忙しい現代社会において「疲労」と無縁で過ごせる人はいません。「忙しいから」「若くないから」が「疲労」の原因でしょうか?疲れない体になるにはどうすればいいのか?「食」の面からアプローチをしています。超一流のアスリートの食事術は健康な人全員にとっても使えるはず、わかりやすく解説しています。
スタンフォード式「疲れない体」山田知生(やまだ ともお)著
スタンフォード大学スポーツ医局アソシエイトディレクター、同大学アスレチックトレーナー。1966年、東京都出身。24歳までプロスキーヤーとして活躍後、26歳でアメリカ・ブリッジウォーター州立大学に留学し、アスレチックトレーニングを学ぶ。同大学卒業後、サンノゼ州立大学大学院でスポーツ医学とスポーツマネジメントの修士号を取得。2000年サンタクララ大学にてアスレチックトレーナーとしてのキャリアをスタートさせ、2002年秋にスタンフォード大学のアスレチックトレーナーに就任する。スタンフォード大学スポーツ医局にて15年以上の臨床経験を持ち、同大学のアスレチックトレーナーとして最も長く在籍している。これまでに、野球、男子バスケットボール、男子・女子ゴルフ、男子・女子水泳チームなどを担当している。2007年にアソシエイトディレクターに就任した後は、臨床開発で大きくスポーツ医局に貢献、同局プログラムのさらなる改革・促進に取り組んでいる。アメリカサッカーU21代表チーム同行経験を有する。本書が初の著書になる。
スタンフォード大学は「世界最強スポーツ大学」の呼び声高く、世界から有望なアスリートが終結している。NCAA(全米大学体育協会)のランキングでは、23年連続総合1位を獲得。また、ケイティ・レデッキー(女子水泳、オリンピックと世界水泳選手権を合わせると19の金メダル獲得)、シーモン・マニュエル(米国アフリカ系女子水泳選手として初めてオリンピックで金メダルを獲得)をはじめとする5輪メダリストが現役で在籍しているほか、タイガーウッズ(男子ゴルフ)やマイク・ムッシュナー(野球)、ジョン・マッケンロー(男子テニス)など、多くのプロアスリートを輩出している。
抗疲労体質になる一流の食事術「体内に入れるもの」であなたの回復力は変わる
スタンフォードのニュートリション・メソッド

食事で「体のジャンル」が変わる
スタンフォードには、「スポーツ医局」のほかに、2015年に「スポーツ栄養局」が設立され、専任のニュートリショニスト(栄養士)が在籍しています。
専任のニュートリショニスト(栄養士)の仕事は、主にアスリートたちの食事面のサポート。たとえば、トレーニングセンターの売店(無料のスナックスタンド)にどんなスナックを置くかは栄養のプロである彼らが決定します。
エナジーバー、フルーツ、プロテインドリンク、ナッツなど、アスリートの「パワーアップ」と「疲労回復」に役立つ食品を、厳選して配置しています。また選手によっては、専用の「おやつメニュー」が用意されていることもあります。自分の番号を告げれば、すぐに栄養士が考案したその人専用のドリンクとスナックが出てくるようにデーター管理されているのです。
たとえば、アメリカンフットボールやバスケットボールは、体が大きいほうが有利なスポーツなので、プロテインバーやチーズ、タンパク質を豊富に含むスムージーなど「筋肉を大きくするためのスナックやドリンク」を練習終わりやウェイトトレーニング後に摂れるようになっています。
反対に、クロスカントリーのような、筋肉量を増やしすぎるとタイムが落ちて、パフォーマンスに差し支える選手は、バナナ、ドライフルーツ、シリアルなどの「体を絞るためのスナック」を用意してもらっています。
そんなスタンフォードのアスリートに提供する食事の「エッセンス」を取り上げながら、疲れに効く食べ物と、食べ方のポイントをご紹介します。「知っている」という人も、「完璧にやろう」とせず、「食事を楽しんで」「時々思い出せばOK」というスタンスでみていきましょう。
あなたの体を「完全鉄壁」にする
