長生きをする人の共通点は?

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プログラミングされた脳のシステムの現代と古代とのミスマッチを、進化医学と科学的根拠にもとずき裏打ちされた論文より、食事からストレス、生活、病気まで様々な問題を著者が暴きだし、解決に導いてくれる手ごたえのある1冊を解説しています。「一見バラバラのように見える問題も、すべては1本の線でつながっています。」

「最高の体調」鈴木 祐(すずき ゆう)

新進気鋭(しんしんきえい)のサイエンスライター。1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアをテーマとした書籍や雑誌の執筆を手掛ける。近年では、自信のブログ「パレオな男」で、心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、3年で月間100万PVを達成。また、ヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。

第2章 「炎症」と「不安」

(本文引用、解説しています)

現代人にありがちな不調の原因は大きくわけて「炎症」と「不安」です。「炎症」と「不安」がいかにあらゆる問題を引き起こすのかを解説していきます。そして、食い違いのせいで、どれだけ現代人の生産性が低下しているのかを、具体的に紹介していきます。そこからさらに個別の対処法を見ていきます。

1、長寿な人の共通点は、体の「炎症レベル」が低い

ろうそくの炎02

1997年、フランスのアルルで、ジャンヌ・カルマン氏が122歳で息を引き取りました。1875年に生まれた彼女は「世界一の長寿」としてギネスブックに認定された人物で、エッフェル塔の建設シーンまでクリアに記憶していたと言います。

何よりすごいのは、年を取っても彼女が脳と体のパフォーマンスを維持し続けた点です。85歳でフェンシングを始め、100歳まで自転車でパリの街を走り抜け、114歳では女優として見事なセリフ回しを披露。

1988年に行われたゴッホ生誕100周年のイベントでは、実際にゴッホに出会ったことがある唯一の人物としてインタビューを受けたところ、「彼は不潔で性格も悪かった」というブラックユーモアで周囲を沸かせました。世界には、彼女のようなスーパー高齢者が少なからず存在します。

日本では、2017年に105歳で亡くなった、日野原重明、医師が有名でしょう。100歳を過ぎても現役の医師として診療を続け、テレビやラジオでもはっきりとした口調で高齢化社会への提言を続ける氏の姿には、パフォーマンスの低下はまったく感じられませんでした。

いったい、カルマン氏や日野原医師のような、スーパー高齢者は、何が違うのでしょうか?

2016年、慶応大学医学部のチームが、スーパー高齢者を探る研究を行いました。被験者は日本に住む85才~110才の高齢者1554人。血液検査や肝機能、細胞の劣化といった老化の指標をチェックしたところ、スーパー高齢者たちの体には、1つだけ大きな違いがありました。

一般的な高齢者と比べて、体の炎症レベルが、異常に低かったのです。

研究チームは言います、「この研究により、体内の炎症レベルを見れば老化のスピードが予測できることがわかった。これらのデータは、健康的に年を取るには「炎症対策」がもっとも大事であることを示している」

「炎症」とは、いったい何なのでしょう?

2、炎症が長引くと全身の機能が低下する

転んでヒザを擦りむいたとしましょう。その直後から患部にジクジクと液体が染み出し、軽い痛みとともに皮膚は赤く腫れあがっていきます。

これが「炎症」です。

炎症反応は、体がなんらかのダメージを受けたときに起きます。大事なのは、炎症が体の表面だけに起きる現象ではない点です。関節炎はヒザやひじの炎症で痛みが起きた状態ですし、アレルギーの場合は、外から入ってきた遺物に免疫システムが過剰に反応し、目の充血や鼻づまりといった炎症反応が起きた状態です。もっとも身近なのは「風邪」でしょう。免疫システムがウィルスと戦い続け、その結果として体には発熱や鼻水などの諸症状が起き、熱のせいで脳が正しく機能しません。

ところが、現代人のパフォーマンス低下は、もっとわかりにくい形で起こります。

風邪のように高熱で一気にかたをつけるのではなく、とろ火でジワジワと全身を煮込むような形で進行するのです。長期の感染やアレルギーのように炎症が続くと、人体を守るために免疫システムが激しい戦いを繰り広げるせいで、血管や細胞といった周辺組織にまでダメージがおよび、やがて全身の機能が下がっていくからです。戦争が長引いたせいで、水道管や電線が破壊され、やがて国力が下がっていくのに似ています。

