ストレスをコントロールする9つのマインドセット

コーヒーカップの中のハート

「たかがストレス対策とあなどることなかれ。ストレスのコントロールとは、人生の支配権を、自分の手に取り戻す作業でもあるのです。」と熱く語る著者は、進化科学、論文を読破し、科学的根拠からストレスの具体的な対処法も教えています。「最高の体調」を解説しています。

「最高の体調」鈴木 祐(すずき ゆう)

新進気鋭(しんしんきえい)のサイエンスライター。1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアをテーマとした書籍や雑誌の執筆を手掛ける。近年では、自信のブログ「パレオな男」で、心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、3年で月間100万PVを達成。また、ヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。

ストレスのコントロールとは

壁面ブレーカー

(本文引用していますが、すべて記載していません、あとは「最高の体調」をご購入していただきますよう、ご了承くださいませ。)

1、過剰なストレスが全身を壊していく

ストレスは人を殺します。(なぜ、ストレスは人を殺すのか?)

WHOの推計によれば、心臓麻痺の死亡者は世界に1700万人。そのうち25%は激しいストレスによるものと考えられ、近年でも被害者の数は増加し続けています。

私たちの心臓は、メンタルに影響されやすい臓器です。気持ちが興奮すれば脈拍と血圧は上昇し、睡眠中やリラックス時には脈拍と血圧が下がります。どちらも人類が進化の過程で獲得してきた生存システムの1つです。

ところが、精神にストレスがかかった状態だと、心臓のエンジンはふかしっぱなしになり、夜になっても休むヒマがありません。その結果、心臓や血管に過度の負担がかかり、突然死にいたるのです。

たとえば、あなたが締め切りの近い仕事を先延ばしにしていたとしましょう。なんとなくネットで時間をつぶしている間にも、頭のすみには仕事のプレッシャーがこびりついており、あなたの感情システムは徐々に「脅威」モードに切り替わっていきます。

ほどなく、脳の原始的なエリア(扁桃体)(へんとうたい)が騒ぎ始め、内分泌系に対策をとるように指示。これを受けた内分泌系は体の各所にシグナルを送り、アドレナリン、コルチゾール、ACTHといったストレスホルモンを吐き出させます。

これらのホルモンは、いずれも体を戦闘状態にするスイッチです。アドレナリンやACYHが心拍数を上げて外敵の襲撃にも素早く反応できる態勢を調え、コルチゾールは過度の炎症反応で体が動かなくなってしまうのを防ぎます。

このシステムは、原始の社会であれば、うまく働きました。ライオンやヒョウに襲われたときには瞬時に前進を興奮状態に切り替え、すぐさま逃げるか戦うかのどちらかを選択。事態が終わればストレスホルモンは役目を終え、すみやかに体はもとに戻っていきます。

しかし、仕事を先延ばしにしていると、パニックを起こした脳はコルチゾールを増やすように指示を出し続け、少しずつ私たちの体はストレスホルモンに慣れてしまいます。覚せい剤の常習者に似たような状態です。いったんこうなると、事態は一気に悪化していきます。

本来ならばコルチゾールが免疫システムのバランスをとっていたのに、もはやブレーキは完全に壊れ、爆走した白血球が細胞を痛めつけ、やがて心疾患、肥満、老化の促進といった症状が現れはじめます。最初の小さなストレスがホルモンの連鎖を生み、最後には全身を壊していくわけです。

人体のストレス処理系は、あくまで森やサバンナで出会う緊急の危機に対応するために進化してきたシステムです。(つまり、)人体のストレス処理系は、短気的に終わる緊急のストレスをさばくのは得意ですが、現代の慢性的なストレスに立ち向かうようにはできていません。

このミスマッチを解決するにはどうすればいいのでしょうか?

一般的に、病気に対応するには、応急処置と根本治療の2種類を使い分ける必要があります。たとえば、花粉症で鼻水が止まらない場合は、とりあえず短期的には鼻炎薬を飲んで症状をやわらげ、同時に減感作療法(げんかんさりょうほう)などで根気よく体質を改善してかねばなりません。

ストレスも同じです。

仕事の失敗や職場の人間関係といった日々のストレスは、とりあえず応急処置でしのぎつつ、並行して柔軟なメンタルを長期的に作り上げていく必要があるのです。応急処置だけでは、大元(おおもと)の問題は解決しませんし、根本的治療だけでは、成果が出る前に、心が折れてしまうでしょう。

そこで、

  • 最初に、① 応急処置用のストレス対策法をまとめ、
  • 次に、 ② 根本的な治療法

を探っていきます。もちろん、ここでも使うのは進化論の視点です。

2、ストレスを感じたときに効くひと言とは?