常時800~900名の学生アスリートを抱えているスポーツ医局は、2015年に「アスリート専門の食事施設」を開設しました。
基本的には、全アスリートがそこで、アドバイスされた通りに朝昼晩、良質のタンパク質(不足すると筋肉が弱まり、内臓の働きも低下)や炭水化物(食物繊維、糖質)リカバリーする上で味方につけたいビタミンなどをバランスよく摂れるようになっています。
学年が上がると、寮を出てルームシェアをして暮らしたがる学生もいるので、彼らのために「栄養士主催のクッキング教室」がひらかれることもしばしば。
手軽な電子レンジで解凍して食べられる冷凍品やジャンクフードばかり食べて大切な体を傷めないために、自分自身で体に良い料理を作れるよう指導するためのプログラムです。
アスリートを育成するうえで、いかに食が重要視されているか、おわかりいただけるのではないでしょうか?選手たちの強靭な肉体を形成し、支えているのは、元をたどれば「食」です。食によって彼らのパフォーマンスも、パフォーマンス後の疲労回復率も変わってきます。
- 疲れには正確に分類すると次の3つに分けることができます。
- ① 脳神経由来の疲れ
- ② 筋肉の疲れ
- ③ 内臓の疲れ
内臓、胃腸の疲れに何より影響するのが「食」。「何を食べるか、いつ食べるか、どう食べるか」疲れない体を完璧に作るためにも、この3点を徹底的に意識しています。
強靭なアスリートの肉体を支える「朝の食事術」

「ビタミン」と「タンパク質」をマストに摂る
スタンフォードの栄養士は主に栄養面で医学的なサポートが必要な選手のケアをします。たとえば、女子選手に多い「摂食障害」や「鉄分不足」による貧血。また、体を絞るランナーも、栄養士がきめこまやかにフォローして体重の減りすぎに気を配ります。
栄養士の人数は限られているので、アスレチックトレーナーも、食のアドバイスができる知識をもっていなければなりません。数か月に1度、様々な職場で働く栄養士をスポーツ医局に招き、半日抗議をしてもらう機会を設けています。アジアやヨーロッパの栄養学の研究者を招くことも多々あり、食に関する知識を蓄え更新しています。
そもそも、スタンフォードは、資金が潤沢な私立大学です。とくにバスケットボールやアメリカンフットボールのような人気競技だと、遠征の移動はチャーター便の飛行機、宿泊は「ヒルトン」や「JWマリオット」などの一流ホテルであることもしばしば。
快適な移動や宿泊は、コンディショニングという点で一見アドバンテージのように見えますが、食事に関しては「いいもの」になりすぎないよう、気をつけなければいけません。
チームの遠征日程が決まると、すぐにホテルに電話を入れ、滞在中の食事メニューをレストラン担当者と相談します。大人数なのでビュッフェ形式が多いのですが、何を用意するのか、決してホテルに任せっきりにせず、朝、昼、晩、の全メニューをあらかじめ指定しておくのです。
豪華で脂ののったサーロインステーキより、トリ胸肉のほうがアスリートには「ごちそう」ですし、アスリートに必要なのは、甘くておいしいパンケーキより栄養豊富な新鮮野菜やフルーツです。
疲労回復に欠かせない「ビタミン」と「タンパク質」が摂れる食材は、必ずリクエストしています。「ゴージャス」より「シンプル」で「ヘルシー」これが一流アスリートの食事の基本であり、栄養士とアスレチックトレーナーが共有している「シンプルな方針」です。
「朝食抜き」は3食中1番 ”やばい”
「朝食」を取るか取らないか、そして朝何を食べるかで1日のパフォーマンスや疲れ具合がまったく違ってくる。とくに危険なのが、朝食抜きでおこる「血糖値スパイク」。
朝食を抜いてトレーニングをすればお腹がすくので、ランチを必要以上にたっぷり食べることになります。人間の血糖値はつねに小さく上下しているのですが、空腹のあとに大量に食べると、血糖値が急激に上昇し、その後急下降することに。これは「血糖値スパイク」と呼ばれる現象で、糖尿病や心臓病にもつながるとされています。