3、内臓脂肪が減らない限り、体は燃え続ける

ろうそくの炎

ここで「内臓脂肪」について考えてみます。肝臓や腸といった臓器のまわりに、こびりつく体脂肪のことです。人体にとって、内臓脂肪は「異物」でしかありません。

そのため私たちの体は、内臓脂肪が増えると免疫システムを動かし始め、脂肪細胞が分泌する炎症性物質が臓器に炎症を引き起こします。しかし、いくら免疫システムが頑張っても、内臓脂肪は、食事や運動でカロリーを減らすしかないです。内臓脂肪が減らない限り、体はジワジワと燃え続け、炎症性物質で傷ついた血管や細胞が動脈硬化や脳梗塞の引き金になります。これが「メタボリックシンドローム」の発症プロセスです。

このタイプの炎症には、ハッキリとした自覚症状がありません。「なんだか調子が悪い」「よく寝たはずなのに、なぜか疲れている」といったレベルの、謎の体調不良として認識されるケースがほとんどです。そのせいで、多くの人は不調の原因がわからないまま時間を過ごし、炎症の導火線は爆発へのカウントダウンを続けています。

2017年にカロリンスカ研究所のチームが行った有名な調査を見てみましょう。研究チームは約5万人のスウェーデン人男性を集め、簡単な質問に答えてもらいました。「全体的に見て、現在のあなたの「健康状態」はどれに当てはまりますか?「とても良い、良い、普通、悪い、とても悪い」

続いて被験者の炎症マーカーを調べたところ、この質問に「体調が悪い」と答えた者ほど、体内の炎症レベルが高かったのです。要するに、主観的に「なんだか体調が・・・」と感じている人は、その時点ですでに体内が燃え盛っている可能性が大きいと言えます。

もし今の健康状態が「普通」よりも「悪い」か「とても悪い」だった場合は、体内の炎症はかなり進んでいます。謎の不調と炎症は、明確に連動しているのです。慢性炎症は、脳の機能にも激しいダメージを及ぼします。

代表的な例は「うつ病」です。その原因には諸説ありますが、有力視されていたのは、脳の化学物質に注目した説でした。セロトニンやドーパミンといった脳内ホルモンのバランスが崩れ、精神の不調を引き起こすという考え方です。

ところが、うつに苦しむ患者の中には、抗うつ剤が効かないケースがよく見受けられます。ミシガン大学の研究によれば、セロトニンが少ない人でもメンタルが健康な人は多く、逆に激しいうつ病なのにセロトニンが多い人も一定数が確認されています。

もともとうつ病で、セロトニンやドーパミンが少ない人は全体の4分の1にも満たず、脳内ホルモン仮説では説明がつきません。その代わりに注目され始めたのが「うつ病の炎症モデル」です。人体が何らかのダメージを受けてサイトカインという炎症性の物質が分泌され、脳の機能に炎症をあたえるという考え方です。

サイトカインがうつ病を引き起こす経路はまだわかっていませんが、過去に行われた2件のメタ分析でも、うつ病患者の多くに、CRPやIL6といった炎症マーカーの増加が確認されています。

メタ分析とは、過去に行われた複数の実験データをまとめて大きな結論を出す研究法のことで、科学的な信頼性が高い研究法の1つです。つまり、「うつ病の炎症モデル」は、現時点でかなり精度の高い仮説だと考えられます。

4、狩猟採集民の炎症状態はどうなっているか?

