お金に執着し、娘を「泥棒」とののしる母

夕暮れに遠くを見つめている女性

妄想、徘徊、失語、夜間せん妄など、認知症の人の困った言動とその対処方法をケース別に具体的な事例を示しながら、ポイントをわかりやすく解説しています。よくありがちな事例とその原因を理解すれば、適切な対応ができ、家族介護の負担も減らせ、楽に乗り切ることができます。認知症の人のケアのコツを学びます。

こころのクスリBOOKS よくわかる認知症ケア

川崎幸クリニック院長 杉山孝博 監修

1973年、東京大学医学部卒。東京大学医学部付属病院で内科研修後、地域医療に取り組むために川崎幸病院(神奈川県川崎市)に勤務。1981年、「呆け老人をかかえる家族の会(現・認知症の人と家族の会)・神奈川県支部」の発足当初から会の活動に参加。現在、(社)認知症の人と家族の会副代表理事、神奈川県支部代表。往診・訪問看護を中心にした在宅ケアに取り組み、「認知症をよく理解するための9大法則・1原則」「上手な介護の12か条」を考案、普及。NPO法人全国認知症グループホーム協会顧問や、厚生労働省関係委員としても活躍中。主な著書・監修書に「杉山孝博Dr.の認知症の理解と援助」(クリエイツかもがわ)「ぼけー受け止め方・支え方」(家の光協会)「痴呆症老人の地域ケア」(医学書院)「認知症・アルツハイマー病、介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)などがある。

(解説、引用しています)

  1. 認知症の人の自宅(在宅)介護で困った行動への対処方法
    1. ケース⑤ お金に執着し、娘を「泥棒」とののしる母
      1. 財布さがしに振り回され、あげくには疑われる
      2. なぜ、盗られたと妄想するのか?
        1. ・ベースに記憶障害や認知障害がある
        2. ・不安や葛藤がからむ
        3. ・生活歴も関係する
      3. 「妄想」の対処方法
        1. ・あやまって本人の気分を良くする
        2. ・反論せず、受け流す
        3. ・周囲はサポートする
    2. ケース⑥ 夕方になると「失礼しました」と、実家に帰ろうとする母
      1. 行方不明になって、警察の協力をもとめる
      2. なぜ、徘徊するのか?
        1. ・道に迷っているタイプ
        2. ・不安に襲われているタイプ
        3. ・せん妄(意識障害)によるタイプ
        4. ・衝動(しょうどう)が高まっているタイプ
        5. ・「変える」「行く」にもとづくタイプ
      3. 「徘徊」の対処方法
        1. ・押さえつけず、安全に歩いてもらう
        2. ・無理に止めない
        3. ・その人の過去に合わせて演じる
        4. ・せん妄を注意する
        5. ・発見しやすい工夫をする
    3. ケース⓻ 「あれ、それ」が多くなり、しだいに会話が通じなくなった父
        1. やりとりが出来なくなり、コミュニケーションに戸惑う
      1. なぜ、会話が出来なくなるのか?
        1. ・脳が機能しなくなる
        2. ・失語の進み方
      2. 「失語」やコミュニケーションの対処方法
        1. ・言葉ではなく、心を感じとる
        2. ・手を握る、肩を抱く、微笑み合う
        3. ・繰り返し、語り掛ける
    4. ケース⑧ 夜になると「ドンドン」と壁をたたき、眠ろうとしない義母
      1. 睡眠不良で疲労がたまり先行きが不安になる
      2. なぜ、昼夜逆転の生活になるのか?
        1. ・夜間せん妄
        2. ・精神的なもの
        3. ・トイレに行きたい
        4. ・寝室の環境
        5. ・生活リズムがずれている
        6. ・昼間の活動量不足
        7. ・不適切な薬
      3. 「夜、眠らない認知症の人」の対処方法
        1. ・介護者の負担を軽くする(最優先)
        2. ・生活リズムを規則正しいものに戻す
        3. ・心地よく眠れるようなケアをする
        4. ・寝る前にはトイレへ
        5. ・不安や興奮を鎮める
        6. ・薬は安易に使わない
  2. まとめ
    1. 認知症ケア、介護は、チームケアです。

