人は「環境」に弱い生き物なの?

自然と友人

人類は「環境」に弱い生き物なのです。遺伝と環境のミスマッチが起きた現代人への影響がもっとも大きいのは「自然」と「友人」です。この2つの要素への投資こそが、もとも費用対効果が高い行為なのです。具体的に得る方法をご紹介、解説しています。食事や体調管理や病気で悩んでいるときに読む本です。

「最高の体調」鈴木 祐(すずき ゆう)著

新進気鋭(しんしんきえい)のサイエンスライター。1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアをテーマとした書籍や雑誌の執筆を手掛ける。近年では、自信のブログ「パレオな男」で、心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、3年で月間100万PVを達成。また、ヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。

環境

(本文引用、解説しています)

人は「環境」に弱い生き物なのです。影響を受けてしまうということです。

1、人は環境に影響を受けるーグーグルの実験

環境03

2016年、グーグルのニューヨークオフィスでの実験です。チョコやナッツを自由に食べられるスナック置き場を起点に、2か所にドリンクバーを設置。1つはスナック置き場から1.8mの位置。もう1つはスナック置き場から5.5mの位置。約4000人の従業員の動きを記録したところ、スナック置き場に近いドリンクバーを使った者は、遠いドリンクバーを使った者に比べて、お菓子を食べる量が69%も高かったのです。

研究チームの計算では、体重81kgの男性が1日3回ずつドリンクを飲んだ場合は、1年で体脂肪が1.1kgほど増える計算になります。ほんの数メートルの差が無意識の食べすぎをもたらし、長期的には大きな肥満につながるかもしれない、というわけです。

グーグルは似たような実験をたくさん行っています。サラダバーを社員食堂の入り口に置いて、野菜の摂取量が増えるかを確かめたり、デザートの食器を小皿に代えたら、食べ過ぎが減るかを試したりと、いずれも正当な科学ジャーナルに掲載されるレベルの論文にまで仕上げているから凄いものです。

グーグルは、従業員の健康に気を使っているのはもちろんですが、さらに奥底にある答えは、彼らが「環境」の力を信じているからです。

グーグルの行動経済学部のクリステン・パーマン氏は、次のように書いています。「私たち社会科学者は、人々に悪影響を与えるのではなく、彼らの助けになるように環境を設計していかねばなりません。そうすれば、私たちはよりよく長い人生を送ることができるでしょう。」

ドリンクバーが近いだけでお菓子を食べすぎ、入口に野菜があるだけで健康的な食事の量が増え、食器のサイズを変えるだけで食欲が減る。これらの現象は、すべて「環境」が私たちにおよぼす影響の大きさを物語っています。かくも人類は「環境」に弱い生き物なのです。

2、自然を失い、友人を失った人類の末路

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現代の環境と遺伝のミスマッチには、色々なものが考えられます。この章では、現代人への影響が大きい2つの「環境」に的をしぼります。「自然」と「友人」です。

「自然」

農耕が始まってから、人類は山を切り開いて森林を削り、土壌の性質を大きく変えてきました。土地の浸食は数百年にわたって続き、かつての農耕からは土壌が失われて緑地帯も減少。北アフリカなどローマ時代に農耕が盛んだった場所は、現在では広大な砂漠地帯と化しています。

18世紀に産業革命が始まると、巨大工場や鉄道が整備されて、都市の風景も激変しました。それと同時に、かつては総人口の7割を占めた田舎暮らしが3割まで減り、逆に全人工の7割が都市で暮らし始めます。ここにおいて人類は、数百万年の歴史で初めて自然の景観から切り離された存在になったのです。緑が豊かな環境に適応してきた人類にとっては、あまりにも異例の事態です。

「友人」

狩猟採集民の暮らしは濃密そのものでした。共同体のなかに「見知らぬ人」などは1人も存在せず、全員が知り合いか友人といった状態です。

加えて、多くの部族には「他人よりも富を蓄えてはいけない」という掟(おきて)があるため、個人間の格差や差別などもほぼゼロ。2015年のコンゴとフィリピンの狩猟採集民を調査した研究によれば、男女の格差の確認されませんでした。彼らの労働時間は平均で1週間に12~19時間ほどで、毎日数時間ほど食料探しをしたら、あとは家族や友人たちと踊ったりと、親密なコミュニケーションを日暮れまで続けます。