ろうそくの炎03

1989年、人類学者のスタファン・リンデベリ氏は、パプアニューギニアで暮らすキタヴァ族のフィールドワークを行いました。

キタヴァ族とは・・・漁獲とイモ類の栽培で暮らす伝統的な部族、今の地球上でもっとも旧石器時代のライフスタイルに近い暮らしをしています。

220人のキタヴァ族に血液検査を行ったところ、脳卒中や動脈硬化にかかるケースはなく、糖尿病の発症率はおよそ1%ほど(日本の発症率は15%)80代の高齢者が認知症にかかることもなく、がんの割合もほぼゼロに近いじょうたいでした。この他のフィールドワークでも、伝統的な部族には慢性炎症に由来する病気がほぼ存在しないと報告されています。

  • 日本人と狩猟採集民との違いをまとめると、
    • 狩猟採集民
      • 外傷や幹線による短期的な炎症がメイン。
      • 激しい発熱や嘔吐など、周囲から見てすぐにわかるような症状。
    • 現代日本人
      • 体内で延々とくすぶる長期的な炎症がメイン。
      • 誰にでもわかるような症状な表に出ず、
      • 少しずつ不調が進行する。

それにしても、人種が違うとはいえ、基本的に遺伝子的には大差がありません。にもかかわらず、なぜ私たちの体は炎症レベルが高いのでしょうか?いったいどのような要因が、あるのでしょうか?

ここで役に立つのが、ハーバード大学の古代人類学者ダニエル・リーバーマン氏が提唱したフレームワークです。リーバーマン氏は、古代と現代のミスマッチが起きるパターンを3つの枠組みでとらえました。

  • ①多すぎる・・・古代には少なかったものが、現代では豊富すぎる
  • ②少なすぎる・・・古代には豊富だったものが、現代では少なすぎる
  • ③新しすぎる・・・古代には存在していなかったが、近代になって現れた

この分類を使うと、複雑だった問題の見通しが良くなります。

「多すぎる」の代表的な例は「カロリー」です。先進国のデータでは、この30年で1日の摂取カロリーは増え続け、70年代からおよそ400kcalも増えています。同時に肥満率も増加を続け、過去にはなかったレベルで糖尿病や高血圧の発症率も上がっています。

600万年の歴史の中で、人類はカロリーが足りない環境に適応するために進化してきました。そのため、私たちの脳と体は「低カロリー」にはうまく対応できますが、「高カロリー」を処理するようには設計されていません。高カロリーの状態が続けば、あまったエネルギーは皮下脂肪や内臓脂肪として貯蓄され、先に述べた炎症サイクルにはまり込んでいきます。つまり、「多すぎる」は炎症につながるのです。

5、睡眠と炎症の関係ーカリフォルニア大学の分析

睡眠

現代の生活で「少なすぎる」ものはなんでしょう?

その答えは「睡眠」です。

現代人の睡眠は、量、質ともに悪化を続けており、2010年の国民生活時間調査では、日本人の睡眠時間は、7時間14分でした。これは、1960年のデータより、1時間少ない数字で、アメリカやドイツをふくむ先進18か国と比べても、韓国に次いで2番目の短さです。

睡眠不足と炎症の関係を明らかにしたデータも事欠きません。2016年にカリフォルニア大学が72件のデータをメタ分析したところ、

  • 平均の睡眠時間が1日、7~9時間の範囲を逸脱すると、体内の炎症マーカーが激増する
  • 夜中に何度も目が覚めてしまうような場合も、体内の炎症は増える

どうやら、現代人のスイートスポットは、7~9時間の間で、これより少なすぎても多すぎても体にはダメージがでるようです。

狩猟採集民の睡眠はどうでしょうか?2015年、人類学者のジェローム・シーゲル氏は、ナミビアやタンザニアで94人の狩猟採集民に活動量計をつけてもらい、日々の行動と睡眠のパターンを記録し続けました。わかったのは、睡眠の質の高さです。彼らの睡眠は平均6.9~8.5時間で、この点は先進国とかわりありません。

しかし、そのパターンは正確そのもので、日暮れから3時間後には必ず眠り、毎朝7時には自然と目覚めます。夜中に何度も目が覚めてしまうケースは1度も確認されず、みな1晩で完全に体力を取り戻していました。

目が覚めたのに寝床でダラダラしていたり、ボンヤリした顔をしながら狩りに出かけることもありません。彼らが使う言葉には「不眠」や「寝不足」のような単語すら存在しなかったというから驚きです。狩猟採集民には寝不足の感覚など想像もつかないでしょう。

6、「トランス脂肪酸」と「孤独」

トランス脂肪酸

最後に「新しすぎる」は何でしょう?