若い選手たちがすぐ、生活習慣病になるわけではありませんが、血糖値の急な乱高下は、眠気や、疲労感の元にもなるので、チーム内ではちょうしょく抜きを厳禁にしています。
「その日のエネルギー」をチャージできるのは朝食だけ
朝食を取らないと「体温が上がりにくくなる」というデメリットも発生します。人の体温は「就寝前~就寝中」にかけて低くなり、反対に「起床前~覚醒時」は高くなる、というリズムがあります。
しかし、朝食を抜くと、本来なら日中に向けて上がるはずの「体温上昇」が朝食を食べたときに比べてゆるやかになり、パフォーマンスが上がりにくくなるのです。
さらに朝食は、その日の活動に関しての「エネルギー源」になります。朝食前の最後に食べた「前日の夕食」は、寝る前、もしくは夜間に消化され、体の回復や修繕にあてられることに使われています。
そこで、その日の活動となるエネルギーは、朝のうちに体に入れておかないと「エネルギーがない状態」で午前中の仕事を迎えることになります。食べずに活動することは、疲労をたぐりよせているようなものです。
朝食を抜くのは、「充電できず、朝、電池が減ったままのスマホ」で昼まで乗り切らないといけないのと同じ状況。「もっとも脳が冴える」とされる午前中にフルパワーを出せないのは、ビジネスパーソンにとって大きな痛手でしょう。
朝食は「時間」を固定する
また、午前中であればいつでも朝食を食べていいわけではなく、「朝食の時間」はできるだけ固定、しましょう。睡眠同様、時間を固定すれば、生活リズムができ、回復に大きな役割を担う、自律神経が整います。
朝食は3食の中で1番時間を固定しやすい食事です。さらに朝食の時間を固定することで、起床時間も固定されるという好循環が生じ、生活リズムが整いやすくなる、という副次的なメリットもあります。
「ぎりぎりまで寝ていても、朝食だけは食べました!」というのも避けたいパターン。時間がないと早食いになり、これもまた疲労を招く「血糖値スパイク」の原因になります。朝から疲れないためにも「朝食の定時」を決めて頂きたいと思います。
「レギュラー」を食べる
スタンフォードの遠征先の朝食メニューは、それほど特殊なものではありません。(とくにビュッフェ形式のメニュー)
基本
- 高繊維質なシリアル
- 新鮮なフルーツと低脂肪ミルク、
- 豆乳かライスミルクと一緒に。(食物繊維は血糖値の上昇をゆるやかにしてくれる)
- 低脂肪プロテイン・シェイク
- フローズンフルーツを混ぜて。
- 高繊維質なトースト、もしくはベーグル
- 全粒粉やライ麦などを使用した「茶色い」もの。
- スプーン1杯のピーナッツバターを添えて。
- プロテインバーとヨーグルトか牛乳1杯
+ビュッフェ形式
- 卵、ベーコン、ソーセージ、ハム
- フレッシュサラダ
- ハッシュドポテトのような付け合わせのポテト
- オートミール
- チーズと牛乳
卵や加工肉製品を用意しているのは、タンパク質を取るというより、アメリカの定番メニューだから。朝食は抜かずに食べることが肝心なので、選手たちが食べなれたものを用意しています。
ポテトは消化という面ではあまりよくないのですが、ハッシュドポテトも朝食の定番なので、一応用意しています。オーツ麦を潰して煮込んだ「オートミール」も定番メニューで、これにミルクを入れて食べます。オートミールは腹持ちがいいことを良く知っているので、よく口にしています。機会があれば、ぜひ試してみてください。
「チーズ」は ”熱処理 ”していないものを選ぶ
「ヨーグルト」と「チーズ」もアメリカも定番朝食。どちらも腸内環境を整える発酵食品で、タンパク質も摂取できて一石二鳥です。ただし、プロセスチーズなどの加熱処理をしたチーズは有用な菌が死んでいるので、「ナチュラルチーズ」のほうが菌をよりたくさん腸に届けることができます。
発酵食品については、日本の朝食のほうが優れています。味噌は優れた栄養食品ですし、生で食べれば栄養価の高いキュウリも、ぬか漬けにすれば「ビタミンB1」という栄養素が増加して疲労回復効果があるとされています。