孤独の問題やコミュニケーション障害が起きるケースは非常にまれです。その一方、現代人は孤独を今もこじらせ続けており、特にここ10数年は日本での問題が激増しています。2007年にユニセフが行った調査では、「孤独を感じる」と答えた15歳以下の子どもの数は29.8%にものぼりました。先進国では最高の数字です。「友人」の問題もまた、長い人類史上で類のない異常事態と見るべきでしょう。

3、疲れたらマッサージ?もっといい方法がある

平和ヨガ

現代人への影響が大きい2つの「環境」に的をしぼっています。

「自然」の影響度

2016年にダービー大学が行ったメタ分析です。

「自然とのふれあいはどれだけ体にいいのか?」を調べるために、過去のデータから871人分をまとめて大きな答えを出しました。その結果を一言でいえば、「自然とのふれあいにより、確実に人体の副交感神経は活性化する」というものです。

副交感神経は気持ちが穏やかなときに動き出す自律神経で日中にたまった疲れやダメージを回復させる働きをもっています。つまり、自然は人体の疲労を回復する働きを持つわけです。

「自然の癒し効果」をあらわした数字、「効果量」。統計手法の1つ。一般的には効果量が0.5を超えると「効果大」と判断されるため、「0.71」はかなりの好成績です。自律訓練やマッサージのようなリラクゼーション法は、副交感神経の活性レベルが「0.57」と報告されており、自然とのふれあいの数値を下回っています。

単純な比較は危険ですが、自然とのふれあいに体のダメージを癒す効果があるのは確かでしょう。自然がここまでの効果を持つのは、人類の「感情システム」に影響を与えるからです。「感情システム」とは、人間の心の働きを3種類に分類した考え方

  • ① 興奮
    • 「喜び」や「快楽」のポジティブな感情獲物や食事を探すためのモチベーションを生み出すシステム
    • ドーパミンで制御されている。
  • ② 満足
    • 「安らぎ」や「親切心」のポジティブな感情
    • 同じ種属とのコミュニケーションに役立つシステム
    • オキシトシンで制御されている。
  • ③ 脅威
    • 「不安」や「警戒」のネガティブな感情
    • 外敵や危険から身を守るためのシステム
    • アドレナリンやコルチゾールで制御されている。

私たちが最高のパフォーマンスを発揮するためには、3つのシステムがバランス良く機能していなければなりません。快楽ばかりを追う人生は退廃に至り、安らぎだらけの毎日に前進はなく、不安ばかりの暮らしは日々よどませます。それぞれがしっかりかみ合ってこそ、人間はうまく機能できるのです。

自然の環境は、3つの感情システムをバランス良く刺激します。季節のうつろいや草木の変化がほどよい興奮を生み、緑に守られる安心感が心地よい安らぎを生み、森や川に潜む未知の脅威がときに警戒を生みます。自然のなかにいれば、特定のシステムが暴走することがありません。

ところが、都市の暮らしでは、おもに「興奮」と「脅威」のシステムだけが活性化しやすくなります。その極端な例は、古代ローマ帝国でしょう。当時のローマは、イタリア半島の属州から莫大な富が流れ込んでいたためローマ市民には食料と娯楽がタダで提供されました。世界史にいう「パンとサーカスの都」です。

快楽の追求はエスカレートを続け、やがてローマ人たちは、食べ物をいったん吐き出した後、胃袋が空になったところでまた食事を行うようになります。鳥の羽で喉の奥をくすぐって嘔吐を繰り返しては、キジの脳やフラミンゴの舌をいった珍味を食べるのです。

一方で、ローマの暮らしは脅威にも満ちていました。人工が密集したせいで伝染病に弱くなり、町中に腸チフスやマラリアが蔓延。蚊が多い7~8月には大量の遺体が路上にあふれ、当時のローマでは夏を「死の季節」と呼ぶほどでした。

さらに、この時代には、定期的な奴隷の反乱や北方のゲルマン人による侵略が頻発しており、ローマ市民といえども安定した暮らしを謳歌できていたわけではありません。古代ローマは歴史上もっとも「興奮」と「脅威」の振れ幅が大きかった時代と言えます。