近代の発明はたくさんありますが、もっとも人体への被害が大きいのは「トランス脂肪酸」でしょう。

トランス脂肪酸は、植物油に水素を付加して作られた人工の油です。安価で保管が簡単な性質をもち、パンや揚げ物などに使われています。その害はほぼ実証済みで、総摂取カロリーのほんの1%をトランス脂肪酸に入れ替えただけでも悪玉コレステロールの数値は増加します。2005年のハーバード論文でも摂取量が多い人ほど、体内の炎症レベルが高いことがわかっており、いまやトランス脂肪酸の害に反対する専門家はいません。

トランス脂肪酸がここまで体に悪いのは、肝臓の働きを乱すからです。

大半のコレステロールは、脂質、糖分、タンパク質をもとに肝臓で作られますが、トランス脂肪酸は人体にとって「新しすぎる」せいで、上手く材料として使えず、結果として悪玉コレステロールが製造されてしまいます。いわば、肝臓がパニックをおこしたような状態です。

「新しすぎる」の事例は、物質だけにとどまりません。たとえば、「孤独」なども非常に現代的な現象です。ここ数年、科学の世界では「孤独」が大きな注目を集めるようになりました。

2015年に、ブリガムヤング大学が行ったメタ分析により、孤独感はタバコや肥満と同じぐらい全身に炎症を起こし、早死にのリスクを高めることがわかったからです。具体的には、孤独感が強い人は早期死亡率が26%も高まり、社会からの孤立が長引けば、その数字は32%にまでアップします。驚くべき悪影響と言えるでしょう。

人類は長らく社会的な動物として進化してきました。たいていの部族は100人前後のユニットで行動し、生まれから死ぬまでコミュニティーのサイズはほとんど変化しません。食事や睡眠はつねに仲間たちと一緒です。古代の厳しい環境では、グループからの離脱は死を意味しました。

現代の日本人にとってはプライバシーゼロの状況も、狩猟採集民にとっては適したライフスタイルなのです。そのため、私たちの脳には「人間関係が気薄な環境」に対応するためのシステムがそなわっていません。現代のように核家族や地域コミュニティーのような仕組みが消えつつある状況では、「孤独」は自分の生存を脅かすものとして認識されます。

トランス脂肪酸に肝臓がパニックを起こしたように、「孤独」を感じた脳もまた「新しすぎる」脅威に対して抵抗を始め、免疫システムを過剰に働かせた結果、全身は炎症の炎に包まれていくのです。放っておけば、体内の炎症は暴走を続けるばかりです。

7、不安障害の患者は15年で2倍に増加

認知症ケア05

1927年、作家の芥川龍之介は、「続西方の人」を書き終えたあとに大量の睡眠薬を飲んで命を絶ちました。

その際に書かれた遺書は、「誰もまだ自殺者自身の心理をありのままに書いたものはない。僕は君に送る最後の手紙の中に、はっきりこの心理を伝えたいと思っている。君は新聞の三面記事などに生活苦とか、病苦とか、或いはまた精神的苦痛とか、いろいろの自殺の動機を発見するであろう。しかし僕の経験によれば、それは動機の全部ではない。のみならず大抵は動機に至る道程を示しているだけである。少なくとも僕の場合は唯ぼんやりした不安である。何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安である」天才作家の鋭い感性が、自殺の心理を的確にとらえた名文です。

すべての自殺者が同じような心持で死を覚悟するわけではないでしょうが、ここには多くの現代人が抱える問題の一端が示されています。すなわち、「文明病としての不安」の問題です。現代が「不安の時代」であることは、多くのデータが示しています。

2013年にワシントン大学が44か国のデータをまとめたメタ分析によると、不安障害を患う人の数は全世界で13人に1人もの割合に達するとのこと。人生のどこかで不安障害に苦しんだ人の数までカウントすれば、発症率は3人に1人にまで跳ね上がります。

日本でも、不安障害の数は増え続けており、2011年の厚労省調べでは、不安障害の治療を受けている患者の数は約157万人。この数字は1996年の約2倍です。

2017年にWHOが世界26か国で行った調査では、不安障害の患者数は、ほぼ各国の近代化のレベルに対応していました。アメリカやオーストラリアでは、不安障害の発症率が8%だったのに対し、ナイジェリアのような発展途上国ではたったの0.1%にしかすぎません。

やはり「文明化」には、現代人の不安を促進する何かがあるのでしょうか?