リアプレイザル

自分が大勢の前でスピーチをする場面を想像してみましょう。あなたの頭には「セリフを忘れたらどうしよう・・・」「笑われるかもしれない・・・」といった思考がうずまき、ほどなく全身にストレス反応がおきます。アドレナリンのせいで心臓は高鳴り、緊張で手が震えだすかもしれません。

こんな状況で、もっとも応急処置の効果が高いのは、「リアプレイザル」です。(簡単です!)スピーチの直前にストレス反応が起き始めたら「楽しくなってきたぞ!」「興奮してきたぞ!」と自分に言い聞かせるだけです。

ハーバード大学のアリソン・ブルックス氏は、300人を集めた実験で、「リアプレイザル」の効果を証明しました。すべての被験者に「スピーチ」「カラオケ」「数学のテスト」などを指示したところ、自分のストレス反応を「楽しくなってきた」とポジティブに解釈したグループは、それぞれ17~22%も成績が良くなったのです。

ブルック博士は言います。「私たちは、自分の感情をコントロールし、意図的に影響を与えることができる。自分のストレスを、いかに言葉や思考に変換するかで、どんな感情も再構築できるのだ」

たとえば、いきなり道端で知らない人に怒鳴られたとしましょう。普通なら「なんだこいつ!」と頭に血がのぼる場面ですが、一歩ひいて「何か悪いことがあったのかもしれない」などと考えなおしてみるのも「リアプレイザル」の一種です。それだけで、ある程度は感情の波がおさまっていくはずです。

「リアプレイザル」が効くのは、そもそも「緊張」と「興奮」の感覚がどちらも人体の反応という点では変わらないからです。(同じだということです)

人前でスピーチをするときでも、会社で昇進が決まったときでも、人間の体は、同じように心臓が激しく脈うち、同じようにコルチゾールが分泌されます。

このとき私たちの体は、外部の刺激に態勢を整えただけで、その反応を「緊張」と「興奮」のどちらかに解釈するかは脳の判断にゆだねられます。

古代の環境では、サバンナで猛獣に襲われたときだろうが、美味しそうな果物を見つけたときだろうが、すぐに行動を起こさねばならない点で両者に変わりありません。ここで対処のシステムを2つに分けていたら、反応のスピードが遅くなるだけでしょう。(「緊張」と「興奮」という対応システム)

さらに、「リアプレイザル」は、使えば使うほど、あなたをストレスに強くする性質も持っています。

被験者の脳をfMRIでしらべたある実験では、嫌な体験をポジティブに解釈しなおした直後から扁桃体の活動が低下し、「リアプレイザル」が上手くなった被験者ほどネガティブな体験に脳がパニックを起こさなくなりました。

つまり、「リアプレイザル」は感情の筋トレとしても使えるわけです。ただし、この手法はおもに緊急時につかってください。

いくらストレスの影響は考え方によって変わると言っても、すべてのネガティブな体験をポジティブに解釈できるはずがありません。緊張する場面で冷静な判断をしたいときや、他人のネガティブな感情に飲み込まれそうなときに使うのがおすすめです。

3、寝不足が続くとダメージを修復できない

アイデア04

「睡眠負債」という言葉があります。

睡眠の量を借金にたとえた表現で、毎日の寝不足が少しずつたまっていくと、やがて債務超過に達して、様々な疾患を引き起こします。50年前にスタンフォード大学のウィリアム・デマント氏が提唱したアイデアで、その後も多くの臨床試験で影響の大きさがわかってきました。

睡眠負債が怖いのは、本人も気づかぬうちに、じわじわと負債が増えていくのです。たとえば、1日30分ずつの寝不足が続いた場合、最初のうちは借入額が少ないので気が楽ですが、放っておくうちに返済できなくなり家計が破綻。心疾患やうつ病などの症状が出た時は手遅れになります。