現代の都市も「興奮」か「脅威」のどちらかに触れやすい性質を持っています。巨大なショッピングセンターやカラオケなどの娯楽施設がささやかな興奮を提供しつつも、仕事のストレスや経済的な問題によりいつも脅威の感覚がかきたてられ、そのくせ濃密なコミュニケーションが減ったせいで安らぎの感覚は低下傾向にあるからです。

ポジティブな感情が多すぎてもネガティブな感情が少なすぎても、私たちの体はうまく機能しません。できるだけ自然とのふれあいを取り戻し、失われつつある感情システムのバランスを正しくしていくべきなのです。

4、孤独だった人に友人ができると寿命が延びる

友人

2010年、ブリガムヤング大学によるメタ分析です。「孤独と健康」に関する研究から31万人分のデータを精査し、人間の寿命を延ばす効果が高い要素を抜き出しました。その結果は、「良好な社会関係」の数字がずば抜けており、孤独だった人に友達ができた場合は、最大で15年も寿命が延びる傾向があったとのこと。

健康への効果は、エクササイズやダイエットの約3倍に当たり、なんと禁煙よりも「友人」のほうが影響が大きいというから衝撃的です。

1939年~約80年間にわたって、724人の人生を記録し続けたもの。ハーバード大学が行った「成人発達研究」です。全員が10代だった頃から調査を始め、定期的に体調や幸福度を尋ね、かかりつけの医師からカルテを手に入れたり、家族との会話をビデオで収めたりと、膨大な労力が注ぎ込まれました。

参加者の行く末は幅広く、弁護士や医者になった者、サラリーマンや工場労働者になった者ボストンのスラム街でホームレスになった者まで様々。彼らの多様な人生をすべてパッケージしたうえで「人間の幸福にとって最も大事なものとは?」の答えを数字で割り出したわけです。

研究のリーダーであるロバート・ウィルディンガー教授は言います。「彼らの人生から得られた、何万ページにもなる情報から明らかになった事はなんでしょう?それは富でも名声でもがむしゃらに働く事でもありません。私たちの体を健康にし、心を幸福にしてくれるものは「良い人間関係」です。これが結論です」

「成人発達研究」のデータでは、人間関係が悪い人に比べて、良い友人が多い人は3倍も仕事で成功しやすく、年収も高い傾向が見られました。

「良い人間関係は私たちの脳も守ってくれます。周囲との良い関係を80代までキープできた人や何か困ったときに助けを求められる相手がいる人は、はっきりした記憶を長く持ち続けられます。しかし、困ったときに頼る相手がいないと、早い段階で記憶力が低下し始めるのです」

孤独から来る炎症で体調が崩れ、さらには脳の機能まで衰えてしまうのだから、仕事のパフォーマンスが下がっていくのは当たり前の話。幸福、富、名声、健康は、すべて人間関係の土台があってこそです。最新の科学からみれば、「自然を大事に」や「友人を大切に」といったフレーズは、古臭いお説教ではありません。

遺伝と環境のミスマッチが起きた現代においては、「自然」と「友人」への投資こそが、もっとも費用対効果が高い行為なのです。

5、「偽物の自然」にもリラックス効果がある

自然風景
  • その① スタートとして効果的なのは、「自然音」または「自然画像」です。
    • 川のせせらぎ、木々を吹き抜ける風の音、雄大な森林の映像、波が押し寄せる海の光景など・・・

アムステルダム自由大学の実験では、60人の学生に複雑な数学の問題を解かせて精神的なストレスを与えた後、半分には緑が豊かな公園の写真を5分見せ、残りには一般的な都市の光景を眺めるように指示。それから全員の自律神経を計算したところ、公園の写真を見た学生は2倍も副交感神経が活性化し、心拍数の有意に低下していました。自然の写真を5分眺めるだけでも、かなりのリラックス効果が得られるようです。

2017年にサセックス大学が行った実験では、風の音や虫の声を5分25秒ほど聞いた被験者は、車のエンジンやオフィスのざわめきを聞いたときよりも、有意にリラクゼーション反応が起きていました。

  • その② 次のステップは、「観葉植物」を取り入れてみましょう。
生き生きとした植物

ノルウェーで行われた実験では、385人のオフィスワーカーの年齢や仕事内容といった因子をコントロールしたうえで重回帰分析(じゅうかいきぶんせき)(「重回帰分析」とは、統計学上のデータ解析手法のひとつ)を行ったところ、はっきりとした違いが見られました。デスクの上に観葉植物を置いた従業員ほど主観的なストレスが低く、病気で会社を休む回数は少なく、仕事の生産性まで高い傾向が見られたのです。