認知症の人の自宅(在宅)介護で困った行動への対処方法

認知症の人の困った行動の具体的な事例(ケース)から解説しています。(ここで取り上げられているケースはいくつかのモデルを組み合わせたもので、名前もすべて仮名です。)

ケース⑤ お金に執着し、娘を「泥棒」とののしる母

すごい形相

「物盗られ妄想」は、日本では女性に多い症状です。疑いをかけられた人は反論せず、謝って受け流した方が、長い目で見れば得策です。周囲のサポートも大切です。

財布さがしに振り回され、あげくには疑われる

認知症が始まってからというもの、母の登美さん(72歳)は、お金に強く執着するようになりました。自分の財布にどのくらいのお金があるか、出しては数えて確認し、また入れることを繰り返します。そして、その財布をところかまわずしまい込むのです。

しばらくすると、また財布を出そうとします。しかし、財布がいつも「しまっておいたはず」の場所にあるとは限りません。

登美さんは、自分でもどこにしまったのか、わからなくなっていますので、そのたびに娘の祥子さん(45歳)を呼びます。「お金をなくした」と騒ぐ母に付き合い、祥子さんも探します。だいたいは、母が日中過ごすダイニングルームの食器棚の引き出しやワゴンの箱にあるのですが、ときには冷蔵庫の中にあったりします。どんぶりの中から出てきたこともありました。

祥子さんは、母の財布探しに振り回されるのに、だんだん疲れてきました。そこで、似たような財布にお金を入れて置き、母が「なくなった」と騒いだ時に、それを出しました。

「やっぱりあんたが盗ったんだ」母はものすごい形相で娘をにらみ「泥棒!」と叫びました。祥子さんは、情けないやら腹が立つやらで、つい声を荒げ、大ゲンカになってしまいました。

なぜ、盗られたと妄想するのか?

妄想は、認知症の初期から中期にあらわれる周辺症状の1つです。よく知られているのは「物盗られ妄想」で、アルツハイマー型認知症の43%の人に現れるというデーターがあります。物盗られ妄想は、日本では圧倒的に女性に多く見られるのですが、外国にはこのような傾向はありません。

・ベースに記憶障害や認知障害がある

妄想は、記憶障害や認知障害低下などの中核症状をベースに発症しますが、直接的には、認知症の人が置かれている状況や周囲との対人関係が誘因になると言われています。

つまり、記憶障害は確かに関係しますが、それだけでは妄想は起こらないと考えられるのです。

・不安や葛藤がからむ

たとえば、それまで家事を仕切るなど家族の中心的存在だった人が、認知症を発症すると、世話をされる側に回ります。そういった対人関係の変化(立場の逆転)から、心に不安や葛藤が生まれ、それが妄想の誘因になると考えられています。

・生活歴も関係する

物盗られ妄想には、経済的に苦労した経験や、長い単身生活など、生活歴が関係すると分析する専門家もいます。妄想は、その人が歩んできた人生を理解し、心情をくみ取ることも必要なようです。

「妄想」の対処方法

・あやまって本人の気分を良くする

普通、私たちは、物が見つからないと「どこかに置き忘れた」と自分を責めます。しかし認知症の人は「盗られた」と他者へ責任転嫁(せきにんてんか)します。

「自己有利の法則」参照→

(前回の基礎編「9大法則・1原則」参照→)

一緒に探してあげるのも方法ですが、これを繰り返していくと、認知症の人の失敗(物忘れ)を何度も指摘することになります。結局は、探してくれた人に対する悪感情がふくらむことにもなりかねません。

「感情残像の法則」参照→

(前回の基礎編「9大法則・1原則」参照→)

多少の金額なら「ごめんなさい、ちょっと借りました」とあやまり、本人が盗られたと言っている金額を渡す、といった「演技」をすることも必要です。

そうやって、本人の気分がよくなるようにして問題の解決を計った方が、長い目で見れば得策なのです。渡したお金は、本人がしまい込んだ後で、わからないように取り戻しておけばよいでしょう。

・反論せず、受け流す

「盗られた」と騒いでいる人に、それは真実ではないと訂正しても意味はありません。また、相手からの攻撃に、まともに反応したり、動揺して反論したりすると、妄想はさらに根強いものになります。