このような現象が起きるのは、睡眠に、日中のストレスを回復させる働きがあるからです。私たちが眠りにつくと、脳は45~60分以内に完全休息の状態に入り、骨と筋肉の成長や、免疫システムの強化などの作業を行います。

さらに、1~2時間が過ぎるとレム睡眠に切り替わり、今度は、大脳が活動をスタート。日中の嫌な体験や記憶が呼び起こされ、すべての情報を処理していきます。

1晩寝れば、前日の嫌なことを忘れやすいのは、睡眠が記憶を整理整頓してくれるからです。しかし、長期にわたって睡眠負債が続くと、脳と体が受けたダメージを修復する時間は、なくなります。処理されずに残った疲労やストレスは、少しずつ体を破壊し、最終的には、手のつけられない炎症に変わるのです。

睡眠負債は自覚がないまま負債がかさむため、改善のためには、自分が良質な睡眠を取れているかどうかを判断する必要があります。

スタンフォード大学が行った系統的レビュー、過去に出た277の研究をまとめた労作で、「良質な睡眠を客観的に把握するにはどうすればいいのか?」という問題について、信頼に足る結論を出しています。

専門家の意見が一致した「良質な睡眠」のサイン(自分の「良質な睡眠チェック」の判定基準)

  • 眠りに落ちるまでの時間が30分以内
  • 夜中に起きるのは1回まで
  • 夜中に目が覚めた場合は、20分以内に再び眠ることができる
  • 総睡眠時間の85%以上を寝床で使っている
    • (昼寝や通勤電車での居眠りなどの合計が15%を超えない)

この4つをすべて満たすことが「良い睡眠」の最低条件で、1つも当てはまらないポイントがあれば、睡眠負債の可能性は高くなります。

4、優良ホルモン「メラトニン」が増える眠り方

公園

睡眠の改善において1番重要なのは、「自然」です。人類は古代から豊富な自然の音と木々に包まれながら眠ってきたため、自然の中にいるだけで、私たちの体は睡眠の質が上がるデザインになっているからです。

2016年、コロラド大学が被験者に冬山で寝起きをするように指示したところ、2日後に全員のメラトニンが増加する現象が認められました。メラトニンは体内時計をコントロールし、私たちを自然な眠りに誘うホルモンです。

通常は日が沈んだころから血中濃度が増え始めますが、夜中まで人工照明に照らされたような状況では分泌のタイミングが遅くなることがわかっています。夜になっても眠れない現代人が多いのは、メラトニンの分泌タイミングのせいです。

2013年、コロラド大学の実験では、キャンプで1週間を過ごした被験者は、メラトニンの増加タイミングが2.6時間に改善。さらに、キャンプの時期を夏場に代えると、いつもより4.6時間も前にメラトニンの分泌が始まり、体内時計のタイミングが日の出と日の入りの時間に一致しました。つまり、太陽の運行に体がシンクロし始めたわけです。

研究チームは言います。「自然の光をたった2日浴びるだけでも、体内時計は69%もシフトする。このデータをもとに、近代の建築は自然光を取り入れるデザインにしたほうがいいだろう」キャンプ実験の被験者たちは、たった2日のアウトドアでも普段より13倍も多く太陽光にあたっていました。

睡眠負債を返す方法は、

  • まずは日中に太陽の光を浴びる時間をできるだけ増やしたうえで、
  • 夜には室内の照明を限界まで暗くしてみてください。
    • 寝室を暗くするには1級の遮光カーテンを使うのが理想。
  • アイマスクと耳せん。
    • (コクラン共同計画のレビュー論文でも、耳栓、アイマスク、マッサージ、アロマテラピー、リラックス音楽の中で効果が認められたのは、耳せんとアイマスクだけでした。それ以外の方法については、はっきりとしたデータが出ていません。)
  • 定期的にキャンプ(アウトドア)でメラトニンのメンテナンスをおこなう。
  • メラトニンのサプリを飲むのも手です。ホルモン剤の1種なので効果はとても大きく、コクラン共同計画のレビューでも、騒音や照明のせいで眠れない場合は、アイマスクと耳栓より1日1mgのメラトニンを使った方が効果が大きいとの結論が出ています。

たいていの研究では、1日に0.5~1mgでも快眠の作用が出ているため、よほど大量に飲まない限りは問題ないでしょう。用途としては、寝床に入る30~120分前に0.5mgを飲みます。それでも効果が見られなければ、1週間ごとに0.5mgずつ増やします。

注意!!!