1998年のデータでは観葉植物の近くで働くオフィスワーカーは肌荒れが減ったとの報告も出ており、やはり副交感神経の活性化によって体内の炎症が治まったのが大きいようです。

さらに、観葉植物には幸福度や集中力を上げる効果も確認されています。350人のオフィスワーカーを対象にした実験では、観葉植物を前にしながら作業をした被験者は幸福感が47%アップし、作業の効率が38%も上がったそうです。心理学の世界では「注意回復理論」と呼ばれています。

観葉植物を選ぶときの参考(1989年にNASAが行った「クリーンエア研究」のデータ)

  • スパティフィラム(Peace lily)
    • 日陰に置く事でベンゼンとトリクロロエチレンの両方を吸収してくれる。
    • ただし、葉の部分にシュウ酸カルシウムが含まれており、体内に入れば体調を崩すことも。
    • 子どもやペットがいる家庭には不向き。
  • ポトス(Pothos)
    • ホルムアルデヒドを吸い込む効果が認められている。
    • 週に1度の水やりでも十分なので初心者向け。
  • セイヨウキズタ(lvy)
    • ホルムアルデヒドを取除くのに有効、
    • 直射日光でも日陰でも普通に育つが、
    • 毒性を持っているので子どもやペットがいる家庭には不向き。
  • キク(Chrysanthemum)
    • ベンゼンとホルムアルデヒドをフィルタリングしてくれる。
  • ガーベラ(Gerbera daisy)
    • ベンゼンとトリクロロエチレンの両方を吸収してくれる。
  • サンセベリア(Sansevieria)
    • ホルムアルデヒドをフィルタリングしてくれる。
    • 水やりが少なくてもいいのでメンテナンスは楽、
    • 水の加減を、間違えると枯らしやすい。
  • チャメドレア(Bamboo paim)
    • ホルムアルデヒドをフィルタリングしてくれる。
    • 直射日光を避ければ、毎日の水やりが不要なので育てやすい。
  • ツツジ(Azalea)
    • ホルムアルデヒドをフィルタリングしてくれる。
    • 現在のツツジは品種改良がされていて育てやすい。

これらは、観葉植物の空気を清浄化する働きを調べたもので、一部の品種には、ベンゼンやホルムアルデヒドといった大気中の有機化合物を吸い取る作用が認められました。つまり、観葉植物は天然の空気清浄機としてシックハウスの対策にも使えるわけです。

植物の清浄効果を高めるには、およそ10平方メートルごとに直径15~20cmの鉢植えを1個置くのがベストです。

6、私たちの身近にあるパワースポットとは?

公園
  • その③ 3つめのステップは、「公園」を積極的に活用しましょう。

2016年、クイーンズランド大学が行った研究では、1538人のオーストラリア人を対象に、全員が1年の間に公園などで自然と触れ合った量を調べたうえで、うつ病や高血圧の発症率と比べました。

  • うつ病の場合は、週に1回30分ほど自然のなかにいれば、それがない人に比べて発症リスクが37%も低下する。
  • 高血圧の場合は、週に1回30分のラインを超えたあたりがら症状が改善していく

これらの数値は自然の接触時間とほぼ連動しており、公園にいけばいくほど心と体は改善していきます。最低でも週1で30分は公園にいくのをベースラインにしつつ、少しずつ接触時間を増やしていくのがいいでしょう。

公園で軽く運動をするもよし、のんびり読書するもよし、1日のリラックスタイムの数分を公園で過ごしてみてください。ちなみに、公園や森林は、腸内フローラの改善にも重要な働きをします。

「自然の大気には大量の微生物が含まれており、空気中で代謝と増殖を繰り返している。花粉のような微粒子が微生物を運んでいるからだ。大気中の微生物は、私たちの呼吸器から体内に入って腸へ向かい、免疫システムに影響を与える」(グラハム・ロック博士)

