文字は消せても、心の傷は消せませんよ」夫に無断で欠席に変えたら、この人はきっと後悔するだろう、そう考えてかけた言葉でした。

しばらくたったある日、お土産を持って妻がやってきました。嬉しそうな顔で「2人で行って良かった」と言います。泊ったホテルでは、大浴場で他人の洋服を着ようとしたり、トイレや部屋を間違えたりと、様々なことがあったけど、ほかの参加者が手を貸してくれたので、トラブルにはならず過ごせたとのこと。

「やがて自分も通る道ということを、皆さんよくわかってらしたようで・・・消しゴムを使おうとした自分が恥ずかしい、夫に懺悔しなければ」と語る妻のやわらかな笑顔が記憶に残りました。

認知症のお年寄りが身近にいたら、介護職や家族だけでなく、近隣住民、友人、知人、親類、縁者など、周囲にいる人たちはぜひ、力を貸してあげてほしいと思います。

認知症は他人事ではありません。「やがて自分も通る道」なのです。「怖い」「恥ずかしい」などと考えて、認知症介護を家や施設の中に閉じ込めるのではなく、これからの時代は、認知症の人と共に生きる方法を皆で真剣に考えねばならない時代です。

単に介護の負担を分かち合うだけでなく、認知症の本人も含めて、皆で楽しく暮らせる社会を作る方法はあるはずです。著者の提案する「引き算」の介護がその1部となれば、幸せな生活になっていくと思います。

まとめ

ロープ

介護者は「引き算」の言葉かけを使った介護以前に、最も基本的なことを知っておく必要があります。

認知症の人とどのように関わればいいのか

・お年寄りの敵「3不足」

認知症の人も含めて、お年寄りに不足させてはいけないもの3つ

  • ① 栄養
    • 食べやすさとバランスを重視して、柔らかく、のど越しの良い物
    • 家族の作った料理の1部を食べやすくしてあげるだけで良い
      • (味を薄めたり、刻んだり、ミキサーで流動食にすると簡単)
    • 宅配弁当、配食弁当を利用する
  • ② 水分
    • サラサラの水分は飲み込みにくくなるので「トロミ剤」を使う
      • (薬局で販売している)
    • 食事に水分を多くしてあげる
      • (みそ汁、スープなど片栗粉やトロミ剤を使用して、飲み込みやすくする)
      • (おかゆスープでもOK)
    • おやつ風にする
      • (お茶やスポーツドリンクをゼリー状にしたりする)
  • ③ 刺激
    • 気候の良い日には、散歩に連れ出す
    • デイサービスなどを利用する
    • 世間話などをしたり、話題を作ってあげる
      • (話す、聞く、見る、体を使うなど、家族の仲間に入れてあげる)

「安全地帯」「安心座布団」で不安を解消

認知症の人は周囲の状況を上手くつかめずに不安を感じています。「ここにいていいんだ」「ここは自分の居場所だ」と安心できる場所を提供してあげる。

認知症の人と関わるときの「3原則」

  • おどかさない
  • 追い詰めない
  • おびえない

家族や介護者がおだやかであれば、認知症の人も落ち着きます。

  • 認知症の人
  • 家族
  • 介護職(自宅外の施設=デイサービス、ヘルパー、ケアマネジャーなど)」

この三角関係を良好に保って信頼関係を築く事が大切です。

言葉を鵜呑み(うのみ)にせず「翻訳」する

認知症の人の言うことを何でも(そのまま)鵜呑みにしないことです。

「本人はこう言っているが、本当のところはどうなのか」
「こんな言葉を使っているが、本当の気持ちはどこにあるのか」

と、認知症の人が発するメッセージを、状況の中に置きなおして正しく解釈したほうがいいし、場合によってはそれを周囲に伝えなければならないということです。

認知症は「ものさし」ではかる

認知症は進行性の病気ですが、言葉に着目すると、その進み具合を推し量ることが出来ます。

「認知症のものさし」
本人にどのような対応をすればよいか、目安を得られるのが便利です。

  • 歳を聞く
    • 「お若くみえますが、おいくつになられましたか?」
  • 家族関係を聞く
    • 「お若くみえますが、あの方はどなたですか?娘さん?奥さん?」

試していることを悟られると、人によっては怒り出すことがあるので、ちゃんと前置きをしておくのがポイントです。

認知症の初期の人は人前ではしっかりしていて、見分けがつかないとよく言われますが、30分も経つと、ソワソワし始め、畳を触ったり、座布団の端をいじったりと、落ち着かなくなることが多い。

家族の苦しさを忘れてはいけない

認知症の人、自身が1番つらい思いをしているのは確かですが、認知症介護では、介護にあたっている家族もつらい思いをしていることを忘れてはいけない。

「家族が認知症」という事実、「介護で疲れた」というしんどさに、それまで積み重ねられてきた家族関係がからんでくるので、事態は複雑になります。

参考までに「介護家族がたどる4つの心理ステップ」→

上手く付き合えるようになるまでに、家族がつらい思いをするということは、誰もが知っておくべきです。

絶対に避けたいのは「共倒れ」

ところが苦しい立場におかれると、人はかえって自分のつらい気持ちや状況を、誰にも相談することなく、手助けも受けずに抱え込んでしまうことがあります。

認知症と付き合うとき1番よくないのが、この「抱え込み」です。とくに男性に多く、助けを求める=弱みを見せると考えるので、女性以上に抱え込む傾向があるようです。

どんな人にも「施設どき」がある

「施設にお年寄りを入居させる」と言うと「かわいそうだ」とか「辛くてとてもできない」という意見がでてくることがあります。そのような見方を全面的に否定するつもりはありませんが、こと認知症介護いついて言えば、情や世間体に構っていられない場合もあると思います。その意味で、どんな介護にも施設に頼るべき「施設どき」があります。

「これでよし」と思えることが大切

介護には「迷い」と「後悔」が付きものです。お年寄りに施設に入居して頂く前後なども、介護者は「これでいいのか」「やっぱり家で看ることも出来たのでは」と後悔するものです。

ですが、認知症介護はどこかで「これでよし」と思いきることも必要です。施設を利用しなかったがために、不慮の事故が起ったり、家族共倒れになったりすれば、もっと「大きな後悔」が残ります。

介護者が、とりわけ家族が「もう十分やった」と心の底から思えるなら、それで十分ではないでしょうか。「小さな後悔」で済んでいるうちに切り替えるという考え方も必要なはずです。

どうにもならないときは「時グスリ」

とはいえ、希望すればすぐ利用を始められるわけではないでしょう。その一方、家庭で介護にあたる家族は「もうどうにもならない」という思いにとらわれたり、何をやっても上手くいかない、と感じることもあるはずです。

そんな時は「時グスリ」を使ってください。これは「時は薬なり」と言う意味です。
ほとほと困ったときや答えが見つからないときに、あがいたり、あせったりせず、じっと静かにしていれば、答えは意外と自然に出てきます。

みんなで認知症と付き合う

介護というと、一般の人はどうしても「家で看るか、施設に入れるか」という2択で考えがちです。
このような考え方の背後には、「認知症は家族に任せるか、プロに任せればいい」という、
どこか他人事めいた雰囲気があります。それでいいのでしょうか。

認知症は、自分には関係のない「対岸の火事」ではなくなりました。これからは、みんなで協力してこの病気と付き合っていかなければならない時代なのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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