また、朝は「飢餓状態」にあるので、栄養吸収率も高いタイミング。疲れない体を内側から効率よく作るために、みそ汁、納豆、ぬか漬け、という日本特有の優れた発酵食品を、ぜひ朝食の定番にしていただきたいと思います。
「1日3食」だから疲れているかもしれない
「お腹いっぱい」になると疲れる
どの食事も「必ず腹八分目まで」がスタンフォードの鉄則です。
たとえば「朝食」。満腹になるまで食べてしまうと、消化に時間がかかり、「朝食後」「昼食後」の日中の倦怠感を誘発します。
夕食を食べ過ぎた場合、睡眠中に胃腸が一生懸命、消化しようとするので、睡眠の役割である「回復」「体の修繕」が思うように機能せず、体全体がうまく休まらないことも。
シンプルに「腹八分目」を心がけることもまた、疲れを呼び込まず、ダメージを翌日に繰り越さないステップになるのです。
ただし ”空腹 ”は避けてー「食べる回数」を増やす
腹八分目をキープするアスリートは、「そのかわり」とばかりに、とにかく回数を多く食べています。なぜなら、練習の合間に間食でエネルギーを適量補給できれば、エネルギー切れによる疲れの予防と解消、両方に役立つからです。
間食することで、1回の食事で満腹になったしまう事態も防げます。彼らが間食としてよく食べているのは、栄養士厳選の、ナッツ、穀物、ドライフルーツを固めたシリアルバー(バー1本が量の目安)。ナッツはタンパク質やミネラルといった栄養価が高い食べ物です。フルーツも間食にはうってつけ。
ぜひ、「腹八分目」+「お腹が空いたら、ナッツやフルーツなどの間食で埋める」プランを「満腹疲れ防止策」として立ててみましょう。
再起動のために摂るべき「食材」「栄養」「量」はこれだ!
タンパク質と炭水化物は「具の多い牛丼」のイメージで摂る
スタンフォードの選手たちは、「タンパク質」「サラダ」が基本です。七面鳥の胸肉やローストビーフ、チーズ、そしてレタスやトマトを一緒に挟んだサンドイッチのような簡単なものをよく食べています。
パンはあまり食べないように言ってあります。出してもらう際は、なるべく「ライ麦パン」など高繊維質で栄養価が高く、できれば糖質が少ない「茶色いもの」をリクエストしています。
食物繊維が血糖値の上昇を抑えてくれるからです。メインより先に糖質が多いパンを食べてしまうと、血糖値スパイクのリスクが高まります。
1回の食事につき、炭水化物は極力「1」に近い品数がスポーツ医局の基本。「パスタ+パン」は糖分が多すぎです。
とはいえ、あまりに細かく制限すると、「食」を楽しめず、リラックスできません。それどころか、抑えつけた反動で、かえってジャンクフードに走ってしまう危険性もあります。
そこで、疲れない体を作る目安として、1日の食事の中で、「タンパク質と炭水化物の割合は、3:1」を目指しています。タンパク質を炭水化物の倍以上食べることを指針にするのです。
日本人は世界的に見ても炭水化物を多く摂る民族なので、放っておくと逆の割合になってしまいます。すると、炭水化物は糖に変わるので、「糖分過多」にどうしてもなってしまいます。「具は大盛りで、ごはん少なめの牛丼」くらいのイメージで、タンパク質と炭水化物のバランスを取るといいでしょう。
「果物間食」でビタミンを高速チャージ
バナナ、オレンジ、リンゴ、梨、などを選手もよく間食として口にしています。皮をむいたりせずに、手っ取り早くそのまま食べられるので、めんどくさくないところが好まれているようです。ポイントは、「出来るだけ素材の形のままのものを選ぶ」ことです。
フルーツには糖分も含まれているので、「糖質は良くないのでは」と思いかもしれませんが、消耗したエネルギーを補給するという点では、「糖質」は決して悪いものではありません。
避けるべきは、タンパク質をはるかに超える「炭水化物」と、消化が悪く、内臓に負担がかかる「過度の脂質」です。同じ甘いものでも、脂質が少ない果物はOK。何より、果物は疲労回復に役立つビタミンも豊富です。
世界で話題の回復食材「トリ胸肉」