8、「ぼんやりした不安」と「はっきりした不安」

不安な高齢者
  • 原始時代の不安
    • 原始のサバンナ、密林の暮らし
    • 猛獣や毒性のある植物、
    • 必要な獲物を仕留められるとは限らない、悪ければ、木の実や根菜類さえ手に入らない可能性もある。
    • しかし、選択肢があまりないので、シンプルな、不安に満ちた生活です。原始的な社会では、不安をどのように解決すればいいのかが明確である。
  • 現代の不安
    • ブラック企業にあたってしまった場合、転職を選ぶかどうか判断が容易ではない。
    • 年功序列が崩れた現代では、成果主義のプレッシャーが増えた、
    • さらに、コミュニケーションの不安があります。
    • SNSなどもあります。
    • 心理的なダメージの質と量は、古代の世界とは比べ物になりません。

ただし、現代と古代における不安の違いをもとに、「昔の暮らしには人間味があってよかった」という懐古趣味的な結論を導き出すのは、間違いです。

私たちにできるのは、環境の変化が人類にあたえた影響を探り、対応を考えていくことだけです。

9、不安は記憶力、判断力を奪い、死期を早める

航海

「ぼんやりとした不安」は、現代人の脳のパフォーマンスとQOL(人生の質)に多大な影響を及ぼしています。

  • その① 慢性的な不安はあなたの記憶力を低下させます。

2013年にインド国立生命科学研究センターが行った研究によれば、つねに何らかの不安を感じている人には、脳の「海馬(かいば)」が小さくなる現象が認められました。「海馬」は大脳辺縁系の1部で、新しい記憶や学習能力などに関わる器官です。

  • その② 不安は、あなたから理性的な判断を奪います。

物事がうまく進んでいるときには、私たちの脳は衝動や欲望を押さえつけることができます。しかし、不安感が高まると様々な化学物質の連鎖が起こり、より原始的な脳の働きが優位になっていくのです。不安が起きた瞬間に論理的な判断を失ってしまうケースは、誰にも心当たりがあるでしょう。

  • その③ 不安はあなたの死期を高めます。

2013年の観察研究では、約7万人の高齢者を10年にわたって追いかけたところ、日常の不安レベルが高い人は、心疾患や脳卒中のリスクが29%も上昇していました。その原因ははっきりしないものの、研究チームは「不安が強い人は自分を大事にしないからではないか」と推測しています。不安な気持ちが、自尊心を低め、過度な飲酒や運動不足につながる、というわけです。

最後に、不安は不安を呼び込みます。ぼんやりとした不安のせいで、脳の「扁桃体(へんとうたい)」が敏感になっていき、やがて少しのストレスにも、過剰な反応を起こすようになるのです。

ぼんやりとした不安は、うつ病から自殺へと進む確率が高い「死に至る病」でもあります。脳のパフォーマンスが下がるだけならまだしも、命まで落としては笑えません。

果たして、ここまで現代人が不安をこじらせたのはなぜでしょう?真に不安を解決するには、「文明病」の視点に立ちつつ、現代と遺伝のミスマッチを探らねばなりません。そのために、「そもそも不安とは何か?」について考えてみましょう。

進化論では、ヒトが持つ性質や器官は、すべて何らかの理由があって生まれたと考えます。どんなに小さな器官にも独自の役割があり、眉毛は額を伝う汗から目を保護する役割を持ち、爪は神経の保護や手足のグリップを高めています。かつては不要な臓器とも言われた盲腸にも、近年では、腸の働きを正常化する作用があったことがわかってきました。

すべてに存在理由があるのです。

この考え方は、私たちの感情にも当てはまります。たとえば「怒り」の存在理由はなんでしょうか?現在において「怒り」はネガティブな感情として捉えられがちですが、ユタ大学の人類学者、エリザベス・カシュダンは次のように言います。

「攻撃性は人類に備わった基本的な性質だ。怒り、復讐心、悪意といった感情は、特定の環境で、個人の生存と生殖の機能を高めるために進化してきた」

すべての生物は生き残るために進化を繰り返し、自分の遺伝子を次の世代に受け渡すことを最終目的にしてきました。つまり、長寿と繁栄です。古代の世界を生き抜くためには、「怒り」の感情は絶対に必要だったでしょう。すばやくアクションを起こすには、「怒り」のパワーが欠かせません。つまり、生存や繁殖の危機に対して行動の勇気を与えてくれるのが「怒り」の本来の機能なのです。

10、危険を知らせるアラームとしての役割

アラーム

それでは「不安」の存在理由はなんでしょう?人類の進化のなかで「不安」はどのような役割を果たしてきたのでしょうか?