自然の大気を吸い込むだけでも、私たちの腸内環境は改善していきます。まさに「公園」こそ、科学的に正しい「パワースポット」なのです。

7、オランダの実験でわかった自然生活の効果

環境04

最終的には自分のライフスタイルを崩さない範囲で、自然との接触レベルを最大化していくのが答えになるでしょう。

2016年、ドイツのセバスチャン・シュワルツ博士が興味深い実験をしています。健康な13人の男女をドイツの森林公園に送り込み、3泊4日だけ、旧石器時代に近い暮らしをさせたのです。

  • スマホやパソコンなどの電子機器はすべて没収
  • 朝食は抜いて昼食過ぎに根菜類、フルーツ、ナッツなどで軽い食事
  • 夜は野菜を中心に加熱調理した肉を食べる
  • 睡眠は必ず8時間より多く取る

結果は、被験者の体重は平均7.5%減り、内臓脂肪も14.4%改善、インスリン抵抗性(糖尿病リスクの指標)は57.8%も改善。たったの4日の実験としては、驚くべき改善ぶりです。

シュワルツ博士は言います。「旧石器時代に近い暮らしには大きなメリットがある。肥満や糖尿病といったメタボリックシンドロームのリスク要因を減らせるのだ。自己免疫疾患や神経炎症といった現代病は、自然の多いライフスタイルによって治療できるかもしれない」

オランダで行われた実験では、22~67歳の男女55人を夏のピレネー山脈に送り届け、10日ぶっ続けでアウトドア生活をしてもらいました。飲料は自然のオアシスからくんだ水だけを使い、給水のために水場まで毎日14キロを徒歩。食料のチキンや魚は生きたまま配給され、被験者は自分で動物をさばいて食べねばなりません。夜は地べたで寝るように指示され、みんな平均で7~8時間の睡眠を取ったようです。

その結果、体重が平均で5%減り、インスリン抵抗性は55%改善、善玉と悪玉のコレステロール値も19.3%ほど良くなっていました。

年に3~4回か月に1回のペースで3~5日ほど自然の中で暮らす時間を持てば、感情システムのメンテナンスとしては充分でしょう。それだけでもあなたのパフォーマンスは最大まで引き出されるはずです。

8、人間の脳は人間関係をつくることが苦手

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世の中には多くの「コミュニケーション術」が存在します。あアドバイス書が世にあふれている現状は、多くの人が人間関係に困っている事実を示しています。

「人間の悩みは全て対人関係の悩みである」(アドラー心理学)

なぜ私たちは他人とのコミュニケーションに悩まされるのでしょうか?それは、もともと私たちの脳が、見知らぬ他人とうまく人間関係を作れるように設計されていないからです。

人類は数百万年前から小さな集団の中だけで生きてきました。全くの他人と交流することは滅多になく、周囲には家族か顔見知りしか存在しません。このような状況で必要なのは、内側に向けた対人スキルだけです。家族や友人のように自分に好意を持っている相手との仲さえ深めれば良く、それ以上のコミュニケーション回路が備わっていません。

一方、人工の流動性が高まった現代では、外部との交流は日常的なことです。仕事場で毎日のように初対面の相手と会話したり、知らない人だらけの飲み会に参加したりと、誰もが外側のコミュニケーションに出ていくことを余儀なくされます。

それなのに、私たちの頭には外向きのコミュニケーション回路が内臓されていないため、本来は内向き用に作られたスキルセットだけで赤の他人と付き合っていかねばならないのです。これもまた、現代人を苦しめるミスマッチの1つです。

どう対処すべきなのでしょうか?

ここで大事なのが、「友人は多ければ多いほどいいのか?」というポイントです。2014年、進化心理学者のロビン・ダンバーは、学生たちの協力を得て、全員の電話の通話記録を入手。彼らの人間関係の変化を18か月にわたって追跡し続けました。結果は、ほとんどの学生が、いつも一定のコミュニケーションサイズを維持し続けているという事実です。

ダンバー博士は言います。「多くの人は、自分のネットワークに新たな友人が加わると昔のネットワークとはコンタクトしなくなっていく。親密な関係を維持するためには、多大な認知機能と感情の投資が必要になるのが大きな原因だろう」

ヒトの認知ソースは大勢の友人をさばくようにはできていないため、1回につき5人前後としか親密な人間関係を築けない、というわけです。

タンザニアのハッザ族やパプアニューギニアのキタヴァ族のデータを見ると、たいていの男はいつも3~4人の決まったメンバーとチームで狩りに出かけ、あとの時間は妻や子ども、両親などとコミュニケーションを取る作業に充てています。

1人の親友さえいれば孤独がもたらすダメージはかなり下がることがわかっています。自分にとっての真の理解者を1人だけ得られれば、それで十分なのです。具体的に親密な人間関係を築くためには何をすればいいのでしょうか?