夕食のメインとして、アスリートがよく食べているのは、「牛赤身肉」「白身魚」「鶏肉」などの食べ応えのあるタンパク質です。とくに牛赤身肉は脂肪分が少ないうえ、疲労回復のアミノ酸L-カルニチンが豊富です。
疲労回復に役立つ「アリシン」の元になる「アリイン」を含んだニンニクで、ステーキにすれば、一石二鳥です。ちなみに、筋肉痛の予防にも役立つ、L-カルニチン、は牛乳にも含まれておりスタンフォードの選手たちもよく牛乳を飲んでいます。
白身魚は低カロリーで高タンパク質。ちなみに、サーモンも白身魚の1種です。チキンもまた「低カロリー、高タンパク質な食品」、とりわけ、鶏レバーは、目や皮膚の粘膜を健康に保つビタミンAも豊富です。
アスリートのみならず、「疲労回復」という観点で1番おすすめしたいのはチキン、とくに「トリ胸肉」です。トリ胸肉に含まれている「イミダペプチド」というアミノ酸は、細胞が傷つく現象「酸化」を防ぐ作用が高く、活性酸素を取り除き、脳の疲れを取る効果が報告されています。
とくに「ささ身」はとっても脂肪分がすくない部位。加熱してもしっとりして食べやすいので、「疲労回復食」としておすすめのタンパク質です。「イミダペプチド」は、疲労回復として近年とくに注目を集めている物質です。
「鳥の羽の付け根(胸肉付近)にイミダペプチドが含まれているから、渡り鳥は長時間疲れずに飛び続けられる」と言われています。たとえば、マグロは「止まったら死んでしまう」といわれる回遊魚。泳ぎ続ける間ずっと動かしている尾びれの付け根付近にイミダペプチドがあります。ねむっている間さえ働いている人間の脳にも、イミダペプチドが豊富です。
「茶色い炭水化物」の栄養は白米の8倍にもなる

精製された小麦でできたパンや白米は、糖質が多いので避け、(白いものは避ける)ライ麦パンや玄米に代えるといいでしょう。(茶色いものを選ぶ)
白いパンの代わりに、世界最小のパスタといわれる「クスクス」を選手たちのサラダの中に大量に入れて、消費させていました。「クスクス」には、豊富な食物繊維に加え、「カルシウム」「マグネシウム」も含まれています。
ミネラルの1種であるマグネシウムには、骨と歯を強化する働きのほか、ストレスを減らす効果、代謝を高める効果もあり、コンディショニングの強い味方です。
「雑穀」も積極的に摂り入れるようにしています。キヌア、アマランサス、ヒエ、キビ、といった雑穀は、体にとても良質な「腸コンディショニングフード」。こちらもサラダの中に紛れ込ませて、あまり気にせずナチュラルに摂れるように選手たちにはすすめていました。
雑穀には「食物繊維」と「ビタミン」が豊富で、血糖値の上昇を抑え、内臓疲労解消をサポートする働きがあります。キヌアに含まれる食物繊維は「白いごはん」の約8倍です。タンパク質、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄分、といった体にとって欠かせない栄養素も、キヌアの含有量は白米の2~8倍。まさにスーパーフードです。
キビは、筋肉の疲れを取る「ビタミンB1」が豊富です。やはり疲労回復に欠かせない「カリウム」や「マグネシウム」が摂れます。
アマランサスには、強い骨や筋肉を作る補助となり、エネルギー代謝を活発にする必須アミノ酸「リジン」が含まれています。雑穀はNASAの宇宙食候補になったり、スーパーモデルが食べたりしていることで、よく知られるようになりましたが、「特別な健康食」「美容に気を使う人が食べるもの」と決めつけるのは、もったいない話です。
疲れやすいと感じる人も、疲れにくい体質を作りたい人も、積極的に摂り入れると「抗疲労」という恩恵にあずかれるのですから。
野菜は「昼食時の摂取量」をMAXに

野菜には疲労回復を助けるビタミン類が豊富で、消化も促進します。スタンフォードの選手たちは、ランチのときにサラダをよく食べています。
選手の多くは1日3食以上食べるので、「お腹にたまりにくく」「サーッと食べられて」「栄養満点」をメインとする選手も多いようです。「1日多食プログラム」を実行する際、同じ要領でサラダをランチで集中的に食べる「サラダランチ」は、栄養補給と消化の面でおすすめです。