結論から言えば、「不安」の機能は「アラーム」です。

これは人類にとって最も重要な機能の1つです。不安がなければ、人類は未来の危険になすすべがなく、ほどなく絶滅に至ったでしょう。一方で「遊び」や「楽しさ」といったポジティブな感情がなくても、すぐに生存の危機には結びつきません。もちろん、喜びのない人生など送りたくはありませんが、少なくとも人類の進化においては、ネガティブな感情のほうが役に立ってきたのは間違いありません。その証拠に心理学の世界では、「ポジティブな感情よりもネガティブな感情のほうが強度が高い」という現象が昔から確認されてきました。

有名なのは、2004年にロードアイランド大学が行った実験です。研究チームは、有名IT企業で60個の事業部を調べ、収益の高さや、顧客の満足度をもとに優秀なチームと、ダメなチームの違いがどこにあるのかをチェックしました。

結果は、最も収益が高かった事業部のメンバーは、仕事中にポジティブな発言をする割合が、ネガティブ発言の6倍も多かったのです。つまり、「来月の利益は最悪だ・・・」のように不安なコメントの悪影響を1つ打ち消すためには、「君の意見には大賛成だ」といったポジティブなコメントを6つもぶつけねばならないことを意味します。それぐらい、ネガティブな感情は私たちの心をかき乱す劇薬です。ちなみに、もっとも収益が悪いチームのポジティブ:ネガティブの比は0.36~1でした。2つのコメントの量が同じだった場合でも私たちのパフォーマンスは大きく低下するようです。

不安の質が変わった現代では、かつてはうまく働いた機能が動作しません。「ぼんやりした不安」のせいで、アラームが誤作動を起こし、やがて頭の中で、非常ベルが鳴りっぱなしの状態になっていくからです。

11、農耕を始めて身長が20センチ低くなった?

砂時計

「現代の不安における遺伝のミスマッチとは?」

この問いは、言い換えれば「私たちは何にそこまで、おびえているのか?」ということです。体調の衰え、金銭的な問題など、一見バラバラのように思える不安の原因には、どのような共通点があるのでしょうか?

その答えは、ひとことでいえば、「未来の遠さ」です。

  • いつか体を壊すのではないか・・・
  • そのうち生活資金がなくなるのではないか・・・
  • やがて大地震で家がなくなるのではないか・・・。

どれも、明日にでも起きる悲劇かもしれませんし、もしかしたら死ぬまで何もないかもしれませんが、いずれにせよ、ただちに行動しなくても死ぬわけではないでしょう。しかし、人間に備わった「不安」は、あくまで目の前に迫った危険への対策をうながすためのシステムです。先の例のように、今の瞬間よりも時間軸が未来にある危険に対しては、そもそもプログラムが対応していません。その結果として、遠いアラームの誤作動が引き起こされるわけです。

いったんこうなると、やがてアラームの誤作動は常態化し、自分が何におびえているのかすら、わからなくなってしまいます。芥川龍之介を死に追いやった「ぼんやりとした不安」は、人体のプログラムエラーが生み出した副作用でもあります。

不安に満ちた現代人の時間感覚は、いつから変化を見せたのでしょう?