「否定するほど症状は強まる」ことを理解しましょう。疑われた人は、出来る限り心に余裕を持って、攻撃は受け流すようにします。

・周囲はサポートする

周囲の人は、疑いが向けられている人をサポートし、孤立させないようにします。たとえば、事情を知っている第三者が、認知症の人の訴えを十分に聞いてあげるのはよいことです。

疑われている人の弁護はせず、本人の訴えをひたすら傾聴します。ただし、同意をするような相づちは禁物。あとで、あの人も同じように言っていた、となることがあります。

ケース⑥ 夕方になると「失礼しました」と、実家に帰ろうとする母

夕暮れ症候群

徘徊にはいくつかの背景が考えられることもあります。無理に抑えたり、理屈で説明するのは逆効果です。

行方不明になって、警察の協力をもとめる

昌子さん(49歳)は3年前、父が亡くなって1人暮らしになった母の佐代さん(76歳)を引き取り、一緒に暮らすようになりました。母には、認知症が始まっていました。

同居して2か月後、昌子さんは母の認知症が確実に進んでいることを思い知らされます。外出から帰った昌子さんに、佐代さんは「お見かけした気もしますが、どちら様?」と言ったのです。

3か月後、佐代さんは「では、失礼します」と家を出ていこうとしました。昌子さんは思わず「自分の家はここでしょ!」と、大きな声を出してしまいました。

それからの母は、ふらっと外に出ていくことが増えました。徘徊の始まりでした。特に夕方になると「実家に帰らなければ」とソワソワします。そういう時、昌子さんは母を無理に閉じ込めず、散歩に連れ出すのですが、用事があって付き合えないときもあります。

ある日、母は気を配っていた昌子さんの目を盗んで出ていったきり、行方がわからなくなるという事態になりました。警察にも協力を求めて探した結果、32時間後に、母はようやく保護されました。どこをどう歩いたのか、隣の県まで行っていたのです。

なぜ、徘徊するのか?

認知症の徘徊は、背景にあるものによって、いくつかのタイプに分けられます。

・道に迷っているタイプ

場所の見当識障害があり、外出すると迷ってしまう場合です。同じ道を繰り返し歩いてしまいますが、本当の徘徊ではありません。

・不安に襲われているタイプ

なじみのない場所に置かれることで生まれる見当識障害や不安がベースにあります。自分がどこにいるのかわからず、家に帰りたいけど帰れないため、不安そうな表情で速足に歩きます。

・せん妄(意識障害)によるタイプ

認知症の人がせん妄(意識障害)状態にあると、興奮して歩き続けたり(過活動性)、逆に、活動性が低下してぼんやりとなり、夢遊病のようにフラフラ、歩き出したりします(低活動性)。

・衝動(しょうどう)が高まっているタイプ

脳の器質的な障害によって、衝動が高めるために徘徊します。アルツハイマー型認知症では、早足で表情はかたく、前に人が立っていても押しのけるように歩きます。血管性認知症やピック病では、情動や欲望が高まって無我夢中で動き回り、抑えがきかない状態になることもあります。

・「変える」「行く」にもとづくタイプ

不安な現在から、自分が最も生き生きと生活していた古きよき過去の時代へ「帰りたい」という願望が背景にあります。女性なら「実家に帰る」「家に帰って食事の支度をする」男性なら「会社に行く」などと訴え、出ていこうとします。

わき目もふらず歩き続け、想像もつかないような遠方で発見されることもあります。夕暮れ時に多いため「夕暮れ症候群」と呼ぶこともあります。

「徘徊」の対処方法

認知症家族介護0
・押さえつけず、安全に歩いてもらう

そこに山があるから登る、というように、その人が自分の活動として徘徊しているとき、無理に押さえつけると欲求不満になって、他の困った事行動が現れることがあります。

出来るだけ安全に歩いてもらうため、誰かが一緒に歩く、途中で休憩を取る、迷子や日射病、脱水症、転倒、交通事故、などの危険がないよう注意する、といったところにポイントを置きます。

・無理に止めない

夕暮れ症候群による徘徊は、たとえば「実家に帰る」と言っている女性に、「あなたの家はここでしょう」と理屈で説得しても通じません。無理に止めると、かえって執着します。