手を加えるほど「あらゆる栄養」が抜ける
スタンフォードに限らず、アメリカのサラダバーを見ると戸惑う日本人もいるようです。理由は、ほとんどの野菜が生のままだから。日本人の感覚だと、ゆでるのが当然というブロッコリーやカリフラワーも生。マッシュルームも薄くスライスして生。かぼちゃやパプリカも生。
どの野菜も日本ほどきれいにカットされていない。
ほうれん草もセロリも、アメリカのサラダバーでは、ザクザクと刻まれただけの状態で並んでいます。時には、ほうれん草の根っこが混ざっていますし、セロリは茎も葉も混在しているのが普通です。まるで手抜きのように見えますが、実はこれこそ、疲れない体を作るにはふさわしい「調理法」。
ブロッコリーやカリフラワーはストレスに強い体を作る「ビタミンC」が豊富ですが、ゆでるとほとんどの栄養が流れ出てしまうので、生のほうが高栄養価です。
ほうれん草は根に近い部分も栄養価が高く、セロリの葉には疲労回復に役立つ「ビタミンB群」が豊富。食物繊維も多く含まれています。トマトにはうま味成分のグルタミン酸が含まれていて、「傷の修復」「消化」を助ける働きがあります。
これにならって、サラダを作るときは「手抜き」にしてはどうでしょう。疲れない体を作るには、「切っただけ」「洗っただけ」の超手抜きサラダのほうが、手間もかからず、栄養を効率よく摂取できるので、おすすめです。
疲れないアスリートが絶対口にしない「禁断の疲労食」
「毒」は「クスリ」より早くまわる
「よくない食べ物を摂取すると、すぐにダメージとなって、疲労や倦怠感が表れる」残念ながら、「疲労回復にいい」といわれている食べ物を取っても、その使い道を自分で決めることはできません。決めるのは、私たちの意思に左右されない、体そのものです。
そのため、食事で「疲れが取れた!」とすぐに感じることは難しく、実感を得づらいので、「疲れにくい良い習慣」だったとしても、その道をそれてしまいやすい・・・という難しさが、食事と疲労にかんしてはあります。
やっかいなことに、「回復にいい食事」は効果がすぐに感じられないのに対し、「疲れを助長してしまう」食べ物や飲み物はすぐに「疲労感」として表れます。
なぜなら、そうした食べ物は胃腸に負担をかけて「内臓の疲れ」に直結するから。とくに、「飲み物」に関しては、食べ物より消化、吸収が早いという点で、ものによっては疲労感が出やすいことは要注意。
また、体の要求に従って口にしたものが「実は疲れを助長する」という歯がゆさもあります。たとえば、疲れを感じたとき、「塩辛い物を食べたい」と思う人もいるでしょう。
ところが日本人は「味噌汁」「しょうゆ」など、そもそも塩分の濃い食事を取る傾向が強い民族です。そこに、さらなる塩分を体に取り込めば、胃腸への負担は増大することになります。
自分が口にするものが、明日のコンディションを壊す可能性がある。このことをぜひ心にとどめてほしいと思います。
「この味の朝食」は避ける

「朝食は食べることが大事」と書きましたが、なかには手を出してほしくない朝食メニューがあります。それは、「甘い朝食」。「とにかく、甘いものは朝食べるな!」「甘い朝食、危険!」と選手たちに注意喚起をしています。
甘い朝食の代表は、フレンチトースト、パンケーキ。このところ日本でも大人気だそうですが、口うるさく言ったことが効いたのか、朝食のときは控える選手たちもかなり、増えてきました。
なぜなら、「甘い朝食は、ほぼ糖質」でできているので、口にすると、血糖値スパイクを招きやすく、これでは1日のスタートを「疲れやすい体」で迎えることに。また、つい食べ過ぎてしまうので、その分、必要な栄養素を摂取することができません。
選手の中には、甘い朝食を食べたがる学生もいます。禁止はしませんが、せめて、メープルシロップ、パウダーシュガーはかけずに食べる。あるいはシロップ類は別添えにし、ちょんちょんとつける工夫をするようにアドバイスしています。
当然ながら、山盛りのホイップクリームは、「闘う戦士」にはありえません!!