紀元前5世紀にヒポクラテスが不安障害の記録を残している事実を見れば、人類史の早い段階で大きな変化が起きたと考えたほうがよさそうです。

ここで話は2万年前にまでさかのぼります。実はこの時期、古代人類は後にも先にもないターニングポイントをむかえました。

それは、農耕の開始です。狩猟採集民が農耕生活を始めたのは1万1000年前のこと。西アジアの一帯で麦の栽培や羊の放牧がスタートし、やがて世界中にひろがっていきました。農耕の出現により、人類の生活は一変します。その日暮らしの狩猟採集生活から、定期的に食料が手に入り、飢えに苦しむことも激減。ここまで人類が繁栄できたのはまぎれもなく農耕のおかげです。

しかし、農耕は様々な弊害も生みました。栄養不足、ビタミン、ミネラル不足。ギリシャやトルコで見つかった古代人の骨から推測すると、氷河期の原始人は、男性が約180cm、女性が150cmの身長だったのに対し、紀元前3000年頃には、男性が約160cm、女性が152cmまで低下しています。

マサチューセッツ大学の研究でも、古代狩猟採集民に比べて、農耕民は50%も歯のエナメル質が減り、3倍もの骨折率が高かったことがわかりました。これらのデータは、いずれも農耕民の深刻な栄養不足を示しています。

さらに、農耕は「社会階層の出現」という副作用も生みました。食料の保存が可能になったせいで、リソースの偏りが発生し、持つ者と持たざる者の区分けが出来上がったのです。ギリシャのミケーネ遺跡から出土した紀元前1500年の化石を見れば、この時期すでに人類に貧困の差が出ていたことがわかります。

農耕とは不平等の起源でもあるのです。そして、農耕がもたらした変化のなかでも、もっとも現代人への影響が大きいのが「時間感覚の変化」です。

農耕を効率よく進めるには、長期的なタイムフレームが欠かせません。秋から初冬にかけて種をまき、変化のない冬を耐えて待ち、ようやく初夏に収穫する・・・。1年も先のことを考えて行動する習慣は、それまでの人類にとって、まったく未知のものでした。ここにおいて、人類は初めて「遠い未来」を思い描かねばならなくなります。

ところが、困ったことに、人類の遺伝子には「遠い未来」に対するシステムが備わっておらず、「不安」という短期用のプログラムを駆使しながら、どうにかやりくりしていくしかありません。天体の運行をもとに、時計やカレンダーを編み出したのも、システムの不備を補うための発明だったのでしょう。

12、アフリカ人には未来という感覚がない

平等

もちろん、私たちに原始人の時間感覚まではわかりません。化石や出土品を見ても彼らの感覚までは調べようがなく、「農耕による未来の出現」は、あくまでもっともらしい仮説の1つです。

しかし、ここに1つ興味深い事例があります。ケニア出身の牧師であるジョン・ムビティ氏によれば、「アフリカ人には未来の感覚が存在しない」というのです。

1970年の著書「アフリカの宗教と哲学」に、彼は、こう書いています。「アフリカの伝統的な観念によれば、時間は長い「過去」と「現在」とを持つ2次元的な現象であり、事実上「未来」を持たないのである。西洋人の時間の観念は直線的で、無限の過去を、現在と、無限の未来とをもっているが、アフリカ人の考え方には実際上なじみのないものである。未来は事実上、存在しない。未来の出来事は起こってこないし、実現していないのだから、時間を構成しえないのである。」

ムビティ氏はケンブリッジ大学で博士号を得たエリートであり、あくまで西洋的な時間の考えも熟知したうえで「アフリカ人には未来の感覚がない」と言い切っています。今の日本人には、想像もつかない感覚でしょう。

言われてみれば、いかにも狩猟採集民に「未来」の感覚は薄そうです。たとえば、ナミビアで暮らすブッシュマンは、朝は必ず同じ時間に起き、男は獲物を探して草原に向かい、女は木の実や果物を集めに森の中は入っていきます。

食料を探す時間は4時間ほどで、あとは日陰で仲間と談笑したり、子どもとゲームをして遊ぶのが平均的な日常です。その暮らしぶりにはほとんど変化がなく、1年先はおろか明日の計画を立てて動くようなこともありません。狩猟採集民の時間感覚は最大でも1日が上限で、あとは同じようなタイムフレームの繰り返しと言えるでしょう。

2000年には、オックスフォード大学の人類学者ヒュー・ブロディ氏が30年にわたってイヌイットやネイティブ・アメリカンの暮らしを調査した上で、こんな結論を導き出しています。