「自分はこの家にいてもいいのだ」と思えるような役割や安心感を与えてあげることも大切です。

・その人の過去に合わせて演じる

「会社に行く」というお年寄りに、「今日は日曜ですから休みですよ」と答えたら、「そうか」と素直に応じたケースがあります。納得しやすい言葉で、その人の過去にあわせて「演じてあげる」ことも必要なのです。

・せん妄を注意する

せん妄による徘徊は、意識障害の原因になっているものを明らかにして、それに沿った治療やケアを行うと改善します。

・発見しやすい工夫をする
ホットライン
  • 服に布製のネームプレート(住所、名前、電話番号入り)を縫い付けておいたり、地域の協力機関に呼びかけ検索するシステム(警察署に問い合わせ)などを上手く活用しましょう。
  • 隣近所に普段からそれとなくお願いしておくのも良いと思います。
  • 普段から、交番所のおまわりさんや、警察署などに相談、問い合わせをしておくと、いざというときには話が早く飲み込め、探すのが早くなります
  • 本人にGPSのついた携帯を持たせておくのも手です。

ケース⓻ 「あれ、それ」が多くなり、しだいに会話が通じなくなった父

家族介護

会話が通じなくなるのは「失語」(しつご)という症状で、認知症の初期から見られます。しかし、言葉はダメでも、生き生きと感じる心は残ります。手を握ることでも、気持ちは通わせられます。

やりとりが出来なくなり、コミュニケーションに戸惑う

母が亡くなってからも、父の尚作さん(80歳)は、やもめ暮らしをしていました。この年代の男性としては珍しく、家事をするのをいといませんでした。

娘の香子さん(46歳)の提案で、同居を始めたのは7年前。尚作さんは「オレも家のことを手伝う」とはっきり言っていました。しかし、その頃から尚作さんには、物忘れが目立つようになりました。認知症でした。

香子さんは、自分が無理に呼び寄せたせいかと後悔しましたが、一緒に住んでいるからこそ、老人ホームなど探さず、家で介護ができると思い直しました。

尚作さんの認知症は、少しずつ進んでいきました。足腰が弱りデイケアでも、ほとんどはソファに座っているとスタッフから聞きました。それでも比較的おだやかな様子でいてくれるのが香子さんには救いでした。

ところが、ここ数週間で、父は急に会話が上手くできまくなりました。名前などが思い出せず「あれ、それ」が多くなっていたのですが、いまや「トマト、郵便局するように」といった調子で、いくつかの単語を並べるだけ。やりとりができないのです。

父とどうコミュニケーションをとるのか、父の気持ちを察するにはどうしたらよいのかと、香子さんは先行きが不安です。

なぜ、会話が出来なくなるのか?

認知症になると会話がだんだん不自由になってきます。「失語」(しつご)という中核症状で、認知症の初期からみられます。

・脳が機能しなくなる

失語は、脳の中の言葉を司る領域が壊れるために起こります。相手の言葉を理解する、会話を組み立てる、文章を読んだり書いたりする、といったことが難しくなります。

・失語の進み方

失語は、認知症の進行と歩調を合わせるように進んでいきます。

  • ①最初はモノの名前が出て来なくなり、「切るもの(包丁のこと)」「こうやって書くもの(鉛筆のこと)」などと言ったりします。
  • ②症状が進んでくると「あれ」「それ」といった代名詞で説明するようになります。
  • ③言葉と意味が結び付けられず、関連のあるほかの言葉を使うことがあります。たとえば「上着」のことを間違え「ズボン」と言ったりします。
  • ④言い間違いも、よく起こります。「リンゴ」なのに「リゴン」と言ったりします。
  • ⑤相手からかけられた言葉を、そのまま、オウム返しに答えることがあります。
  • ⑥脈絡(みゃくらく)もなく、単語だけを発することがあります。
  • ⓻認知症が重度になると、語彙(ごい)も減り、最後は「ぎゃろぎゃろべー」のような意味不明な声を発することがあります。

「失語」やコミュニケーションの対処方法

・言葉ではなく、心を感じとる

認知症になったからといって、何もわからなくなるわけではありません。生き生きと感じる心は残ります。認知症の人が言葉を上手く使えなくなったとしても、その人の心を感じ取ることで、気持ちを通わせることは出来るはずです。