本当に意識すべきポイントは3つです。「時間」「同期」「互恵」(「互恵」(ごけい)互いに特別の便宜・恩恵などをはかりあうこと)

9、「時間」をかけて脅威システムをオフにする

一緒に過ごす時間
  • その① 「時間」

2010年、アイオワ州立大学のダニエル・フルシュカ氏はレビュー論文で、「良好な友人関係を保つためには何が必要が?」を調べあげました。人間関係に欠かせない要素の中から、重要度が低いものを取除いていったのです。結果、最後に残ったのは、「一緒に過ごす時間の長さ」でした。

「近接の原理」(社会心理学者のセオドア・ニューコムが発見した現象)(人間は近くに住む相手ほど好意を抱きやすい)その理由は簡単で、近くに住むほど接触の時間が増えるからです。心理学者のロバート・ボーンスタイン氏によるメタ分析では、「特別な刺激がなくても他者と接触する時間を増やすだけで好意は増す」と結論づけています。

つまり、親密な会話を交わしたりせずとも、シンプルに相手の顔を見る回数が増えただけでも2人の仲は自動的に深まっていくわけです。私たちの脳は、相手の顔になじみさえあれば、反射的に警戒心を解くように進化してきました。よく知った顔を見るだけでも、感情の「脅威システム」はオフになり、代わりに「満足システム」が起動するのです。

孤独に悩む人には、たいへんシンプルな解決策です。内気で人見知りだったとしても、コミュニケーションに自信がなかったとしても、接触の時間さえ増やせば相手の好意は得られます。メタ分析によれば、この効果が最大になる接触回数は10~20回とのことです。このレベルを達成するまでは、まずは淡々を接触を積み重ねていきましょう。

10、「同期行動」することで絆が深まる

同期行動
  • その② 「同期」

2016年、オックスフォード大学が、「趣味で人間は幸せになれるか?」という問題について調査をしました。被験者は40代の男女が135人で、研究チームは実験のために「中年向けの習い事コース」を創設し、すべての被験者を「合唱クラス」「美術クラス」「創作文芸クラス」のいずれかに割り振りました。

7か月後、クラスを終えた被験者を調べたところ、すべてのグループにおいて、人生の満足度、自分に対する肯定感、炎症レベルの低下といった変化が確認されました。なかでも「合唱クラス」に参加した人の改善値が飛びぬけて高かったのです。

研究チームは、言います。「合唱クラスの成績が良かったのは、ほかの活動よりも他者との関係を結びやすかったからだろう。みんなで歌うという行為が、他のグループよりも全体感を高めてくれたのだ」

この現象を、心理学では「同期行動」と呼びます。体育の時間で習ったラジオ体操や組体操なども同じです。集団の結束を高めるために昔から使われてきたテクニックです。ナチスドイツや北朝鮮で行われるマスゲームなども同じ。

信頼感の研究で有名なスコット・ウィルターマウス氏によれば、現代社会で同期行動を活かすポイントは2つ。

  • ① 全員が近い場所で行うこと
  • ② 同じタイミングで同じ行動をすること

この2つの条件があえば、同期行動の内容はどんなものでもかまいません。正しく使えば祝福の歌となり、悪用すれば、独裁国家のマスゲームになります。

11、友情を育むには「互恵」が欠かせない

友情01
  • その③ 「互恵」(ごけい)

簡単に言えば、「好きな相手に利益を与えること」となります。

古代社会の友情について考えてみましょう。人間の認知が処理できる親友の上限が5人ならば、私たちの祖先は、いったいどんな相手を仲間に選んできたのでしょうか?