お菓子を食べると「体内のビタミン」がなくなる
「人工的に甘くしたもの」は避けるべきでしょう。お菓子やケーキ、アイスクリームといった嗜好品は、ビタミン、ミネラルといった疲労回復を後押しするものが含まれておらず、糖質、脂質も多いので、それを知るスタンフォードのアスリートは滅多に口にしません。
さらに、お菓子を食べると、逆に体内のビタミンは消費される、といった恐ろしい事態を招くので、アスリートの場合「疲労食」として厳禁にしています。
もっと「単純に」考える
食事を厳密に管理するのは大変ですが、基本的なところだけ押さえておき、食事のメニューを選ぶときの参考にしましょう。
参考までに、【疲れに効くとされる栄養素】と、(それを多く含む食べ物)をまとめました。
- 【タンパク質】
- L-カルニチン(牛赤身肉、羊肉、牛肉)
- リジン (乳製品、豚肉、真イワシ、サーモン)
- イミダペプチド(トリ胸肉、マグロ、カツオ)
- グルタミン酸 (トマト、海藻類、白菜)
- 【ビタミン】・・・加熱すると壊れやすいので注意
- ビタミンA (鶏レバー、うなぎの肝、鶏肉)
- ビタミンB群 (豚肉、キビ、ほうれん草、セロリ)
- ビタミンC (ブロッコリー、レモン、カリフラワー)
- 【ミネラル】
- カリウム (キヌア、バナナ)
- マグネシウム(海藻類、キヌア、キビ、ナッツ)
- 【その他】
- アリイン (ニンニク)
これらの栄養素をまんべんなく1日の中で取り入れるのが理想ですが、難しければ
- 「脂っこく、甘いものを口にするのは避ける」
- 「できれば、毎日違うものを食べる」
- 「タンパク質、ビタミンはとにかく疲労回復にいい!」
くらいにとらえておくと、ストレスなく「疲れる食事」を避けられます。
疲労回復を阻害する「飲み物」の実害

「砂糖10杯分」の糖が「1本のペットボトル」に入っている
スタンフォードの選手たちがほとんど口にしないものは、「清涼炭酸飲料」です。清涼炭酸飲料の問題は糖分。「ペットボトル1本に、ティスプーン山盛り10杯分の砂糖が入っている」「1日に取っていい砂糖の量を、1本で超えてしまう」といわれています。
厳密な量はメーカーによって違いますが、飲み物の場合、一気に吸収されるので、血糖値スパイクがとても起こりやすい特徴があります。運動後や夏場に、つい甘い清涼炭酸飲料水がほしくなるかもしれませんが「疲れと肥満を招く危険なドリンク」というのが我々の認識です。
水以外は「1杯まで」にする

「水分補給」も疲労回復に欠かすことのできない習慣で、選手たちの飲み物は、基本「水」です。
結論として、「疲れない体を作りたいなら、飲料糖分は控える」「清涼炭酸飲料水は避ける」「原則として2杯以上飲むなら ”水 ”」が疲れない飲み方です。
「お酒:水=1:1」の飲み方でダメージを最小に

スタンフォードの選手たちは、基本的に飲みません。厳しいようですが、「お酒を飲んで疲れを取るのは、難しいアプローチ。効果があっても、ストレス発散、や、気分転換、といった精神的な要素が強い。飲みすぎてしまうとそれすら得られない」
基本的なことではありますが、
「疲労解消目的でお酒は飲まない」
「飲んでも節度を保った量で、同量の水、を飲みながら」というのがダメージを溜めないポイントだと思います。同じだけ水を飲むと、飲酒量も自然と抑えられる効果もあります。
「エナジードリンク」は科学界でも賛否両論

疲れや睡眠不足を手っ取り早く解消したい、というニーズは、日本でもアメリカでも同じです。「疲労対策」に「エナジードリンク」が話題にあがります。アメリカと日本では同じメーカーの同じ名称のエナジードリンクであっても、成分が違ったりします。