メラトニンはあくまで体内時計の調節に使うサプリです。午前中や昼間に飲むのは、良くありません!過去の実験でも、朝にメラトニンを飲んだグループは「糖尿病のリスク」が悪化したとの報告が出ています。注意してください。

5、40分の昼寝で完全回復ーNASAの研究結果

昼寝

睡眠負債は知らぬ間にコツコツと積みあがっていくため、返済もコツコツと行うのが重要。「昼寝」のテクニックです。

1990年、104人の健康な男女を睡眠不足にさせた実験では、数分~数時間の昼寝によって、注意力や論理思考などの大幅な改善が見られました。

追試が行われ、空軍パイロットを対象にしたNASAの研究でも、1回40分の昼寝でぱフォーマンスが34%改善し、注意力は100%の完全回復を見せるなど、睡眠負債のダメージを防ぐ効果が広く確認されています。

いまでは、グーグルやウーバーといった名だたる企業も昼寝を推奨しており、グーグルなどは「エナジーポッド」という専用の睡眠マシーンまで導入しているほどです。

実は、睡眠に問題がない狩猟採集民でも昼寝を行います。カリフォルニア大学がボリビアのチマネ族の暮らしを3年にわたって記録した研究でわかったこと。

  • 夏の時期は、年間の睡眠時間の22%を昼寝に使う
  • 冬の時期は、年間の睡眠時間の7%を昼寝に使う

狩猟採集民の世界でも、昼寝で体力の回復を計るのは普通のようです。現時点では、昼寝の最適量まではわかっていませんが、多くのデータでは1回15~30分ほどでリフレッシュ効果が得らています。

ある実験では、快適なイスに座りつつ目を閉じて15分休んだだけでも睡眠と同じような脳波が現れ、記憶テストの結果も向上したとの結果が出ています。昼寝が苦手な人でも、とりあえず10~15分だけ目を閉じて何もしない時間を作ってみましょう。

「コーヒーナップ」というテクニック。

やり方は簡単、15~20分の昼寝の直前に1杯のコーヒーを飲むだけです。意外な組み合わせに思えますが、疲れ気味の被験者に15分の「コーヒーナップ」を試した実験では、普通に昼寝をしたグループよりもドライブシミュレーターの成績がアップ。日本で行われた実験でも、昼寝に200mgのカフェイン錠を飲んだ学生は疲労が減り、記憶力テストの成績も上がりました。

なぜ?

カフェインが脳に達するまでに20分かかるからです。コーヒーを飲んでから20分後に目を覚ますと、昼寝のリフレッシュ作用にカフェインの刺激が組み合わされて相乗効果をもたらします。一度お試しください。

6、ウォーキングだけでストレスは激減する

ウォーキング

2016年、アリゾナ大学の人類学者デビッド・ライクレン氏は、タンザニアで旧石器時代に近い狩猟採集生活を送るハッザ族の運動量を調査しました。心拍計とGPSで日中の活動量を計ったうえで、血圧や体内の炎症レベルをチェックしたのです。

彼らは1日に75分のMVPA(中高強度身体活動)を行いそのレベルは先進国平均の14.8倍。60才を超えた初老のメンバーも18才の若者と同じくらい体を動かしており、コレステロールや炎症に悩む者も確認されませんでした。

MVPA(中高強度身体活動)は、早歩きからランニング程度の運動レベルを指します。多くの先進国は「健康維持のためには1週間に150分のMVPAを行うこと」とのガイドラインを設定していますが、ハッザ族はたった2日でクリアしている計算です。

ライクレン氏は言います。「ハッザ族は先進国に比べて大量の時間をMVPAに使っている。200万年にわたって狩猟採集生活を続けてきた私たちの祖先も、長時間のMVPAに適応しているはずだ」

2016年、キャンベラ大学が信頼度の高いメタ分析を出しています。過去にでた「運動と脳」に関する論文から、質が良い36件を選び、エクササイズでどれだけ私たちのパフォーマンスが上がるかを調べたものです。結論は、どんな運動でも、ある程度の負担があれば、脳には良い影響がある、という事実です。