・手を握る、肩を抱く、微笑み合う

認知症の人は、言葉の機能が低下してからも、笑ったり、物を握ったりする能力は保たれます。不安そうにしているときは、微笑みかけながら手を握ってあげましょう。きっと、にっこり笑って握り返してくれるはずです。また、肩を抱いてあげるだけでも、通い合うものはあります。

こういったとき、笑顔や体を使うコミュニケーションは、言葉より雄弁です。

・繰り返し、語り掛ける

すぐには反応がなくても、繰り返し、繰り返し、語り掛けてみることも大切です。そうやって語り掛けているうちに、今まで無反応だった人が、ふと、ひと言ふた言、感謝の言葉を口にすることがあります。多くの介護者が、そのような体験をして、介護への新たな意欲を持つことができた、といいます。

ケース⑧ 夜になると「ドンドン」と壁をたたき、眠ろうとしない義母

夜間せん妄
#夜間せん妄

認知症の人が、昼と夜が逆転したようになる原因はいろいろあり、「夜間せん妄」はその1つ。このケースで、まず考えなければならないのは、介護者の負担を軽くすることです。

睡眠不良で疲労がたまり先行きが不安になる

ドン、ドン、ドン。母のトヨさん(81歳)が、いつものように壁を叩き始めました。夜の行動の始まりです。

トヨさんは数年前から、物忘れが激しくなり、幻覚もみるようになりました。毛布に寝ていると、天井やガラスなどに人の姿が見えると訴えます。人の姿は夜になると現れることが多いため、夜は眠らず、息子の嫁の佳代子さん(49歳)をそばに呼びたがります。ドンドンと壁を叩くのはその合図です。

ある晩などは、トヨさんが佳代子さんを捕まえて離さず、興奮して、夜中から朝方まで話し続けました。義父の太郎さんも、それを上回る興奮ぶりで、妻のトヨさんを強くしかり、竹の棒で殴ろうとしました。佳代子さんの夫や息子たちも、さすがに起き出し、家じゅうが混乱して極限状態になりました。

トヨさんは、夜は起きて騒ぐため、昼間はウトウトと寝ています。しかし、佳代子さんは家事もあり、そうはいきません。トヨさんがデイサービスに通えば少し楽になるのですが、義父は「他人の世話にはならん」と許しません。

睡眠不足で疲労困ぱいした佳代子さんは、自分まで倒れてしまったら義母の介護はどうなるのだろう、とますます不安になります。

なぜ、昼夜逆転の生活になるのか?

・夜間せん妄

このケースのトヨさんは「夜間せん妄」になっていると思われます。「せん妄」とは、1種の意識障害(意識混濁=いしきこんだく)で、幻覚や興奮状態などの精神症状を伴います。

また「会話の混乱」「時間、場所、人物の見当識障害」に加え、「幻視(何もないのに人物や動物が見える)」が起こり、それが妄想に結びつくこともあります。

せん妄を引き起こすのは、認知症だけとは限りません。脳血管障害、脳炎、脳腫瘍などの臓器疾患や、低酸素症、中毒、感染症、脱水(下痢などによる)、薬物の副作用、さらには心理的ストレスや不眠、骨折による強い痛みなどによっても起こるので、見極めて治療をすることが重要です。

・精神的なもの

昼間、興奮することがあって、それを引きずっていたり、心配ごとがあっても、夜眠れなくなります。

・トイレに行きたい

残尿、便秘、下痢などがあり、トイレのために起きなければならないと、眠れません。また、頻尿(ひんにょう)(水分を多くとっている、あるいは心不全や、男性では前立腺肥大などの病気が原因となることも)があっても、トイレが近くなります。

・寝室の環境

暑すぎる、気になる音がする、明るすぎる、あるいは暗すぎる、寝具の問題などが、眠れない原因になることがあります。

・生活リズムがずれている

1日24時間の生活リズムがずれていると眠れなくなります。その日だけでなく、1週間、1ヶ月を見直す必要があります。

・昼間の活動量不足

昼間寝ていたり、イスに座ったままあまり動かないと、活動量が少ないため眠れなくなります。

・不適切な薬

適切でない睡眠薬、あるいは他の向精神薬を使っていると、副作用が起こることがあり、睡眠にも影響します。

「夜、眠らない認知症の人」の対処方法

・介護者の負担を軽くする(最優先)