普通に考えれば、自分が生き延びる確率を高めるために、様々なスキルに対して分散投資を行ったことでしょう。狩りが得意な者、火を起こすのがうまい者、歌と踊りが達者な者、健康的な身体を持つ者など、何らかの得意分野を持った仲間が増えるほど、自分の遺伝子を後世に残す比率は高まるからです。

現代で言うならば、お金を持っている者、社会的な地位が高い者、頭が良い者、人間関係のネットワークが広い者などでしょう。友情を育むには利益の与え合いが欠かせません。この考え方を、心理学の世界では「同盟仮説」と呼びます。

人類が生き延びるためには、いざというときに助け合えるような仲間が欠かせず、そのため私たちは互いの利益になりそうな相手を友人に選ぶように進化してきたわけです。

私たちが他者に与えられる最強のプレゼントは「信頼」です。親密になりたい相手には効果的な「セルフディスクロージャー」を使いましょう。(社会心理学者のゲイリー・ウッド氏による古典的な研究)「セルフディスクロージャー」は、自分の悩みや秘密を隠さずに打ち明ける行為を意味し、「私はあなたのことを信頼しているからここまで話せるのだ」というシグナルとして働きます。

「セルフディスクロージャー」を効果的に行うための話題10種類のパターンです。

  • ① お金と健康に関する心配事
  • ② 自分がイライラしてしまうこと
  • ③ 人生で幸福になれること、楽しいこと
  • ④ 自分が改善したいこと(体系、性格、スキル)
  • ⑤ 自分の夢や目標、野望など
  • ⑥ 自分の性生活に関すること
  • ⓻ 自分の弱点やマイナス面
  • ⑧ 自分が怒ってしまう出来事について
  • ⑨ 自分の趣味や興味
  • ⑩ 恥ずかしかった体験、罪悪感を覚えた体験

相手の心の「友達ランキング」を上げる効果を持っています。同盟関係を結びたい相手がいたら、ここから好きな話題を振っていくといいでしょう。

まとめ

「自然」と「友人」の重要性

  • 「自然」
    • デジタルの自然を増やす・・・パソコンやスマホの壁紙を山や海うぃ写した画像に変更。作業中はノイズキャンセリングヘッドホンを使い、川や鳥の音を聞くようにしてください。1日1回はネットで大自然の動画に触れてみましょう。
    • 観葉植物・・・NASAが推奨する観葉植物を参考にし、いつもの作業場や自宅のリビングなど、常に目に入るところにおいてください。観葉植物は多ければ多いほど効果は高くなりますが、何もないよりは、鉢植えを1個だけでも置いたほうがメンタルへの影響が違ってきます。
    • 公園の活用・・・2日に1回は公園に出かけ、木々の中で最低10分は過ごしてください。余裕があれば、1ヶ月あたりの自然との接触時間を150分以上にまでのばすように意識してみるとさらに大きなメリットが得られます。
    • 太陽・・・最低でも1日に6~20分は陽光を浴びる。夏場は肌が痛むくらいの日焼けはしないように注意。
    • アウトドア・・・年に3~4回はキャンプや山登り、魚釣りなどに行く時間を持ちましょう。できれば2週間に1回は大自然に身を置く事を心がけ、可能な限り摂取時間を増やしていってください。
  • 「友人」
    • 接触時間・・・多くの研究では、平均200時間ほど他人とのコミュニケーションを重ねれば、たいていの人とは深い仲になれるという結論が出ています。まずは、200時間を目指して、気になる相手との接触を積み重ねましょう。(1ヶ月に20日間、1時間くらい職場で顔を合わせるとしたら、10か月くらいで200時間になるのでしょか・・・)
    • 同期行動・・・ランニングクラブ、合唱部、楽器サークルなど誰かと同じような行動を取れるコミュニティに参加してみましょう。こちらも200時間をめどに参加していくと、周囲との親密度が格段にアップします。
    • 信頼・・・社会心理学者ゲイリー・ウッド博士による「効果的なセルフティスクロージャー」10種類のすすめパターンを参考に、親密になりたい相手と深い会話を行うように意識してください。「怒りっぽい性格を何とかしたいんだよね・・・」など、相手への相談、という形で話を持っていくと、自然に親密さを深めることができます。

いかがでしたか?できるところから、少しずつ初めてみれば、なんか気が楽になったり、軽くなったりするかもしれません。しんどくなったら休憩をして、また始めるなど、自己調節しながら、毎日の生活を楽しく送れるお手伝いができれば幸いです。

次回は「ストレス」を解説していきます。ストレスの種類から、自覚症状、解決策などを著者の言葉を借りて、探っていきます。最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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