運動で脳のパフォーマンスが上がる最低ラインは、

  • 1回のセッションで45~60分ぐらいの運動をするとストレスが改善し、認知機能も向上しやすくなる
  • 「週に2回の運動」と「週に4回の運動」を比べた場合、両者に大きな効果の差はない
  • 運動のレベルは「軽く息が上がるくらい」から「ヘトヘトになるくらい」までの範囲で行わないと意味がない
  • 基本的には「1回45分の少しキツイ運動を週に2回」のペースで行うのが、脳機能のアップが見込める最低のラインです。

カールスルーエ工科大学の実験では、1回30分~60分の軽いウォーキングを週2回だけ行った学生は、何の運動もしなかったグループに比べてストレスが減り、期末テストの成績も有意に向上しています。

研究チームは、「ウォーキングを行うとコレステロールや血圧が下がり体重も減る、しかし、それらのメリットを合わせても、ウォーキングが心疾患に効く理由の59%しか説明できない。残りの41%は、ウォーキングがストレス反応を改善してくれるからだろう」

イスから立ち上がって数分の散歩をするだけでもあなたのストレスは激減するのです。運動がストレスに効く理由には諸説ありますが、もっとも有力視されているのは「エクササイズが体のストレス対策システムを鍛えてくれる」という考えかたです。

私たちの循環器系や筋肉は、脳の神経とつながっており、普段から相互にやり取りをしています。ところが、運動をしないと脳神経と体のつながりが弱まり、連携が取れなくなってしまうのです。人間のストレス対策システムは、脳から臓器への連絡がスムーズでないとうまく働きません。

つまり、運動には、脳と体のつながりを取り戻す作用があります。ある程度の負荷があればどんな運動でも構わないので、週に2~3回ずつ続けられるものを選んでください。最低でも12分の早歩きで、あなたの脳のパフォーマンスは確実にアップします。

7、ハマるとやめられない「超正常刺激」の正体

超正常刺激のイメージ

睡眠と運動の2つは、進化医学的に「少なすぎる」要素をどう克服していくかを問題にしています。ここからは目先を変えて、「新しすぎる」を遠ざけてストレスに立ち向かう方法を見ていきましょう。

「超正常刺激」の問題

自然界には存在しないものに対して本能が反射的に作動してしまう状態を意味します。(動物行動学の父であるコンラート・ローレンツが発見した現象)

たとえば、ミヤコドリという鳥は、本能的に大きな卵を選んで育てようとする性質を持っています。そのため、研究者が本物の卵より大きな人工のボールを与えてみるとミヤコドリは自ら生んだ卵を捨ててボールを温めようとします。

これは、ミヤコドリの中に「大きな卵を育てたほうが元気な個体が生まれる」とみなすプログラムしか備わっていないからです。自然界には巨大なボールなど存在しないため、「これは偽物かもしれない」と疑うようなシステムを実装する必要がありません。その結果、ミヤコドリは簡単にダマされてしまうわけです。

現代においては、動物より人間のほうが「超正常刺激」に振り回されています。わかりやすい例はポルノでしょう。映し出される男女の痴態は過去に記録されたデータの再現でしかなく、リアルタイムの出来事ではありません。

にもかかわらず、人類が進化した環境にはポルノなどなかったため、私たちの脳は、ミヤコドリよろしく簡単に興奮してしまいます。あり得ないサイズのバストを持つ女優や、異常な頭身のイケメンキャラなどが人気を呼ぶのも、そのような個体のほうが古代の環境では生存率が高かったからです。

この状態が続くと、脳は単純な刺激に満足できなくなり、さらなる興奮を求めて爆走を始めます。ポルノが止められなくなる現象は世界中で報告されており、近年では「精神障害の診断と統計の手引き」の最新版にも「異常性欲障害(Hypersexual Disorder)」の項目が登場しました。ポルノ依存はモラルの欠如などではなく、医学的な中毒症状の1つとして認識されつつあるのです。

「超正常刺激」は、現代社会のいたるところに見られます。たとえば、ジャンクフードもその1つです。糖と脂肪が絶妙に配合されたハンバーガーやスナック菓子は、私たちの舌に「超正常刺激」を与えます。