夜、眠らない認知症の人を抱えている家庭では、第一に介護者の負担を軽くすることを考えなければなりません。介護者の疲労が蓄積すると、下手をすると「共倒れ」になり、介護が立ち行かなくなります。

①福祉サービスの活用

このケースでは、義父が福祉サービスの利用を好まないようですので、義父が信頼している人に繰り返し、すすめてもらうのも方法です。昼夜逆転していた人が、1週間の「ショートステイ」で、生活のリズムを取り戻した例もあります。

②家族の話し合い

福祉サービスを利用しないのなら、家庭内で話し合って、介護のローテーションを組む、などの工夫をします。交代で夜の介護をする、ことで、1人の負担が軽くなり、他の家族も、より深い実情が分かり合えます。

・生活リズムを規則正しいものに戻す

昼間は適度な刺激があり、活動的に過ごせる環境を整えてあげます。趣味の時間を持つ、親しい友人と会う、無理のない範囲で体を動かすなどの工夫をします。

・心地よく眠れるようなケアをする

寝室は刺激の少ない、落ち着いた静かな雰囲気にします。音楽や照明など、眠りやすくする効果のあるものを。寝る前に、ぬるめのお風呂に入ったり、足湯をすると、心地よく眠れます。

・寝る前にはトイレへ

排尿を済ませておきます。(トイレに上手く誘導してあげましょう。)

・不安や興奮を鎮める

1人で寝るのが不安な様子なら、誰かしばらく一緒に横になってあげると落ち着きます。興奮しているようなら、ゆっくり背中をさすってあげると心がおだやかになります。

・薬は安易に使わない

せん妄には、くつかの向精神薬が効く事があります。また、不眠の人には睡眠薬が必要な場合もあります。しかし薬は、量や投薬時間を常にチェックしていないと、副作用が起こりますので、医師の指示に従ってください。

まとめ

チームケア

認知症ケア、介護は、チームケアです。

認知症は脳の病気です。

認知症には、早期に診断、治療をすれば、確実に治せるものがあります。(進行を遅らせることも可能になってきています)認知症の介護は、原因となっている病気や、病期(初期、中期、後期)を専門医が診断し、それに合わせた適切な治療やケアをすることが大切です。

手探りで介護をしても、本人の苦痛や不快は緩和されず、介護者も見当はずれな努力やムダな苦労、(遠回り介護)をすることになります。

そしてなにより、長期的な対策を立てることができ、家族や親せきとの話し合いの機会も持って、それによって、介護の絆、連携ができ、孤立、孤独から救われます。

具体的には、住環境を整えたり、財産管理、遺言作り、介護経済など介護にかかるお金や治療の問題なども家族で話し合ってできます。あるいは見当を立てることができ、将来の不安がやわらぎます。

認知症は脳の機能が健常者とは違い、働かず、破壊されていきます。本人が一番不安と失望と戦っています、そしてやがて、それも忘れ、数年後には寝たきり状態になっていく病気です。

(「認知症の進み方を知ることでも介護が楽になります」参照→)

食事をしたこと自体を忘れ、家族の顔もわからなくなり、親身になって毎日世話をしてくれる家族にこそ、辛くあたったり、自分が忘れてしまったことが原因なのに、作り話で介護者を悪者扱いにしたりします。

認知症の人の介護は、脳の病気、と理解し、介護者は1歩先、1歩上を歩きましょう。認知症の人の困った言動には、同じ土俵の上に乗らず、冷静になって、むきにならず、1呼吸して、1歩引いて、認知症の人の不安や失望をわかってあげましょう。

話を合わせ、「演技」を楽しむことができるようになれば、介護はどんどん楽になっていきます。

(「介護家族がたどる4つの心理ステップ」参照→

在宅介護、自宅介護、家族介護、呼び方は違っても、毎日身近でお世話をするのは、家族です。少しでも介護の負担が軽くなりますように、参考になれば幸いです。次回はケース事例の、問題行動の対処方法、「ひどい物忘れ」「暴力」「拾い集め」について触れていきます。介護者の疲れをいやす簡単体操のご紹介も少し、していきます。最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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