とくに、アメリカ発祥のエナジードリンクが日本で人気なようですが、オリジナルに入っている成分がにほんだと入っていないことも多く、本当に効果があるかどうかは、なかなか疑わしいと言わざるを得ません。
たとえば、日本で合成タウリンを入れていいのは「医薬部外品」のみ。「清涼飲料水」であるエナジードリンクの成分として入れるのは、法律で禁じられているのです。
日本のスタミナドリンクは「タウリン○○g」と、含有量が多ければ多いほど効果が高いかのようにうたわれています。
不思議なことに、アメリカでは、トレーニング関係者も選手たちも、タウリンを意識していません。また、実際、「タウリンが、健康な人の疲労を軽減することを示した臨床データーや論文はない」「実験動物にタウリンを投与すると、むしろ行動量が制限された」といった報告もあるようです。
タウリンが入ったスタミナドリンクでも、アメリカや日本で販売されているエナジードリンクでも「飲めば即座に疲労が回復する」「疲れが消え、パフォーマンスが向上する」実感があまりないのでは、と思います。
「飲みすぎて死亡」したケースも
エナジードリンクには1本あたり100~150㎎程度のカフェインが含まれているのですが、多量に飲みすぎるとカフェイン中毒を発症して、最悪の場合、死に至ることもある、点はくれぐれも注意してください。
2015年5月に、エナジードリンクを長期にわたって常飲していた20代の男性が死亡したことが報告されました。男性はシフトワーカーで、深夜勤務中の眠気を覚ますためにエナジードリンクを常飲していたそうで、死因はエナジードリンクの過剰摂取によるカフェイン中毒。
欧州食品安全機関によると、望ましい1日あたりのカフェイン摂取量(成人)は「1日400㎎まで。また、1回の摂取で200㎎を超えないのが望ましい」とされています。
400㎎のカフェインは、コーヒーに換算すると4、5杯分。「眠気覚まし」のためにカフェインを取る際は、ぜひ量に気を付けてください。ビジネスパーソンであっても、エナジードリンクは「メンタル的なアプローチ」として飲むのがいいととらえています。
エナジードリンクに頼る前に、まずは自分の出来る範囲で「疲労予防」「疲労回復」「疲れない食事術」を実践するほうが、「疲れない体」をキープするのに効果的で確実な道です。
これからの、人生100年時代に必要な「疲労マネジメント」のスキルではないでしょうか。
まとめ
シンプルで「疲れない食事プラン」は
- 【朝】食べなれたものを食べる
- 「抜かない」ことが大原則
- 時間を固定する
- 「甘い朝食」は避ける
- 発酵食品はおすすめ→【お腹が空いたら間食(フルーツやナッツ)】
- 【昼】多めのサラダ(ビタミン)とタンパク質→【お腹が空いたら間食(フルーツやナッツ)】
- 【夜】タンパク質をしっかり取る
- 飲むなら「お酒:水=1:1」
- 1日を通じて、
- どの食事も「腹八分目」まで
- ビタミンとタンパク質を意識して取る
- 炭水化物は「白」より「茶色」
- 「タンパク質:炭水化物=3:1」を目指す
自分の手で「疲れない体」を作る技術を磨く能力こそが、これからの人生100年時代に必要な
「疲労マネジメント」のスキルではないでしょうか。生活習慣病の予防と改善にも、密接に関係していると思います。
体の成長は1日にしてならず、体は食べ物でできているです。結局、毎日コツコツと積み上げていくしかないようです。しかし、疲れない体質になる、超一流の食事術は、価値のあるものでした。あとは、実行あるのみです。分からなくなったり、忘れたりしたら、ここに戻ってきてまた確認してください。なぜなら、脳はいつもの習慣に戻ろうとするからです。
健康な毎日のお役に立てば幸いです。最後までお読み頂きありがとうございます。
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