もちろん、ポルノやジャンクフードが悪だと言いたいわけではありません。大事なのは、現代にあふれる「超正常刺激」の存在に気づき、自分の反応を調節していくことです。ポルノやジャンクフードに操られるのではなく、こちらがコントロールする側に立つのです。

8、スマホの使用時間が長い人ほど不安が大きい

スマホ

「デジタル環境」のコントロール

スマホが現代人の集中力を削ぎ、SNSがコミュニケーションの質を下げました。インターネットやスマホは、私たちの生産性を高めた一方で、弊害ももたらしています。アメリカ医療情報学会が「インターネットおよびビデオゲーム中毒」を正式な診断名にしたのは2008年のこと。

ハーバード大学の調査によれば、ネットユーザーのうち5~10%は依存傾向にあり、回線につながらない状況では、彼らはギャンブル中毒に似た、禁断症状を示します。

スマホの使用時間が長い者ほど社会不安のレベルが高いとのデータや、自宅でスマホを使い続ける人は仕事のストレスが回復しないといった報告もあり、デジタルデバイスが現代人のメンタルに負荷をかけているのは間違いありません。

ネットのサイトやSNSが私たちの生産性を下げているのは自明でしょう。通知がくるたびに作業を中断したり、仕事中に急にタイムラインが気になったり、といずれも現代ではおなじみ光景です。

ネットとSNSは快楽システムを刺激します。クリック1つで情報が手に入り、いつでもコミュニケーションが可能な状況は、進化の過程には存在しませんでした。

難病ドラマやチャリティイー番組を「感動ポルノ」と呼ぶことがありますが、
今のニュースサイトは「情報ポルノ」、SNSは「コミュニケーションポルノ」だと言えるでしょう。しかし、幸いにも、私たちの脳は柔軟性が高いため、「超正常刺激」のダメージは完全に復旧できることがわかっています。

精神科医のノーマン・ドアッジによる研究では、性欲障害の患者がしばらくポルノ視聴を止めたところ、興奮状態だった神経ネットワークが徐々に弱まり、元の状態を取り戻せたと言います。ドラッグ中毒者の治療と同じように、いったん「超正常刺激」を絶つ期間を作ればいいのです。

9、デジタル断食は失恋?-ドアッジ博士の見解

一休み

2012年、IT系のライターだったポール・ミラー氏が、興味深い実験を行いました。仕事の種だったスマホとネットを止め、1年に及ぶ「デジタル断食」を行ったのです。

当時26才の彼は、IT業界の高速なペースに、本を読む時間も家族と過ごすヒマもなく、脳がパンク寸前でした。その結果、仕事に支障が出たかと思いきや、逆に生産性が上がり、かつてのペースを上回るスピードで原稿を書き上げたというのです。

「自分でもどうやったのかはわからないが、いつの間にか小説書き上げ、毎週のようにエッセイを編集部に送っていた。ある月などは、編集部から書きすぎだと叱られたほどだ。こんなことはこれまでになかった。確かに退屈は感じたし、多少の孤独にも襲われた。でも、それが僕に良いペースを与えてくれた。刺激のなさと退屈のおかげで、本当に大切なものをやり抜くモチベーションが生まれたんだ」

さらに「デジタル断食」の初歩として効くのは、あらかじめSNSやメールのチェック時間を決めておくことです。

ブリティッシュコロンビア大学の実験によれば、スマホの通知を切ってメールチェックの回数を1日に3回までに減らした被験者は、仕事の緊張やストレスが和らいでいます。

やり方は簡単です。

  • 「12:00~12:30までメールチェック」
  • 「インスタグラムは月・水・金だけチェックする」

とスケジュール帳に書き込んでおくだけ。

それだけで、あなたの生産性と幸福度には大きな差が出ます。最初は軽い不安に襲われるかもしれませんが、少しずつ「興奮」の感情システムが落ち着き、やがて「満足」のシステムが軌道してくはずです。

ドアッジは博士は「デジタル断食」を「失恋」にたとえています。大好きなネットやゲームから引き離された直後には、多くの患者が、異性から振られたかのような反応を示すからです。しかし、そのうち悲しみは穏やか(おだやか)な退屈とさびしさに変わり、しばらくすると穏やかな安らぎが取って変わります。その間の頭の中ではニューロンの配列がつなぎ直されており、あなたの脳は文字通りリセットされるのです。