「人類学者の見るところ、狩猟採集民はいま現在に神経を集中する。行動を決めるのは、目の前の獲物であって、またの機会を待つ、あるいは、長期的な戦略に立って意思決定を下すことはない。社会人類学者のジェイムズ・ウッドバーン氏が言う、当座の欲求を求める人々と、充足を将来に引き延ばす人々の違いがここにある。当座の充足を求める狩猟採集民の特徴は、彼らの時間認識と不可分である。いま現在に関心の焦点を据える(すえる)と、過去と未来はそこに起きている事象を迂回(うかい)する。狩猟採集民はすべてを現在をとらえることで時間を超越するのである。」

つまり、狩猟採集民のタイムフレームは、あくまで「いまここ」がメイン。現代人のように数年先を思い描くようなことはないために未来の感覚が生じないわけです。永遠の現在を生きていれば、遠い未来の不安に悩むこともありません。「時間の超越」とは、そういうことです。

13、ピグミー族の「時間割引率」は非常に高い

タイムイズマネー

ロンドン大学のグル・デニール・サラーリが、コンゴで暮らすピグミー族の「時間割引率」を調査した実験です。時間割引率とは、行動経済学で使われるアイデアで、「将来の価値をどれだけ割り引いて意思決定をするのか?」の割合を意味します。

「今、1万円手に入るのと、1年後に1万1000円手に入るのと、どちらを選ぶ?」

方程式にすれば「1万1000円÷X=1万円」1年間の割引率は10%という答えが導きだされます。今手に入る1万円を選ぶと、1年後に手に入る10%の利益を捨ててしまった、というわけです。

割引率が高い人ほど、現在の価値も高く、悪くいえば「短絡的」(たんらくてき)、良くいえば「いまを生きている」ことになります。

実験結果は、ピグミー族の時間割率は、コンゴの都市部で暮らす者より5倍も高かったのです。

近代化された住民の時間感覚に比べて、ピグミー族は徹底的に目の前の「いま」に集中し続けているのです。

サラーリ博士は次のように言います。「狩猟採集民の世界では、必要なものを分け与えるルールが確率している。そのような状況では、大きな報酬を待つのには逆に危険な戦略だ。狩猟採集民の社会には、シェアリングシステム、所有物を公平にわかちあうために生まれた社会的な適応の産物だろう。平等を重んじるシステムを維持することで、狩猟採集民は環境の変化に対応しているのだ」

狩猟採集社会では「平等」の価値観が重要視されており、そのようなシステムのなかでは未来の感覚が薄い方が生存に有利だというわけです。こういった助け合いのシステムも、狩猟採集民の不安が暴走しない一因なのでしょう。

とはいえ、すでに「未来」の存在を知ってしまった現代人が、いまさら「時間の超越」に挑むのは不可能な話です。現代の環境の中で、未来の不安に立ち向かうには、出来る範囲で、「現代」と「古代」の時間感覚のズレを調節していくしかありません。

まとめ

  • 「文明病」を引き起こす要因には、「炎症」と「不安」がある。
    • 「炎症」とは、ヒトの細胞レベルで起きる火事のようなもの。
    • 「炎症」はあらゆる病気、問題を引き起こしている。
    • 「炎症」は、脳のプログラミングのシステムが、古代と現代とのミスマッチによって起こる。
  • 考えを整理するのに役立つフレームワーク「現代は古代に比べて・・・」
    • その① 多すぎる
    • その② 少なすぎる
    • その③ 新しすぎる

これに当てはめて考えると、頭の中がすっきりとまとまる。

  • 「不安」とは、
    • 「ぼんやりした不安」と「はっきりした不安」がある。
    • 「ぼんやりした不安」は現代人の脳のパフォーマンスとQOL(生活の質)に多大な影響を及ぼしている。
    • 「ぼんやりした不安」の答えは、ずばり、「未来の遠さ」におびえているのである。

この問題も現在の生産性を下げている要因である。しかし、この問題は独立した問題ではなく、それぞれが互いに影響を与え合い、負のスパイラルを描いている。

負のスパイラルを断ち切る方法を、次回より具体的に解説していきます。有名、著名な大学のエビデンス(科学的根拠)にもとずく論文を読破し、結論に導いています。そして著者の実践、実験により「最高の体調」に導いてくれます。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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