ストレス反応は決して悪者ではありません。古代の環境では私たちを外敵から守り、生き延びる動機を生み出すために役立ってくれた大事な機能です。問題なのは、ストレスが慢性化してしまうことです。

睡眠負債や超正常刺激のようなストレスは、気づかぬうちにあなたの命を削っていきます。たかがストレス対策とあなどることなかれ。ストレスのコントロールとは、人生の支配権を、自分の手に取り戻す作業でもあるのです。

まとめ

ストレスは人を殺します。気づかぬうちにあなたの命を削っていきます。ささいなストレスを感じたときにも気づくことが大切です。そして、ストレスに負けない6つの対策を教えて頂きました。

  • ①進化論の視点にたって、ストレスに対応していく
  • ②「リアプレイザル」
    • 日常で緊張を感じたら「興奮してきた!」「ワクワクしてきた!」「楽しくなってきたぞ!」と言い換える。
    • 誰かにイライラさせられたら、「この人に悪いことがあったのかもしれない」と考えなおすように意識してください。
    • 多くの研究によれば、2~6週間ほど、「小さなリアプレイザル」を積み重ねれば、確実に脳がストレスに強くなっていきます。「リアプレイザル」で感情の筋トレをする。
  • ③「睡眠」
    • 「睡眠負債」は気づくことが大切です。
    • 長期にわたって睡眠負債が続くと、脳と体が受けたダメージを修復する時間は、なくなります。
    • 処理されずに残った疲労やストレスは、少しずつ体を破壊し、最終的には、手のつけられない炎症に変わるのです。
    • 「良質な睡眠チェック」の判定基準は、上記に戻って確認ください。睡眠グッズもチェックしましょう。
  • ④「メラトニン」
    • メラトニンは体内時計をコントロールし、私たちを自然な眠りに誘うホルモンです。
    • 日中は太陽の光にあたり、夜は部屋を暗くして、メラトニンの分泌を促すようにする。
    • 改善がない場合はサプリも考慮する。(現時点では、日本国内では「メラトニンサプリ」は購入できません。)
  • ⑤「昼寝」
    • 12~14時までの間に15~20分の昼寝をする。眠れなくても10分目を閉じる時間を作るだけで、夜中の睡眠は確実に改善していきます。
    • さらに生産性を高めたければ、昼寝の直前に200mgのカフェインを飲む「コーヒーナップ」を試してみましょう。
  • ⑥「ウォーキング」
    • 週に2~3日のペースで12分以上の早歩き(時速6km以上)を行うのが最低ライン。
    • 可能であれば、週に150分以上のウォーキングができるように頑張ってみよう。つまり、運動には、脳と体のつながりを取り戻す作用があります。
  • ⑦「デジタル断食」
    • SNS、メールチェックなどは、事前に使用時間を決めて、メモなどに記載しておくと効果があります。
    • 細かい時間や曜日、チェックの回数などを指定しておくと迷わなくてよい。
  • ⑧「超正常刺激」
    • 「超正常刺激」の存在に気づき、自分の反応を調節していくことです。
    • ポルノやジャンクフード、「デジタル」に操られるのではなく、こちらがコントロールする側に立つのです。
  • ⑨「デジタル断食」は生産性をあげる
    • 脳がリセットされる
    • 最初は不安になるが、だんだん心地よくなる。
    • 生産性がグンとアップします。

いかがでしたか、かなり怖い話も出ていました。何より最後の言葉が印象的でした。

問題なのは、ストレスが慢性化してしまうことです。睡眠負債や超正常刺激のようなストレスは、気づかぬうちにあなたの命を削っていきます。

たかがストレス対策とあなどることなかれ。ストレスのコントロールとは、人生の支配権を、自分の手に取り戻す作業でもあるのです。

毎日が幸せに健康に暮らせますように、お役に立てれば幸いです。次回は「価値」を解説していきます。何の「価値」なのでしょうか?「価値」があるとかないとか言ってしまいますが、大切なことのように思います。次回も、著者の言葉からひも解いていこうと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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